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広告代理店がブラックな理由をお教えします!

もう少し若い頃、まさにそのような環境におりましたので、お答えしたいと思います。

広告代理店は、いわゆる「エアービジネス」です。これは自社の製品や確固たるサービスを持たない「空気のようなビジネス」のことで、基本「身ひとつ」で収益を取っていく仕事です。もし無くなったとしても生命の維持への必須項目ではない業種の一つです。

言うならば、商品は「人そのもの」です。ビジネスコンサルティングなども同じカテゴリーになりますね。ご存知の通り、この業界には非常にブラックな部分も多くありますが、これには事情と理由があるんです。でも、またそれをうまく回避していく手法もあるんです。


ブラックな理由

(1) 広告代理店は顧客企業(クライアントと言います)とのビジネスで成り立っています。その多くは東証一部企業、外資系企業、行政関連、余裕資金のあるベンチャー企業などですが、クライアント企業からお金をいただくためには、それら企業の要求に応えて行かなければなりません。それがビジネスの需要と供給です。自社(広告代理店側)のやり方だけでは業務は成り立っていかず、相手企業のやり方、文化や価値に合わせて要求通りに動きます。当然クライアントからは無理なことも言われるし、緊急事態なども頻繁です。そして頑張って何か成果を上げてもそれが当然のように思われます。

今でこそ少なくなってきていますが、週末も仕事が入ったり、夜遅くから打ち合わせが始まることなどは日常茶飯事です。そう、広告代理店は非常に弱い立場なのです。だからこそ学歴やキャリア、強い個性や見かけなどで武装したり(華やかそうに見せたり)、国際的な人材や帰国子女を集めたり、カタカナ言葉を連発させて「存在価値」を上げるようなイメージ作りをしたりします。(もちろんそうでない人も多いですよ 笑)

(2) 取引金額の大きな会社や仕事もあれば、その反対の企業や仕事もあります。また広告会社も一般の企業と同じように、財務経理・総務・人事・IT・法務・レセプションなどのバックオフィス部門があります。勿論その人たちは利益を生みません。営業一人分の年収の4倍以上を稼がないと、会社として成り立っていかないとも言われています。ですので、営業(AE: アカウントエグゼクティブ、SAE: シニアアカウントエグゼクティブなどと呼びます)担当者は、多種多様な業界のいくつものクライアント企業や業務を抱えて日々奔走しています。と言うことは、担当している多種多様な企業から、様々な要求の連絡が随時入って来て、それらに対応をしているわけです。だから広告代理店の人たちはいつもスマホで話をしていたり、PCでカチャカチャやっているのです。

しかも、そのクライアント企業との仕事はいつなくなるか分かりません。もちろん契約書を交わしますが、クライアント企業が引くときは通常1ヶ月前の告知でお金の縁が切れます。いくらその企業へ情熱を傾けて貢献していたとしても、契約が切れたらそれまでなんです。なので、既存クライアント企業の仕事をしつつも、同時進行で渉外活動もしていきます。通常はグループでその準備をすることが多く、よくあるのは通常の仕事が終わった夜などに集まってリサーチやミーティングを重ね、プレゼン資料を作ったりします。そして見込み客である企業に出向いてプレゼンテーションをするのです。仕事を得るためなら、法律や社会規範を犯さない範囲でならなんでもやります。それがこの業界におけるビジネスの現実です。

(3) 広告代理店と聞くとテレビCMや雑誌の広告をイメージしますが、仕事はそれだけでは決してありません。相手企業のホームページを制作したり、クライアント側のSNSの管理をしたり、取材、危機管理、新製品発表の記者会見の運営、決算発表、イベントの開催、社内報の作成、パンフレットの作成、相手企業のイベントや営業の補助まで、「マーケティング」や「マーケティングコミュニケーション」と言われる業務範囲は全て範疇です。

クライアント企業が一部上場企業で、フレックス制、午後6時前に終業の超ウルトラホワイト企業だとしても、残った仕事は全てビジネスパートナーである広告代理店の担当者に回されることが多いです。金曜日の夜にその仕事が回されてきて、それが緊急(アージェントと言います)の資料作りで、さらに月曜の朝までに納品、なんてことはしょっちゅうです。もちろんクライアント企業の担当者は週末は仕事をしません。

広告代理店側の人事が「働きすぎに注意してください。きちんと休んでください」と営業担当に伝えても、クライアント企業からお金をもらって自分たちの給料が支払われている以上、強制はできません。身体や精神状態の心配をしつつも、暗黙の了解で見て見ぬふりをしているのが現状なのです。

(4) マーケティングやマーケティングコミュニケーションと言われる業務は、時間がエンドレスです。いくらやっても仕事はあり、そしてやってきます。工場のようにその日の業務が終わったら以上終了、と言うわけにはいきません。またその仕事の要求度やレベルも高く、それに応じてストレス度合いも上がっていきます。特に日本の場合は、マーケティングにおいて物ではないもの、すなわち「コンサルティングや頭脳ワーク、英知の提供」に対する価値は著しく低く、その割には無理難題を平気でお願いされることが多いです。そこに金額という対価の価値を見出すことができれば別ですが、多くはそうではないため人材を雇うことが難しいのも、ブラック化に拍車をかけています。(いつどうなるか分からないため、その場凌ぎのために派遣社員を多く雇う傾向があります。)

