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睡眠薬を飲み過ぎている可能性が高い患者さんの事例(後編)


前編&中編の振り返り


皆さんいかがお過ごしでしょうか。

『薬剤師』や『仕事』をテーマに書く日曜企画。

2週に渡ってお送りしてきた
『睡眠薬飲み過ぎている可能性が高い患者さん』

安心してください。
今回が最後です笑

ということで、後編に入る前に、
2回分の内容を簡単にまとめてみました。

・80歳代男性 妻と二人暮らし
・処方内容は眠剤2種類
・地域の診療所や病院を転々としている
・薬局内の歩行や立ち上がり動作はゆっくり
・朝8:30〜9:00頃来局され待合室で寝ていることも
・処方日数14日に対して7〜10日で受診される
・病院と情報共有した(情報提供書や電話にて)
・病院から訪問依頼がくる
・訪問介入を拒否される
・患者さんの気持ちを引き出す

ざっとこんなところでしょうか。
前編と中編も添付しておくので、
よろしければ読んでみていただければと存じます。

ということで、後編をはじめます。


◼️地域の保健師との情報共有


患者さんの生活状況


患者さんの気持ちを引き出せた日。

病院と情報共有するとともに、
患者さんの住む地域の保健師とも、
情報共有する必要性を感じました。

情報共有する中で、
患者さんの生活状況を知ることができました。

患者さんが住んでいるのは復興住宅だったので、
保健師や住民が主導となり、
さまざまなイベントが行われていました。

・こうしたイベントにも顔を出さないこと
・保健師の訪問も嫌がられること
・近所に娘さんがいて定期的に様子を見にいっていること

といった患者背景を確認できました。

生活状況が見えにくい、
ということがわかった感じです。

少なくとも家族の介入があることは救いだなぁ
なんて感じました。

保健師と情報共有した内容は、
病院とも情報共有しました。

今回の事例のように、
解決が難しい場合には、
情報共有しながら様子を見るしかないのかなぁ、
と感じています。


◼️またもや来局間隔が…


プラセボ投与を考える


そうして様子を見る状態が続く中、
またもや元の来局間隔に戻ってしまったのです。

前編でも記載したように、
薬を変えることで別の病院に変えることも考えられ、
様子を見るしかないのかなぁと思っていた矢先、
処方医の先生から電話がありました。

「乳糖とかプラセボ使いたいんだけどどう思う?
 ただ、粉薬とかは拒否しそうだから、
 乳糖の錠剤とかないのか?」

プラセボ効果に期待する方法はありだなぁ、
と思い、先生と電話で会話していきました。

あいにく、錠剤タイプの乳糖が当薬局になく、
別の方法を考えました。

「ミヤBMとか整腸剤とかいいんでないか?
 錠剤もあったよな?」

この患者さんは便秘もあるため、
先生はそのように発言されたのでした。

そこで当薬局の薬歴を確認しました。

すると、過去にミヤBM錠を調剤した記録を発見。
この患者さんは薬の説明書を確認するタイプであり、
過去に出された薬の場合は、プラセボ効果を
期待できない可能性が高いと考えました。

ちなみに、この患者さんは、薬の説明書だけでなく、
病院からもらった処方箋に記載されている
薬の名前も何度も確認する
方です。

そして、次のように提案しました。

「ビタミン剤とかはどうですか?
 例えばメコバラミンであれば、
 過去に処方になっていません。
 ただ、患者さんにお渡しする処方箋と、
 実際に保険調剤する処方箋を
 別にしてもらえないでしょうか?
 例えば、スボレキサントの処方箋を患者に渡して、
 実際に調剤する処方箋はメコバラミンで、
 処方箋を後でいただけないでしょうか?」

なぜ処方箋を2枚にするか、その理由も説明すると、
先生は快く了承してくれました。

ちなみに、患者さんが持ってきた
スボレキサント記載の処方箋は廃棄し、
メコバラミン記載の処方箋で保険請求しました。


◼️プラセボ効果を高めるために


強い薬だから


先生と話し終え、
しばらくすると患者さんが来ました。

処方箋を受け取る際、患者さんの様子を見ると、
処方箋をじっくり時間をかけて見ています。

「…睡眠薬…なんだよね…?」

そう質問され、処方箋を受け取り、
「あ、薬変わったんですね、
 そうです、眠りの薬です、今から作りますね」

と声かけして調剤を開始する。

処方箋を見ると、
エチゾラム錠0.5mgも一緒に出ており、
プラセボ1種類では効果が出ない可能性が高く、
実際に睡眠障害に使用される薬が
処方されていることに若干安心しました。

