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【連載】釜石と私〜第2回:釜石の景色に、どこか八王子に似た空気を感じた日のこと〜


釜石に着いた夜


その日は市内のホテルで一泊した。

一夜過ごす中で、これからの決意を新たにする。


なんとか大学卒業できたものの、
薬剤師の国家試験に落ちてしまった私は、
4月から8月末まで釜石で働き、
9月以降は八王子に戻り、
薬剤師国家試験予備校に通うことになっていた。


そんな不甲斐ない私を快く受け入れてくれた会社。

その恩義に応えるためにも今度は失敗できない。

大学受験浪人を4年間した私は、そう決意した。
社会人として働きつつ、勉強しようと。


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翌朝、ホテルから見る釜石の景色は新鮮だった。

昨日見た風景は夜のそれだったからだ。

窓から見えるモクモクと湧き出る煙。
製鉄所から出ていたものだ。
真っ先に目についたのだった。


朝食を食べ終え、携帯電話に連絡があった。

会社の専務が釜石を案内してくれるとのことだった。

支度を済ませてロビーで待つ。

専務とは、八王子にいた頃、
電話で話をしたことがあった。

内容は主に勉強のこと。
卒業試験や国家試験のことだった。
心配してかけてくれたのだと思う。

電話越しに声を聞いただけで、
実際に会ったことはない専務。

私は比較的社交性のある方だと認識していたが、
初対面ということもあり緊張感を隠せなかった。

これからお世話になる会社の専務であり、
国家試験前の電話で、試験結果に対する心配と期待を
感じ取っていたことも緊張させた要因だったと思う。

期待に応えられなかった申し訳なさを感じながら、
専務の到着を待っていた。


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「おはよう、昨日は眠れた?」

専務は笑顔で話しかけてくれた。

「車の中で話をしながら釜石を見て回ろうか」

釜石市内に5店舗の薬局を持つ有限会社中田薬局。

調剤薬局として保険調剤を行いながら、
学校薬剤師、OTC、在宅医療、
なども積極的に行っていた。

この会社を選んだ理由の1つだ。


もう1つ大きな理由があった。

それは釜石を拠点とするラグビーチームである
『釜石シーウェイブス』のスポンサーであり、
専務はチームの理事を務めていたことだ。

釜石でお金を貯めて、
ドイツにサッカーの指導者になるために留学したい、
と考えていた私としては、スポーツチームの経営など
裏側を体験できる良い機会になると思っていたのだ。

車中では、薬局のこと、釜石のこと、
ラグビーのこと、などを話した。


車の中から見える景色は、
どこかで見たことのあるような、
既視感を感じさせるものだった。

どこか八王子の風景と似ている。

海こそないものの、
野山といった自然が豊富な八王子市。

釜石の風景に懐かしい気持ちになった。

そうこうしている内に、
これから住む社宅に案内された。

三階建てのアパートの1LDKの一部屋。

勉強をしながら働くにはちょうど良い大きさだ。

親元を離れ、見ず知らずの釜石で、
期待と不安とともに、
私の社会人生活がはじまるのだった。


こんなポンコツな私ですが、もしよろしければサポートいただけると至極感激でございます😊 今後、さまざまなコンテンツを発信していきたいと思っておりますので、何卒よろしくお願いいたします🥺