このような社会のピラミッド、レイヤーが存在していることが、広告代理店がブラックになってしまう大きな理由です。

ブラックな環境にいる理由

しかし、なぜそのような仕事を好き好んで選んでいるのでしょうか?ブラックで嫌なら、なぜさっさと辞めないのでしょうか?マゾなのでしょうか?そこもお伝えした方が良さそうですね。

広告代理店は、色々な業種や企業を担当するため、飽きやすい人にはぴったりの職種です。またその企業の中枢とも言えるような仕事内容を扱ったり、普段の生活では会えないような方や外部の人たちとも仕事を通して会う機会があるため、貴重なキャリア経験をする機会が非常に多いのです。色々な人との一期一会の出会いから学ぶ経験は何ごとにも代えがたいものです。

そして特に若い人にとっては、これは将来へ繋がっていく貴重なキャリア形成の一つです。そう、自分の成長のためにもなるのです。だからこそブラックな環境でも頑張ってしまうし、それどころがブラックなんてなんのその、のような強固なメンタルが構築されていきます。これはよい面もありますが、昨今の時代を鑑みるとそうでない面も多くありますね。(そのような環境に合わない人やコミュニケーションが嫌いな人は、早々に去っていきます。)

またもう一つこの業界で働くメリットがあります。それは他社へ転職しやすいことです。広告代理店が担当する企業は、多くは名の知れた企業、著名外資系企業などが中心です。一番多い例は、そのようなメリットを享受し、広告代理店での経験をフルに生かし、ネクスト・ステップとしてクライアントのような企業側のマーケティング部へ転職することです(代理店ではない企業を、インハウスと言います。例えば:代理店側で製薬会社の広報をサポートしていた人が、その後製薬会社の広報担当として転職すること。)

さらに現在何が好きなのか分からないような人でも、代理店にいる間は色々な業界や企業を担当するので、いつまでもモラトリアムな状態でいることができます。もしそのつまみ食いの中で自分に合う業界に出会うことができれば、その好きな業界へ転職しちゃえばよいのです。広告代理店出身者は、インハウス側からヘッドハントされることがあるほど、とても好まれるのです。(表面上はキャリアを生かしてほしいという感じですが、本音は辛い経験をしてきているから、耐性があるからというのが本音だと思います。)

またその他にも、若くて身体が動くうちは広告代理店で頑張って資金を貯め、ある程度たったら全く別のキャリア(お店を開業したり、地方へ移住して農業など全く別の仕事へついたり)という人もいます。営業という最前線を離れ、子会社やバックオフィスへ移籍する人もいます。そしてそれまでの人間関係を生かしながら、会社を立ち上げたりフリーランスになって、独立して頑張っている人も多いです。それでも仕事が巡ってくるのがこの業界の面白いところです。

でも、あんなにブラックな環境だったのに、なぜかその時の環境や人との出会いが懐かしくなってしまうのも、広告代理店の醍醐味だと思います。ブラックを超越した経験を得てきたからだと感じます。

ブラックな環境を回避する自分なりの方法

同時に、現在そのようなブラックな環境下で働いている広告代理店の営業担当者も、次第に「ブラックな環境を回避する自分なりの方法」を自然に身につけていきます。

例えば、
◉夜7時以降は一切メールや電話に出ないようにする(そう言う人なんだと言うことを自らアピール。またそうなるようにクライアント企業を躾ける)。
◉朝方・夜型のどちらかに特化することで生活バランスを保つ。
◉仕事以外の人間関係を形成していくことでメンタルのバランスを保つ。
◉一旦退職してMBA大学院や専門学校に通ってパワーアップし、さらに高給が得られる企業へ転職する、もしくは出戻る(広告代理店は一般企業と違って「フレキシブル」な会社が多いのです)。
◉非生産的で無駄な動きや仕事をしないように心がける。
◉普段は失敗やボロが多いがこれといった時には成功するような術を戦略的に身につけることで、相手企業から逆に重宝されるようになる。
◉時間管理術を身につけることで上手に仕事をサボる。
◉会議という名のサボり時間を取り入れる(クライアントには別クライアントの会議でと忙しさアピールをしつつ)。
◉メールは随時チェックせずにまとめてチェックする(もしくはすぐチャチャっと返信して溜めないようにする)。
◉休暇前にはその間はすぐに返答できない旨を記載した応答メールを作っておく…などなど色々あります。

昨今はリモートが多くなってきたので、ブラックな環境を回避する自分なりの方法はさらに多様になってきているのではないでしょうか。

以上、広告代理店がブラックな理由を述べさせて頂きました。基本的には、日本の多くの企業や組織がもっとホワイトになっていけば、広告代理店のような受け身の業界も、川の流れのようにホワイトに倣っていくと思います。もう少しマクロ的な視点で言うならば、日本社会がもっと寛容性や多様性、創造性(個)を重視して、人に優しいおおらかな社会になっていくことができれば、働き方や生活にもゆとりが生まれていくのではないでしょうか。

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