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GRアワード2021優秀賞・八王子市/キャンサースキャン/ケイスリー「SIBを活用した検診受診率向上による住民の健康増進」(前半)【日本GRサミット2021 レポート】

全国青年市長会と連携し、先進的な官民連携に取り組んでいる全国の若手市長の皆さまを登壇者に迎えて毎月GR勉強会を開催する日本GR協会は、2021年の集大成となる大規模イベント「日本GRサミット2021」を12月26日に開催しました!

サミットのテーマは「官民連携の最前線!GRアワード発表 ~トップランナーが描く地域の未来図~」ということで、県知事就任後、数々の改革やコロナ対策で群を抜く活躍をしている千葉県・熊谷 俊人知事をメインゲストにお迎えするとともに、初めての試みとして、全国の官民連携事例から社会課題解決の好例となる事業を「GRアワード」として表彰しました。

その他にも、行政の現場を理解し、民間のビジネス環境を把握しながら課題解決にあたるプレーヤーに多数登壇いただき、具体的なメソッドを学んでいただく機会になったのではないでしょうか。

このイベントレポートでは、日本GR協会・陶山 祐司理事(株式会社Zebras and Company 代表取締役)がモデレーターを務め、八王子市・医療保険部 成人健診課長 滝口 敦 氏、主査 新藤 健氏、株式会社キャンサースキャン 代表取締役社長 福吉 潤 氏、ケイスリー株式会社 代表取締役社長 幸地 正樹 氏にご登壇いただいたセッションの内容を詳細にお届けします。

(執筆:日本GR協会 GRオフィサー・勝見 恭子)

初めに:本事業の概要と背景

(陶山)
官民連携の優良事例を紹介するGRアワードの2事例目となります。
これからご紹介する、八王子市のSIBを活用した大腸がん検診・精密検査受診率向上事業は、全国初となるSIBの事例であり、この事業を皮切りに日本でどんどんSIBが広がっております。この草分け的存在であるお三方に本日はお話を聞かせていただきます。まずは、自己紹介と本事業の概要や背景をお話しいただけますでしょうか。

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がん検診に力を入れていたからこそ、解決したい課題

(滝口)
八王子市成人検診課の滝口です。
GRアワード優秀賞、ありがとうございます。取り組みが評価されて嬉しく思っております。
八王子市は、もともとがん検診に力を入れており、科学的根拠に基づいて「胃がん」、「肺がん」、「大腸がん」、「乳がん」、「子宮がん」の検診を行っております。
それぞれ、対象の年齢の方に通知を差し上げて実施をしていただくのですが、がん検診は受けていただくのが目的ではなく、それ以上に、がんの疑いがあると検診で結果が出た方が、その後にきちんと精密検査を受けていただき、実際にがんなのか、がんではないのかを明らかにし、早期発見、その後の治療に繋げていくことが何よりも大事だと感じておりました。

そのあたりは、八王子市は制度設計にも力を入れており、大腸がんを除く4つの検診では、精密検査の受診率が100%近くまで運用できておりました。

しかし、当時、「大腸がんは精密検査の受診率が80%弱であり、他のがん検診と比較しても、精密検査を受けるハードルが高いと思われている方が多い」、という点に非常に課題意識がありました。

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大腸がんは、近年非常に日本人でも死亡率が高くなってきており、しっかり精密検査を受けてほしいと対応を検討するものの、いかに大腸がんの精密検査を受けていただくか、その対応策に行き詰まりを感じていたことが、この事業を始めるきっかけになりました。これまでの行政独自の試行錯誤ではなく、民間の力を借りながら、新たな取り組みをやるべきなのではないかと思い始めたのが2015年末ごろです。

おりしも、期を同じくして担当者が成果連動型官民連携モデルの勉強会に参加し、経済産業省ヘルスケア産業課からがん検診をフィールドにSIBモデルの事業実施の要請があったことで庁内の機運も高まり、2016年頃から事業を開始したというのが背景です。

会社設立の原動力になったSIBへの想い

(幸地)
ケイスリー株式会社の幸地です。
八王子市の本事業においては、中間支援という役割で、案件を導入する全体の設計、コーディネートを担当しました。
はじめに、SIBの土台となる「成果連動型の民間委託」とは何なのか、簡単にどんなスキームなのかをお話しさせていただきます。
通常、行政と民間企業の契約に関しては、仕様書に記載されている決まった仕事を実際に行えば、あらかじめ契約で定めたお金が「全額」払われるという契約形体です。実際に行った仕事が、市民や地域にどんな影響を与えたのか、というところまでは見なくてもいい契約です。

しかし、SIBに関しては、成果に応じてお金を支払うという契約形態になります。例えば、「はがきを100枚送れば、100万円払いますよ」という契約が通常の形態ですが、SIBでは、「はがきを送った結果、がん検診に行ったかどうかまできちんと調査し、本当にがん検診に行った人が増えたのだったらお金を払う」という、契約形態になります。「きちんと成果を評価して、成果に応じてお金を払っていく」という契約のため、成果が出なかったらお金が支払われないというリスクが事業者にはありますが、逆に成果を出すことができればプラスの報酬もあるという仕組みになっています。

行政側からすると、「成果が出なければお金を払わなくていい」というリスクヘッジができるため、成果が出るか分からない新しい取組に関してチャレンジしやすくなるスキームがSIBです。

