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心の病についてのリアル展覧会をオンラインでやってみました:台湾編③

現在、台湾の台北(タイペイ)では心の病をテーマにした観客参加型のユニークな展覧会が開催されています。 展覧会のタイトルは「エネルギッシュ:故障中の人生試験場」。

ある有名なアーチストの人生と作品をとりあげながら、現代アーチストや精神障害を経験したひとたち、来場者、たくさんの個人や団体が参加し、この展覧会を一緒につくり上げました。

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「混乱や障害の中で生きていくってどういうことだろう?」
「自分にとって”ホーム”とは何だろう?」
「自分が死んだ後も残したいものって何?」

精神障害が恥だとされる社会。

心の病や障害を経験した当事者団体の人たちや現代アーチストなど、多様な人が関わり精神的な障害や偏見から抜け出すことなどについて話あう展覧会です。

タイトルの”エネルギッシュ”には、"元気いっぱいエネルギーにあふれている”と言う意味と同時に、"(何か物事がおきた時も)その裏側にある人間的な価値を信じれるよい精神” と言う意味もあるそうです。(オリジナルタイトル:有精神・失序人生試験場 )

天才。… でも?

展覧会のアイコンとしてとりあげられたのは今から500年前、明王朝の著名なアーチストジョイさん(ジョ・イ/ 徐渭/Xu Wei)

水墨画がもっとよくしられた画家でもあったジョイは、画家以外にも、詩、戯曲、文筆などでも多彩な才能を発揮して“天才”とも言われました。

でも彼が有名なのはもう1つ理由があって。

気品あふれどこか優雅さを感じる彼の絵のイメージとは異なり、ジョイの人生はとても複雑で困難に満ちた人生だったと伝えられています。

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写真: Lukas Juhas on Unsplash

親の死や不在、妻の死、今でいう公務員試験に21年間に8回連続で落ち続け、恩師が自殺をして亡くなった頃から精神の歪みが見られるようになります。自身も自殺未遂を9回はかり、妻を殺害し投獄されるといったセンセーショナルな生涯を送りました。 

過去8000年間の工芸品が眠る博物館で

展覧会が開かれた場所は、台湾のナショナル・パレス・ミュージアム(故宮博物院)です。世界4大美術館の1つといわれています。

展示されているコレクションはほとんどが歴代の中国の王様(皇帝)によって集められたという超アンティーク。現代まで約70万点ものコレクションを持っている国立美術館です。

この展覧会が興味深いのは、フーチャーされたジョイだけでなくいろんな人たちが参加し、かつ来場者体験型であること。

展覧会前や中に現代アーチストや障害のある人たちを招いて一緒にワークショップや作品作りなどもして、その時作ったアーチストの作品も展示されました。

少し展示内容を見せてもらいました。

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こちらは最初の展示室。もし今の時代にジョイがいたらショッキングな彼の人生をマスコミはどんなふうに書き立てるのか、新聞や雑誌の記事見出しを想像した紙面をアートワークにして展示。

自分にとって”家”(ホーム)とは

展覧会では博物館の持っているたくさんの工芸品のレプリカを用いて「家(home)ってなんだろう?」と再想像してもらうセクションがありました。

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作品をみた後に、来場者は対話の方法として、自分自身の「もの」を残すことができます。

この展覧会が始まる1年前。博物館の学芸員のひとは、精神障害を経験した人たちの団体に行って、文化的に遺された遺物である工芸品のレプリカを見てもらい、レプリカにまつわる物語を話しました。

そして障害のある人たちに、混乱や障害から再び秩序をとりもどす、そんな「家」とは何か再び想像してもらいアート作品を作ってもらいました。

このセックションでは、その障害のある人たちが制作したアート作品の情報をのせたブックレットと、工芸品のレプリカの両方が置かれています。ここにきた人は家にいるかのように実際に寝そべったり、座ったりしながらアート作品との自分との共通点を感じたりできるのです。

例えばこちらは、子供の形の陶器の枕のレプリカに、頭をおいて寝そべる男の子。

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不眠症の人がこの枕に寝そべると、「枕はひんやりしていて不眠症の手助けになってくれるみたい」と自分自身のことに関係した感想を感じたりも。

実際にアート作品にふれることで、来場者の個人的な経験や感情が引き出される仕組みをつくっています。

観客とアーチストの距離を近くする展覧会

今回、この展覧会の数多くの参加団体の1つとして一緒に展覧会づくりに取り組んだのは前回も紹介した台湾のデザインスタジオ、Sandwishes Studio。代表のLiさんにお話を聞きました。

「これは、どうやったら観客とアーチストの距離を近くするかを意識した展覧会です。」

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「私たちにとっても、美術館と精神障害のある人たちのための団体と働く初めての経験になりました。展覧会上には毎日ソーシャルワーカーが障害を持つメンバーを連れてきたんですね。そこで自分たちが関わった展示物を見て意見交換をしたり。

たくさんの議論があり、いろんな人たちが参加する初めての経験でした。」

この展覧会は去年、2020年の4月にオープニングの予定だったということですが、ウィルス感染症の影響もあり3ヶ月遅れの7月にスタートとなりました。

オンライン展覧会をやってみて

ー コロナウィルスが世界中に蔓延していた時期の開催でしたが、開催に問題はなかったんでしょうか。

「当時、台湾はそんなにウィルスが深刻な状況でなかったため、そういった環境でもできました。」

「ですが、そのうち感染が広がると、来場者にも影響を与えるのではないかと、誰もが心配をし始めたため、美術館ではオンライン展覧会が必須になりました。」

そして、リアルの展覧会でがオンライン開催に発展します。


―実際、やってみた反応はどうだったんでしょう?

「みんなの反応はかなり良いです。すべての参加団体や参加者が成長し、進歩があったような感じです。 

ただ、参加団体やアーチストはとても一生懸命働いてくれていますが、多くの困難があります。キュレーター側の人間としてざまざまな必要案件に対応しないといけません。

オンラインにして良かったことは、より多くの違いやアイデアを理解するための多くの極めて激しい対話や考察が生まれたことです。でもー」

ーでも?

「本当にテーマとして重いものなので、もう少し時間が経たないと 短期的にこのトピックにすぐにまたすぐには触れるべきではないと感じています。笑」

と笑うLiさん。

評判は上々ながらも運営側はそうとう大変だった様子が伝わります。

今日は台湾のsandwishes Studioが参加したオンライン展覧会についてのお話でした。

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今回お話を聞いた台湾のデザインスタジオSandwishes Studioのユニークな他の取り組みを含め、海外の福祉系団体のコロナ禍での挑戦を他にも紹介しています。よかったらのぞいてみてください。

*この記事はオンラインでの「コロナ禍における障害のある人の仕事づくり情報交換会」イベントの番外編です。「同じ状況だった海外の団体にも話を聞いてみよう!」と今年の1月〜7月にかけて、たんぽぽの家事務局スタッフ数名がSandwishesのLiさんと話したやりとりをまとめています。

(Uga)

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* 本事業は休眠預金を活用した事業です 
「コロナ禍を契機とした障害のある人との新しい仕事づくり」は休眠預金等活用法に基づき、公益社団法人日本サードセクター経営者協会 [JACEVO]から助成を受けて実施しています。





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