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作品は遺り続ける
1月や2月に観劇のチケットを取るのはリスキーだ。
もしも雪が降って、バスや電車が動かなくなったり遅延したり、あるいは健常な人なら行けても車椅子では行けないということもある。それでも会場のある地域では大した積雪がなく、いつも通り上演されてたりしたら、高価なチケットをじっと見ながら私は泣くしかない。
昨年の9月、実際にそのようなことが起きてしまった。台風だった。会場のある都内はほぼ問題なかったが、私の居住している都道府県では各所で冠水したり、電車の遅延や混乱、一部地域では被害等も出た。
そんなこともあるので、チケットを取っても当日までは不安なことが多い。
にもかかわらず、1月に1枚のチケットを取っていた。
ミュージカル『オペラ座の怪人(ケン・ヒル版)』、絶対にどうしてもというわけではなかったが、なかなかないバージョンの来日公演、しかも「ブリテンズ・ゴット・タレント」で一躍有名になったポール・ポッツが来るというのだ。
”ケン・ヒル版”と書かれているのには意味がある。
小説『オペラ座の怪人』の初のミュージカル化作品であり、よく知られているロックポップス調が使われたあの『オペラ座の怪人』より以前に制作されている。より原作に近いと言われている演出版である。
そして内容も同じ小説をベースにしながら、両者は少し違っている。
ケン・ヒル版を作った劇作家で演出家のケン・ヒルは、既に1995年に亡くなっている。自分が亡きあと、こんなふうに誰かが引き継いで上演してくれることを彼は想像していただろうか。
モノを創って世に放つ、作品が世の中で評価されようがなかろうが、名前が売れようが売れまいが、作品が世に遺り続ける。作者の生きた証が遺される。私はそのことがとても羨ましい。
そしてまた、拙い私の文章や絵や仕事で制作したあれやこれやも遺り続けるのだと思うと、若干身震いがするような気持だ。もちろんケン・ヒルのような仕事ができるわけではない、ゴッホやピカソや紫式部のように長い間人々に愛される作品が作れるわけでもない。
ただそこに遺り続け、誰に評価されるものでなくても、手を抜いたものを世に遺したくはない。
生きた証が妥協の産物にならぬよう、気を引き締めていかねばならぬ。
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