また会おうね
私にとってのフランス語は挫折の象徴だ。
他にも挫折したことはあるのに、フランス語は諦めきれなかったのかもしれない。
たとえば中・高校生のとき、私は将来音楽に携わる仕事がしたいと思い、それなりに努力はしていた。
けれど叶わなかった。
当時オンラインなどというものはないので学校には通えないし、デジタルで音楽を作る環境も今より全然整っておらず、当然配信してみんなに聴いてもらうなんていう機会もなかった。
何より才能がなかった。
もしも特筆すべき才能が私にあったなら、周囲の大人たちはあらゆるバックアップをしてくれたことだろう。
だから諦めてしまった。そして、またそれを始めようとは思わなかった。
挫折した物事に再び挑戦するのは大きなエネルギーが必要だ。
しかし、何故だか、1年後の生活でさえ見通せない私の暮らしで、1年後に来るかどうかわからないチャンスのために、1年間努力するという大きな賭けをした。
時間もお金も使った。
勉強やレッスンそのものが辛いということはなかったが、疲れた日のレッスンや、すごく落ち込んで人と話をしたくない日はテキストを開くのがしんどかった。
そうして迎えた1年後が先日の15日、Salon de Parfumの会場だった。
「調香師のJean-Michel Duriez氏とフランス語で会話をする」
その目的をとうとう果たすことができた。
この1年間、彼に全くコンタクトを取らないわけではなかった。
メールではあるが、最初は英語で、少しずつ拙いフランス語で彼に思っていることを伝えたり、災害や暴動の際には安否確認を送ってはいた。
しかし実際に会うのは当然のごとく1年ぶりである。
正直なところ、目標の達成度は100%ではない。
私のレベルはまだまだ実践的な会話するには足りず、周囲の音も大きかったから80%は聞き取れなかったし、緊張のため予めイメトレしていた言葉も出てこなかった。
それでも私たちの会話はすべてフランス語だったし、会話は"出来"た。
私の会話力など5歳児のそれより低い。それでも彼は英語に切り替えることなく、怒涛のようにフランス語で話しを続けてくれた。
そして用意していたプレゼントを渡すと、子供のように驚いて喜んでくれた。
Jean-Michelは世界トップクラスの調香師であり、他の調香師からも尊敬されているような人である。
そんな彼と、なんの地位もなく、まして香水の仕事に携わっているわけでもなく、単なる香水好きの私がどうして彼と繋がったのか、私は今でも不思議でならない。でもこんな奇跡みたいなことは本当にあるのだ。
1年後の私はどうなっているだろう。
1年後、また会いたいな。
「じゃあ帰るね」と言った私に、Jean-Michelは「また来年ね!」と見送ってくれた。
Cher Jean-Michel, merci et à bientôt ! (親愛なるJean-Michel、ありがとう、また会おうね)
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