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六本木WAVE 昭和バブル期⑩

l  猫を預かった話 328

 六本木交差点から目的の店までは歩いてもそれほど遠くはなかった
ただ雨がぱらついてきたので我々は店の前からすぐにタクシーに乗りその店を目指した。
その店は霞町の交差点の角にあり、西麻布のど真ん中にあった。

世の中がクラブ全盛になるのはこの頃からさらに5年ほど先なのだが、その先駆けともいうべきお店が西麻布近くにはいくつかあった。

RED SHOES、TOOL'S BARそして「328(さんにっぱー)」 

https://www.youtube.com/watch?v=RAf13H2Qf-4&t=1s

 ここには会社の遊び人の先輩に何度か連れてきてもらっていた。
キャンディがその名を出した時
「一、二度行ったことはある…」
と答えて彼女の誘いに対して新鮮に敬意を表した。
もちろんクラブという場所柄、常連も多かった。

 アパレル関係…この当時の流行り言葉で言えばハウスマヌカンや広告クリエーターやデザイナー、エディター、カメラマンたまにテレビで見るタレントやモデル、ミュージシャン? ゲイのカップル、それ以外に謎のお金持ちの少年、少女たち、さらにとっても怪しいものを売っていた方々…そんな業界人?と言われるとんがった人々が印象的な「踊り場」である。

 私はたまに立ち寄るあまり気の利かないフリー客であったから、店主も従業員もこちらも顔を知っている程度でそれほど親しくはなかった。

 この328は地下の空間であった。
店に入るやいなや、うす暗い照明の下、ニューウェーブやオルタナというか聴きなれないBGMの中で、長いカウンターが見え、店の中ほどにある薄暗いやや広めの踊り場では揺れている若い男女の姿が見えた。
 

Icehouse - Hey Little Girl

 
「レイちゃん! いらっしゃい!」

キャンディがドアを開けて入るとすぐCOMME des GARCONSの真っ白なシャツを着た従業員のワンレンの男の子がにこやかに声をかけてきた。
 
 瞬間的に自分の方をやや鋭い目線で一瞥したようにも感じられ、急に汗が流れた。
彼女も親しげに「久しぶり!」と軽く返していた。
 (つづく・・・)


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