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ヤマトきゅんと恋に似たもの

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#小説

アンチ・ヒーロー

アンチ・ヒーロー

「自分の身ぃくらい自分で守れや」

上品そうな親子と煌びやかなマダムが行き交う街で、除け者のゲテモノたちが集う激安丼ぶり屋。
牛丼に紅しょうがをこんもり乗せて始まった、ヤマトのお説教タイムにモモは思わず耳を塞いだ。

「何でそんなヒドイこと言えるの」

「当たり前のことやんか。一体今まで何人が警察に見殺しにされてきたと思う?」

「ハ? どういう意味?」

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンの

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ココナッツミルクとバレエシューズ

「チューしとく?」

ぶん殴ってやった。

だいすきなのに、つい手が出てしまう。

わたしの悪い癖だ。

「いってぇぇ」

「おとといきやがれってんだ」

「呼んだのはミナミの方だろ?」

脳味噌にこびりつくチーズッタッカルビ、否、おこげ、否、記憶。

小指を絡ませて永遠を誓う少年少女。

ヤマトは幼馴染。

野蛮なギャル男だ。

「今日は悲しいことがあったの」

「なんだい、言ってみな」

腕を

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日が昇れば世界は元通りとかそんなうまくいかないって

日が昇れば世界は元通りとかそんなうまくいかないって

「この世界でお前と話通じなくなったら終わりやから」

「え?」

聞き取れるかどうか微妙な声量で、ヤマトが言った。

ミーンミーンミーン。

アブラゼミが窓の外で盛大な賑やかし。

ヤマトの横顔は相変わらず綺麗だ、とミナミは感心した。

髪を後ろにまとめ、ピアスホールから光が差し込んでいる。

「それ、あける時痛くなかったの?」

「もんどりうったよ」

「だろうね」

近所の溝川から拾ってきたビ

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熱帯夜の少年少女

ヤマトはチェッカーズを聴きながら、首の回らない扇風機に向かってメンチを切っていた。

ご機嫌斜めなヤマトもそれはそれで見ていられるな、と思いつつミヤビは「どうしたん? バイトで嫌なことでもあった?」と聞いた。

「……確かに、確かに俺はこないだ店長から『この失敗作が!』って言われたけど、それは問題じゃないねん」

にゅい、っとほっぺたを引っ張りヤマトが答える。

傍にあるスマホの最終履歴は東京都内

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