『若干』としたのは、エチゾラム錠というと、
薬剤師からすると依存性や耐性や筋弛緩作用など、
あまり良くないイメージを持つことが多いからです。

プラセボ効果について先生と色々と話したので、
エチゾラム錠に関しては、実際に服用してもらい、
その後に考えることにしました。

ということでエチゾラム錠の話は置いておき、
話をプラセボに関して戻しましょう。

実際にお渡しする薬はメコバラミンで、
薬の説明書にはベルソムラが記載なのですが、
薬の説明書には『薬の写真』が記載されます。

そうするとヒートのままでは写真と異なるので、
ヒートから出して分包することにしました。

その際、分包の印字には以下のように記載しました。
『強い薬のため注意』
『1日1回まで』

そして患者さんに薬をお渡しする際に、
「薬の説明書と見た目が違うけど、
 この(ヒートの)中に入っているのが
 これ(分包したメコバラミンの裸錠)です」

そう伝え、次のように続けました。
「この薬は強い薬で、先生は強い薬を
 あまり出したがらないので、
 うちの薬局だと数名しか出てない薬です」

患者さんはゆっくりと頷きました。
「以前も言いましたが、強い眠りの薬は、
 転びやすくなったり、朝起きても眠気が残ったり、
 効きすぎてしまうので、注意してくださいね、
 先生も、私も、それが心配なので」

「わかりました…」と言って患者さんは
薬局を後にされました。


◼️その後どうなったか?


どうなるかドキドキ


患者さんに新しい薬をお渡したときには、
次の受診日の前に電話をして、
その内容を医師と情報共有することが多いです。

ただ、この患者さんの場合は、
あまり介入されたくなさそうなので、
電話確認をしないことにしました。

受診されるかな?
病院変えたりしないかな?
処方日数通りに来るかな?

ドキドキしながら患者さんを待っていると、
病院から電話が来ました。

「〜さん、今日来ました!
 なんか動きがシャキっとしていて、
 本人も調子が良いって言ってます!」

ちょうど薬がなくなる日のことでした。

いやぁプラセボ効果ってすごいですね。

厳密に言うとエチゾラム錠の効果もあるのですが、
薬が効きすぎていたことを考えると、
その変化にはプラセボ効果があったかなぁ、
そう思います(ノセボ効果かな?まぁいいか…)

今まで、尊敬する青島周一先生の講義で、
プラセボ効果については学んでいたものの、
ここまで効果があるとは。

正直言って、こうなるとは思いませんでした。

あえて『強い薬』とか
『飲みすぎると転倒する』とか伝えることで、
プラセボ効果を期待した面もありましたが、
過去に実際に経験したプラセボ症例は、
全く効き目が出なかったので本当に驚きました。

お薬をお渡しする際、患者さんから話を聴くと、
「眠り?まずまず眠れます」
と答えられました。

そして薬局待合室のベンチからスッと立ち上がり、
スタスタと機敏に歩く姿を見て、
『くすりのリスク』は問題なさそうかなぁ
今後も継続的に患者さんが受診されれば良いなぁ
なんて思いました。

眠りに関しては『まずまず』
という表現をされていたので心配もありました。

ちなみに、その後どうなったと思いますか?

ちょうど、ここ最近来局されたのですが、
日数が早まることなく、調子も良さそうです。

今後も患者さんと対話していきたいと思います。


◼️振り返って見て


患者さんの気持ちに寄り添う


この患者さんの場合は、
気持ちに寄り添えたかどうか…
自信を持って言えないなぁと個人的には思います。

ただ、プラセボ効果というかノセボ効果というか、
そうした側面が見られた背景には、
患者さんの気持ちを引き出そうとしたことが、
影響していたのかもしれないなぁなんて、
希望も含めて思う
次第です。

その後は前述のように、
保健師とも情報共有しました。

今後の課題としては、
この患者さんが入院した際などに、
プラセボ効果を期待しての処方である点を、
どのように情報共有するのかだと思っています。

引き続き、患者さんと対話しながら、
信頼関係を構築できるよう関わっていきたい、
そう思います。

こんなポンコツな私ですが、もしよろしければサポートいただけると至極感激でございます😊 今後、さまざまなコンテンツを発信していきたいと思っておりますので、何卒よろしくお願いいたします🥺