Art for Well-being のはじまり
Art for Well-being プロジェクトとは
Art for Well-beingは、アートとケアの観点からテクノロジーをとらえなおし、アートとケアとテクノロジーの可能性をひろげるプロジェクトです。
このプロジェクトでは、病気や事故、加齢、障害の重度化など、心身がどのような状態に変化しても、さまざまな道具や技法などのテクノロジーとともに、自由に創作をはじめることや、表現することを継続できる方法を考えます。
表現することや表現にふれることは、よりよく生きるために必要だとわたしたちは考えています。心身機能が変化していくなかで、身近にあるテクノロジーは何ができるのでしょうか。テクノロジーによって、表現を続けることができたり、別の形で新しくはじめることができるかもしれません。
アート、ケア、テクノロジー、これらを分断することなく、関係をより深めて、これからのアートとケアとテクノロジーのオルタナティブなあり方を提案していきたいと思います。
たんぽぽの家 と Art for Well-being
たんぽぽの家が、福祉×現代技術の実験的で実践的な取り組み「IoTとFabと福祉」をはじめたのが2017年。全国の福祉施設や技術者とともに、新たな仕事やはたらき方をつくること、そして心地よい暮らしをつくることを目的に、3DプリンターやIoTなどのテクノロジーの可能性をさぐっています。
「IoTとFabと福祉」のプロジェクトを進めるなかで、福祉の現場で3Dプリンターなどデジタル工作機械を活用した実践や具体的な仕事づくりの取り組みを進めてきました。
私たちのたんぽぽの家で活動する身体障害のあるアーティストの可能性をもっと広げていきたいという思いもあり、テクノロジーによって表現の幅をひろげることができるのではないのかと可能性を感じていました。
ただ正直、どこから取り組んだらいいかわからないと悩んでいたこともあり、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]の小林茂さんに相談をして情報交換をしていくなかで、武田さんとAI(人工知能)との共同制作の可能性について考えるようになりました。
「Art for Well-being」を考えはじめたのは2020年。たんぽぽの家・アートセンターHANAのアーティスト武田佳子さんの創作活動の変化を出発点として「技術は武田さんの表現を支えられるか?」 「武田さんとAI(人工知能)が出会えば何が生まれるのか?」という問いからプロジェクトはスタートしました。
アーティスト武田佳子:身体と作品の変遷
武田さんの作家活動は1985年に油絵具に出会い、以来ずっと描く事に魅了され、ネコ、花、お寺などをモチーフとして描いていました。
1998年頃から、油絵を描く事が体力的に難しくなり、その後、パステル画などに挑戦し、試行錯誤の中から2002年に墨に出会って水墨画へ移行していきました。この頃から1人での制作が困難になり、サポーターとの共同制作へと制作スタイルが変化していきます。
当時の制作の様子や、作品のうつりかわりについては、過去の展覧会などの情報や、映像記録があるので、それらを紹介します。
2012年頃には障害が重くなってきて、画材や作風をどのようにしていくかとかを武田さん本人も悩んでいた時期で、1つの方法として、アートサポーターとネコの張り子を制作することもはじめています。
AIや機器を使った試行
2020年にはいると、アートサポーターと水墨画を共同制作することも難しくなりはじめます。コミュニケーションの方法としては、口を「はむ」とさせて「OK」と意思表示をしたり、舌を「べー」と出して「あかん」と伝えたり、文字盤を使って時間をかけてゆっくりと言葉をつむいだりしています。
このような状況で、武田さんとAI(人工知能)との共同制作の可能性について考えるようになりました。
AIのことをまだまだ知らない私たちはまず、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]の小林茂さんにテクノロジーの知識や考え方についてアドバイスをもらいながら情報交換することからはじめました。
情報交換をしていくなかで、プロジェクトの方向性を整理したり模索しながら、武田さんにAIとの共同制作を相談した動機としては4つありました。
