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ASDと定型の脳内シミュレーション

吉田君の場合

聞いてくださいよ。今日、新規プロジェクトの進行スケジュールを組むというのでチームリーダーの佐藤さんにタスクの振り分けを頼まれたんだけど、言われた通りに作業をしたら「どうしてやる必要のないところまでやるの⁉切りのいいところでやめて他にリソースを回してよ!」と、かなりきつい口調で言われたんですよ。

長期的なプロジェクトだから、半年後のスケジュールまで組んでやったんですよ。かなりの情報量だから打ち込むのだって楽じゃないし、僕もカチンときて「どっちにしたって作成しなきゃならないものなんだから、先に作っておいた方がよくないですか」って言ったんです。そしたらなんて返ってきたと思います?

「どうせズレ込むんだからこんな先の予定組んだって意味ないでしょうが!バカじゃないの⁉」だって。ひどくありません?

そもそもわざわざスケジュールを組むのに「どうせズレ込むから」っていう発想がおかしくないですか?じゃあなんで予定組むのって話で。何のためのスケジュールなんですか?破るためのスケジュールなんですか?だったらルールとか法律とかもあなたは破るんですか?それじゃあそもそも法律なんていらなくないですか?って話。

しかもこの後、僕にディレクションの作成までやらせるんですよ。いやいやいや、こんだけのスケジュール組んだんだから無理無理。「これもあんたの仕事。今日中にやっといて」だって。いやパワハラですか?

お陰でこっちは残業ですよ。で、19時にはオフィスを出るつもりだったのに結局21時に警備員が巡回にくるまでやっちゃったし。マジ佐藤最悪パワハラ上司。

で、翌日。

全セクションのディレクションを提出したら、パワハラ佐藤が一言「長い」。

は?って感じ。「書き方が長くて回りくどいから要点がわからないしディレクションになっていない。何年やってんの?」って。

いや1年ですけど?昨年入社したばかりですけど?頭大丈夫ですか?その上とつぜん「話聞いてる⁉」ってヒステリックに叫び出すし。完全にいじめですよね。告発も検討しています。もう怖いイヤだこの職場。

佐藤さんの場合

ついに始まった新規プロジェクト。社運を賭けたこの企画の成果で、うちの部署やチームの評価が決まる。私のキャリアにも箔がつくだろう。

ただ一人、うちのチームに役立たずの能無しがいる。吉田という新人。彼はちょうど1年前にうちの会社に中途入社してきたんだけど、制作現場のキャリアは7年にもなるというから最初は誰もが期待していた。

この前も彼に業務タスクを各担当者別に振り分けて、当面のスケジュールにあてる作業を指示したら、彼は半年先のスケジュールまで組んでいた。これまで何度もスケジュールの作り方を彼は見てきたし私も教えてきた。スケジュールは必要に応じ一週間ごとに更新する慣習も知っているはず。臨機応変に調整できるスケジュールでなければならないのに、彼は半年分のスケジュールを作成するのに延々5時間もの時間を使った。本当に意味がわからない。ほかの仕事をしたくないからとサボっているのは明らか。だから私は渇を入れるために厳しく指導した。

その後に指示したディレクションにかんしては、後から聞いたところによると21時まで残業して仕上げたらしい。耳を疑った。一項目せいぜい150文字程度にまとめるべきものを、彼は21時まで残業して一項目につき2000文字、それを8項目仕上げたとのことだった。

そんな時間まで残業されたら社内規定に反する。私の責任問題だ。

ディレクションはまだ内容がフェイクでも構わない段階なのに何をやっているのだろう?

当然やり直しを指示したが、返事もろくにせず応答もなく私の言葉を無視している素振り。おそらく彼は私のことを嫌っており、意図的に嫌がらせをしている。それも間接的に私に責任を負わせるような陰湿で悪質なやり方だ。彼の今後の対応についてチーム内でしっかり検討する必要がある。

問題点

これは双方の誤解がどんどん広がっていき収束が難しくなる前に手を打っておくべき事案です。

主な問題点は吉田君の臨機応変な対応ができない特性、必要なものとそうでないものを分別できない特性です。これについては吉田君が作業範囲をあらかじめ確認することで、あるいは佐藤さんが作業範囲をしっかり指示しておくことで解決できます。双方に工夫と努力が求められるでしょう。

それ以外の問題点については(たとえば吉田君の飛躍的な思考や過集中、佐藤さんの厳しい口調など)、周囲でなく本人が対応あるいは対策しなければならない問題です。

また吉田君は佐藤さんに対する敵愾心を払拭し、社会人あるいは大人として自分の感情をコントロールできるようになるべきでしょう。また過集中にはアラームのセットを習慣づけるなどして対策しなければなりません。

佐藤さんは「言わなくてもわかるだろう」という前提を払拭し、あらかじめ作業内容、作業範囲をしっかり指示するあるいはマニュアル化するのがいいでしょう。また強い口調は部下を委縮させるため、やはり感情を押さえてソフトに伝える必要があります。これも上司としての仕事です。

果たして吉田君と佐藤さんは無事にプロジェクトを遂行できたのでしょうか?本人たちのみぞ知る──です……。


※この物語はフィクションであり、実在の人物には一切関係ありません。

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