熱帯夜の少年少女
ヤマトはチェッカーズを聴きながら、首の回らない扇風機に向かってメンチを切っていた。
ご機嫌斜めなヤマトもそれはそれで見ていられるな、と思いつつミヤビは「どうしたん? バイトで嫌なことでもあった?」と聞いた。
「……確かに、確かに俺はこないだ店長から『この失敗作が!』って言われたけど、それは問題じゃないねん」
にゅい、っとほっぺたを引っ張りヤマトが答える。
傍にあるスマホの最終履歴は東京都内で合法かつ無料で車を停める方法というどこかの誰かのブログだった。
原付しか持っていないくせに、車欲しさに妄想を爆発させたヤマトは駐車場の心配ばかりしている。危機管理能力がバグっているみたいだ。
「じゃあ、何を顔しかめることがあるんよ」
「俺らの関係について、明らかにしようと思って」
「今さら? じょーだんはよしこさんだわ」
ミヤビとヤマトは、恋人でもセフレでもなかった。ただAVを貸し借りし合うという関係。
好きな人に振られっぱなしのミヤビと、世界に振り向いてもらえないと嘆くヤマト。
利害関係を遂行しつつここまでやってきた。
まるで風俗の待機所? ディストピア?
先行きのないこの部屋は巨大なブラックホールだ。
ちりんちりん。
隣の家の風鈴が鳴った。
「おあいこでしょ? あたし達、いつだって。どっちが上とか下とか右とか左とか、ないじゃない」
「うん、ない。右斜め横とか左縦ツモとか抑止力レスラーとか、なんもかんもない」
「いつもの調子やん」
「暑いとあかんな、俺」
本物の車が手に入ったら、その時こそ二人の関係は変わるかもしれない。
今はまだこのまま、締めつける暑さに揺蕩っていたいのだ。
ハマショーの『MONEY』がすきです。