「なぜAIを使う必要があるのか?」を考えてから動くのではなく、「AIに出会ったらどんなことが生まれるのか?」というスタンスで始めるようにしました。
武田さんの作品は、身体の変化だけではなく、アートサポーターとの関係性も大きく影響しています。ちょっとした談話からモチーフが決まったり、サポーターの関心事から異なる画材を試してみたり、実際に触れあいながら描画したり、お互いに影響しあっています。
AIを1つの道具としてとらえたり、あるいは、AIを創造的なクリエイターや表現者の1人としてとらえたり、さまざまなAIとの関わり方がある中で、私たちはAIを「作家と一緒に考え、表現したいことを実現する」アートサポーターとして位置づけることができないものかと考えました。
AIとどのような関わり方をしたいのか、今後どのような表現をしたいのかを探るために、小さな実験や試行錯誤をしています。
試行例1:AIによる作品の生成
「Runway ML」というクリエイターのための機械学習ツールを使って、武田さんの過去作品51点をAIに学ばせて(イメージで言うと線の描き方や色使いなどを学んでいる感じ)、そこから新しい作品を生成しました。
AIに学習させるには過去の作品の数が少ないという問題がある一方で、今後に作品をたくさん制作することは難しいという問題もあります。このような状況において、どのような活用方法ができるかを探っています。
試行例2:AIとのやりとりするための機器づくり
AIと双方向でやりとりをするとなると、少なくとも「YES」「NO」などの何かしらの意思伝達や意思表示をする必要が出てきます。
身体に負担が少なく、なおかつ意思を伝えやすい身体の部位をさがそうと、「手をにぎる」「肘を上げ下げする」「視線」「舌を出し入れする」など1つ1つ調べていきました。
たとえば、視線は注視できるが長時間はしんどくなったり、舌の出し入れが動作は楽だが何回もやるとなると肺に空気がたまりすぎてしまうので不安がある、など。
結果的には「手をにぎる」ときの圧力を使用するのがいいのではとなり、なるべく同じように力をかけることができるように、指を固定するための置き場所を3Dプリンターでつくることに。実際には「指先」や「手のひら」ではなく、「手首」のところが圧力がかかりやすいと看護師やケアスタッフと相談しながら探っていきました。
ひとまず動作確認のため、電子書籍で確認してみることに。材料費だけで約6,500円ほどで、これを高い/適正価格/安いとみるかはさておき、手の届く範囲で自分たちで試行錯誤しやすい時代であることは実感しています。
文化庁:障害者等による文化芸術活動推進事業
筆を握れなくなる、体が思うように動かせなくなるなど心身の状態が変化したとしても、表現活動を継続したい人や、新たに創作に取り組みたい人、それらを支援したい人たちがいます。
これに対して、AIやIoTと呼ばれる人間の "知能" "身体" "社会的つながり" に関わる現代のテクノロジーが、障害のある人の生涯にわたる創作や表現に活用されている事例は多くありません。
そこで、障害のある人やその支援者が、さまざまな技術とともに創作や表現を生み出し、創造的な活動を継続または取り組める環境づくりを、文化庁の事業の1つとして推進しています。
新しいテクノロジーや身近にあるテクノロジーについて学んだり、活用方法を考えたりすることは難しく感じることがあります。
そこで、
障害のある人の表現とテクノロジーに関する調査
テクノロジーの敷居を下げるための勉強会や体験会
社会に共有するためのフォーラムや展覧会
これらを実施することで、障害のある人や技術力のある人が連携するためのネットワークを築けるようにプラットフォームをつくりたいと考えています。
先進的な実践や考え方の調査結果や、体験会の情報などは、この note やたんぽぽの家のホームページなどで随時共有していきますので、ぜひフォローしてみてください。
展覧会のお知らせ
わたしたちはこれまで、障害のある人たちが日常的に表現活動をしている現場で、AIやVRや触覚技術をとおして実験的な取り組みを実施してきました。そこから見えてきた可能性、課題、問いかけを展示し、医療や福祉、科学や技術、アートやデザインなど領域を超えて、表現とケアとテクノロジーのこれからを考えていく展覧会を開催します。
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