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小さな住人と的外れな感想(短編小説)


暑い。

「だから自転車移動は嫌だ」

独りごちる峯岸は自販機の前で自転車を止めた。
立ち止まると余計に、汗が滲んで白いシャツを肌に貼りつかせた。

こんな季節にパンツの後ろポケットに財布などしまっておこうものなら、牛革が汗を吸いに吸って仕方がないと判断したのだろう。
リュックを下ろし手前のファスナーを開けた。

コインケースをひらくと、残念ながらきっちりと支払えないようだ。
峯岸は500円玉を取り出す。

「あっ」

チンチャリンと500円玉は跳ねる。
コロコロと転がって自販機の下に潜り込んだ。

「まじかよ」

舌打ちをした峯岸はアスファルトに手をついて身を屈めた。
たしかに10円ならまだしも、500円を失うのはなかなかの痛手である。

アスファルトすれすれまで顔を下げ、覗き込んだ先は薄暗い。

_____歓声が聞こえた。
ワールドカップで日本が勝利したような盛り上がりだ。

その暗闇の中から。

峯岸は眉間にシワを寄せて目を凝らす。
人が見えた。それも何十人も。

しかし、人とは言っても峯岸のサイズとまるで違う。
彼らから見たらおそらく峯岸はウルトラマンくらいだ。

峯岸は何も言わずに立ち上がり、何も買わずに自転車を走らせた。
黙々とペダルを漕いだ。

長い下り坂に差し掛かり、ペダルを漕ぐ足を止め両手を離す。
強く風が当たり、額を露わにしながら大きく息をつく。

「どうやってあの金使うんだ」


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