そのためSIBでは、成果を図る指標をどのように設定して、何に基づいてお金を支払うか、金額はどう決めるのかというところが重要なポイントであり、八王子市さんの場合は、実際の過去のレセプトデータを使って、早期にがんを発見した場合の医療費と、進行してしまってから発見した場合の医療費を比較し、「早期にがんを発見できれば187万円の医療費削減効果がある」というところを根拠として、それに基づいて指標の設計をしていきました。

最終的には、3つの指標「大腸がんの受診率」「精密検査の受診率」「早期がんの発見者数」を定め、それぞれについて、成果に応じて支払いが発生する形を採りました。

背景として、自己紹介的に、SIBへの想いも含めてお話しさせていただきます。

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以前は、コンサルティング会社に勤務しており、10年ぐらい官民連携の多様な事業支援をしていました。
その時に、モヤモヤしていたことは、行政は構造的に、どれだけ予算を取るのか、予算を採ったらどうやって使っていくのか、というところに考えが行きがちで、一方事業者は、契約さえ取れれば、あとはどれだけコストを抑えて、利益を得るのかというところに、考えが行きがち、この構造が何とかならないのかなぁとずっと考えていました。

そんな時に、2014年にイギリスでSIBが始まっているのを知って、「これはすごいな」と感じました。行政も、民間事業者も、お金を払う投資家も、「みんなが地域をよくしよう」だったり、「市民にとっていい取り組みをしよう」という、「成果をどうやったら高められるか」という考えに代わっていく、素晴らしいツールだと思い、日本でも是非導入したいと2014年から動き始めました。これが、僕がケイスリーを立ち上げたきっかけです。

早期発見で医療費も削減できる本事業を、「より広く展開したい」という願い

(福吉)
株式会社キャンサースキャンの福吉です。
マーケティングやナッジ理論の手法を活用して、がん検診や特定検診の受診率を向上させる事業を、全国の自治体と取り組んでいます。
本事業では、八王子市さんと共に、大腸がんの検診及び精密検査の受診率向上に取り組みました。アプローチですが、勧奨方法としては、パンフレットを作って、住民の方にお送りして、受診を促すという形をとりました。具体的には、前年度の大腸がん検診の未受験者数万人の中から、勧奨効果が高そうだと判断できる方12,000人をAIで抽出し、その方に郵送でパンフレットをお送りしました。加えて、これまでの大腸がん検診で要精密検査となったものの、精密検査を受けていない方、3,119名に改めて精密検査の受診勧奨を行いました。

パンフレットには、一人一人名前を印字し、オーダーメイド受診勧奨を行いました。リスク要因として、65歳以上、飲酒、BMIが高い、運動不足、喫煙、検診未受診等、大腸がんになってしまうこととの関連が高いと研究で分かっている関連因子を掲示し、その方がどのリスクがあるかチェックボックスにチェックを入れて、個人に送付しました。個人のリスク把握は、八王子市さんから過去の検診結果をいただいて、その問診項目から抽出しました。

結果、昨年度の大腸がん検診の受診率が9%だったところが、26.8%まで向上できました。成果としては、受診率の指標で19%の上限を超えた26%だったので、満額の244万円をお支払いいただいた形になります。

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精密検査の受診勧奨に関しては、パンフレットに、「大腸がんの可能性が否定できないため、絶対に精密検査を受けてください」という強めのリスクをお伝えする文面を記載するとともに、リスクの高さを定量的に表示しました。通常、がんに関しては、可能性が「ある」、または「ない」というゼロか1の可能性しか印字しておりませんでしたが、検診結果で基準値に対して血液量がどのぐらい多かったかという個人別のリスクを表示し、丁寧に精密検査の受診勧奨を行いました。

結果、精密検査の受診率は、前年度77%のところを82%まで上げることができ、こちらも296万円のお支払いをいただきました。

上記、2つの受診勧奨によって、当年は84名の市民の方の早期がんを発見することができました。

SIBでは、成果指標を作ることが非常に難しいし、重用なところだと思います。今回は、幸地さんもお話しされましたが、八王子市のレセプトデータを使って、早期がんの発見によって187万円の医療費削減効果があるという数字を根拠に、指標を設定しました。しかし、後に京都大学の先生にレセプトデータを見ていただいたところ、進行がんの転移したがんの治療まで含めて医療費を算出すると、早期に治療を始められることによる医療費削減効果は187万円どころではなく、614万円とのことでした。改めてこの数字からも、今回の精密検査の受診率向上の結果、事業者への委託費を支払っても、十分な医療費削減効果があったのではないかと考えています。

大腸がん検診を受けた人は、そのうちの8割が早期のがん発見につながっており、非常に意義のある検診であり、改めて本事業による受診勧奨は、医療費を削減することもできるし、根治可能な段階で発見することができる非常に意義のある事業だと感じています。


(後編に続く)

以上、GRアワード優秀賞 八王子市/キャンサースキャン/ケイスリー「SIBを活用した検診受診率向上による住民の健康増進」セッションの前半の内容をお届けしました。

・SIB導入の壁、それを乗り越えられたポイント
・事業の改善点 今後に向けて
・おわりに(編集後記)
など、イベントレポートの後編はこちら。

また、当日の様子はYouTubeでも公開しているので、ぜひご覧いただければと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=G3GZ1S4lnP8

最後になりますが、日本GR協会が企画するイベント情報はPeatixやFacebook、そしてTwitterで随時発信中です。

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