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連載小説【正義屋グティ】   第16話・打開策

16.打開策

「何が起きた?!」
巨大なレンガ造りのデパートは今宵闇に包まれ、雲一つない夏の空に姿を消すかのように同化した。そんな闇の中に閉じ込められた子供たちは検問が行われた店舗から続々とあふれ出し、五階のフロアには人々の叫び声や泣き声が絶えず響き渡った。
「パターソン、グリルよくやった。後は俺らに任せろ!」
カザマが折り畳み式の携帯電話にそう静かに叫び、グティ達三人はサングラス男がいるであろう場所に視線を移した。
「グティレスがやったのか?!大人を舐めやがって!さっき俺が撃ったお前のお仲間にはとどめを刺す必要があるようだな」
フロアの真ん中で怒号しているサングラス男は右腕から大量の血を流しながら横たわっているであろうチュイの方向に銃口を向け、軽々しく引き金を引いた。
バンッ
音だけではなく発砲時に出る光がグティ達の目に飛び込んできた。だが、チュイの断末魔などは一切その場から聞こえることはなかった。気味が悪くなってきたのかサングラス男は明かりがあったときにチュイがいた場所を、恐る恐る手で探ってみる。
「いない…?」
が、そこにあったのはチュイの体ではなく先ほど自分で撃った時にできた痛々しい銃痕だけだった。
「もしもしデンたん?そっちはうまくいったようだね」
「あぁ、何とかチュイを担いで避難させることは出来たよ。グティも頑張れよ!」
「おう」
グティは因縁の男の一歩上手を取っていると確信した。そして胸をほっと撫で下ろしサングラス男の方へ耳を傾ける。
「小癪な。グティレス、お前のせいで大量の未来あるガキどもが消えていくのをただ眺めていたらいいじゃねか。これはお前があの時生存した重い代償だと思え!」
サングラス男はそう怒鳴るとハンドガンをリロードし、闇に目掛けて狙いを定め再び引き金に指をかけた。
「あばよ」
心なしかグティ達にはその声が震えているように聞こえた。自分に命中ことだけを願い走り回る子供たちが、ぴたりと足を止め息をのんだ次の瞬間、ステージの方から ウイーーン
というターボ音が鳴り響きステージには人型のシルエットと共に照明がたかれた。
「誰かが助けに来たんだ!」
「正義屋のお兄ちゃんお姉ちゃんたちに違いないよ!」
「ちがうよヒーローXが来てくれたんだ!」
五階のフロアについた一筋の光は子供たちの心にも『希望の光』をともした。
「何の真似だ!」
サングラス男は怒り狂ったようにステージに向けて銃口を向けた。だが、そんなことは一切気にせずステージに映された影はジェスチャーを付けながらサングラス男に愉快に話し始めた。
「久しぶりだな、サングラス男。僕はグティレス・ヒカルだ。僕のことを連れ去りたいのならここの広いステージで正々堂々戦おうじゃないか」
スピーカーから出る声色は自らをグティと名乗っているが、この声はグティでなくカザマの声だ。グティといつも近くにいたらすぐにわかるが、なんせサングラス男が最後にグティの声を聞いたのは四年ほど前。声変わりも少しずつ始まっているためグティでない者の声だとサングラス男が判別するのは不可能だとパターソンは踏んでいた。
「俺も舐められたものだな…。いいだろう、どんな罠か知らんが受けて立ってやる」
サングラス男は一瞬動揺を見せるが、気持ちの悪い笑みを浮かべながら無言で光の方へと歩き出していった。その様子を薄暗い空間で何とか標的をとらえたデンたんは、窓際に設置されている消火器を肩に担ぎ上げ勢いよく走り出した。
「うおおおおお」
デンたんの雄叫びは周りの叫び声にかき消され、デンたんはサングラス男の背後に回ることに成功した。そして、デンたんは草食動物を狩る肉食動物のような熱い眼差しをサングラス男に向け、力いっぱい消火器を標的の頭目掛けて振り下ろした。
カイーーン
「うがあああああ」
消火器は大きな金属音を立て中身から白い霧状の粉を溢れ出た。そう、サングラス男は気配に気づいたらしく咄嗟に自分の左腕で頭をガードしたのだ。
「何?!」
予想のしていなかった事態にデンたんは目を点にさせ、一瞬放心状態に陥った。その隙にサングラス男は割れた消火器の破片を手に取り、デンたんの頭に思いっきり突き刺した。
「あああああああああ」
「邪魔者は寝てればいい。良くも俺の左腕をお釈迦にしてくれたな!」
サングラス男は白い煙の中、頭から血を流し白目をむいているデンたんを横目に再びステージに向かって歩き始めた。そしてついに、サングラス男はステージ上に到着した。
「さぁ、やろうか『悪魔の狼』くん」
サングラス男は拳銃を構えると、ゆっくりとスポットライトの方に体を向け右目をつぶった。五階からは叫び声などが一切消え去り、緊張の重苦しい雰囲気で包まれた。そして覚悟を決めたサングラス男はまっすぐ走りだしステージ袖に入り込む。
「誰だお前!」
ついにグティと対面すると思いきっていたサングラス男は拍子抜けをしたような声で、銃の構えを下した。なぜならそこにはカザマというサングラス男が知るはずもない男が一人座っているだけだったからだ。
「引っかかった!今だグティ!」
カザマの合図と共に反対のステージ袖からグティが走りだし気が動転しているサングラス男から上手く拳銃を奪うことに成功した。
「嘘だろ!」
あまりの素早い出来事にサングラス男は状況が把握できずに、ただただ固まっている。
「本当に久しぶりだな。あの時は良くも俺からすべてを奪ってくれたな!」
グティはそう怒鳴るとサングラス男の眉間に拳銃を突きつけた。
「グティ!ダメだ。奴を殺してはいけない」
「無理。殺す」
カザマの止める言葉にもグティは耳を貸さず、ついにグティは引き金に指をかけ
「お前に僕の苦しみを全て味合わせられない事は悔しいけど、お前は僕の『正義』を見つけてくれた張本人だ。一発で終わらせてやんよ!!!」
と口に出した。そのグティは今までのグティではない、全くの別人のグティレス・ヒカルだった。そんなグティの目を見てサングラス男は体で抵抗することをやめ、ポケットに忍ばせておいたボタンを静かに押した。
ドカーーーーン
「どうした?」
突然の爆発音に我を取り戻したグティはカザマの方を見てそう問った。するとさっきまで死の淵をさまよっていた様な絶望の表情を浮かべていたサングラス男が得意げに
「このデパートを支えている巨大柱の3本中1本を破壊した。グティレスよ、今お前が俺に抵抗せず連行されるのならば、これ以上このデパートと、このデパートの中にいるガキどもに悪い思いをさせない。だが、従わないのならばこのデパートの柱を全て爆破する。さぁそうする?正義屋の卵よ!」
と言った。その言葉にグティは身震いさせ、拳銃を眉間から離し、胸倉を掴み至近距離で鬼のような憎悪に満ちた目でサングラス男を睨め付けた後、決心した。
「わかった。降参だ。早く連行しろ」
と…。

   To be continued...     第17話・赤レンガの刺客
 降参したグティ達の前に現れる刺客とは... 2022年8月8日(月)午後8時頃投稿予定!お楽しみに!!


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