見出し画像

連載小説【正義屋グティ】   第30話・檻と銃口

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第29話・血の正体】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】

30.檻と銃口

「随分とボロっちいな」
傷口を押さえ何とか自分の力で立つことのできたデューンは、いつ崩れてもおかしくないような古びた廃工場をその目に映した。
「そうだろう。ここは我らホーク大国のスパイが古くからこの国の偵察のために不法占拠した立派な工場だからよ」
丸眼鏡を掛けた太ったその男は腕を組み誇らしげにほほ笑むと、デューンの血だらけの左腕を引っ張り廃工場の中へと連れ込もうとする。
「なんだ少年、俺はてっきりお前が抵抗するんじゃねぇかって思ってたからこっちは警戒してたんだぜ。お前のお仲間に凶悪な狼君も紛れ込んでいるみたいだしな」
「ばか言え。あいつは別に仲間でもなんでもねぇ」
「ふっ、面白そうなこと言うじゃねぇかよ。後でゆっくり聞かせろ」
丸眼鏡の男は再び足を進め、デューンを連れて闇に包まれた廃工場の奥地へと行ってしまった。
もうしばらく歩いた。デューンは潜入とはいえ警戒しつつも周りを見渡す。が、丸眼鏡の男が何を頼りに進んでいるのかが不思議に思うくらい辺りは漆黒の空間に包まれていた。
「止まれ」
突然丸眼鏡の男のどすの利いた声がデューンの耳に入った。デューンは言われた通りにしていると、後ろから勢いよく背中を押され体が宙を舞った。
「わぁっ!」
デューンは50㎝ほど段差のある狭い部屋に投げ込まれ手から受け身を取る。
「なにすんだ、てめぇ!」
デューンがそう叫ぶと丸眼鏡の男は、
「あばよ、哀れな小僧」
と声を躍らせ鉄格子のドアを閉めた。
ピシャ
冷たい音がした。すると次の瞬間、部屋についてあった豆電球が付きデューンは初めて自分のいる場所を理解した。
「俺をこんな牢屋に入れて何をするつもりだ」
そう、デューンは頑丈な石レンガと鉄格子に囲まれた部屋に閉じ込められていた。デューンは鉄格子に手をかけ壊そうとするがビクともしない。
「まぁ落ち着けよ。俺もあの正義屋に顔が割れている可能性があるからよ、必要最低限な用事以外はこの施設から出ることが出来ねぇんだよ。これから仲良くしような」
「うるせぇ!少し黙ってねぇと殺すぞ」
デューンは鉄格子の間から右腕を出し丸眼鏡の男に殴りかかろうとする。しかし、丸眼鏡の男は冷静にその腕を掴み関節部分を膝で力を加えた。
ボキッ
デューンの腕の壊れる音は部屋中に響き渡り、デューンは両腕をぶらぶらさせ殺気立てた顔で男を睨みつける。
「てめぇ」
「がははっは。怒りで痛みが分からなくなったのか?まぁいい、お前にはこれから毎日1食くらいは飯をやるよ。だからそれまではそのボサボサの青い髪を整えときな。まぁ何にしろお前の腕はもう残っていないがな」
丸眼鏡の男はそんな皮肉のこもった言葉を残し、高そうな革靴を音を立てながらどこかへ消えて行った。
そんな生活がなんと半年も続いたのだ…。

半年後
「小僧、飯だ」
辺りはすっかり寒くなり、カルム国の首都・カタルシスも強い寒波に襲われていた。
「てめぇはいいな、あったかそうだ」
デューンは至る所に穴の開いた夏用のワイシャツに泥だらけの黒ズボンを羽織り、弱った小動物のような眼で男のコートを見つめる。
「いいだろ、だがこれは俺のもんだ。いいから早く食いやがれ」
丸眼鏡の男は鉄格子の隙間から固まった米粉パンをデューンに手渡す。
「育ち盛りの14歳によくもまぁこれを半年間も食わそうとと思ったな」
デューンはまずいパンを口にくわえると、眉毛にかぶさるほど長く伸び切った青髪を手でいじる。天井に吊り下げられている豆電球から見えるデューンの頭頂部は黒い髪が無造作に生え、フケがあちらこちらにこびり付いていた。
「まぁな。お前もようやく抵抗せずに受け取れるようになったな、またその腕を折ってやってもいいんだぜ」
「黙れ、くず野郎。俺はてめぇをいつか必ず殺してやるから覚悟しとけよ」
デューンはそのセリフの時だけ目に活力がるように見えた。海から流れて来る湿った冷たい風がデューンの身体を舐めまわすと、老朽化した廃工場がカタカタと声を上げ、遠くでは大きな何かが崩れたような音を上げる。
「この工場ももう崩れそうだ…なぁ小僧、俺と少し話をしようぜ」
丸眼鏡の男は口角を無理やり上げ壁に寄りかかるデューンを見つめると、勝手に話を始めようとする。
「ちょっと待てよ」
デューンは手のひらを男の方へ伸ばし話を遮ると、
「色々聞きたいのならまずはこっちの要求も聞いてくれねぇか?」
と交渉を申し込んだ。
「要求?」
男が顔をしかめ不思議そうな声で聞き返すと、デューンは再び口を開く。
「そうだ。いくら何でも寒すぎるからよ、そのジャケットを俺にくれねぇか?そうでもしないと、俺の口は固まったままだぜ」
「小僧のくせに…ほらよ」
丸眼鏡の男は鉄格子の隙間にうまく投げ入れると、デューンは急いでそのジャケットを漁り始める。
「何やってんだ?寒いわけじゃなかったの…か」
男の声のボリュームがだんだん下がって行くにつれデューンの顔は明るく、希望に満ち始めた。そう、デューンは知っていたのだ。男がいつもジャケットのポケットの中に檻のカギをしまっていることを。
「お前、そういう事か!」
男が気づいた頃にはデューンは檻の隙間から腕を伸ばし鍵穴に鍵を差し込んでいた。
「やめろ!そのドアを開けたら、撃つ!」
男はズボンに仕掛けておいたハンドガンをデューンに向ける。しかしデューンがその手を止めることなく、遂に半年ぶりに扉が開いた。
「そんなもんが怖くて、ベルヴァでやっていけるか!」
「ベルヴァだと?!」
丸眼鏡の男は走ってくるデューンに向けて、躊躇うことなく引き金を引いた。
バンッバンッバンッ
その場に轟いた銃声は3つ。一つ目はデューンの左腕を、二つ目は右脚、三つめは右の頬を少しえぐった。
「ぐわああああ」
デューンは大きな雄たけびを上げた。だが、その叫びは痛みにもがいているのではなく、標的に手の届くことに対しての喜びであった。デューンはとうとう、拳銃を男から奪い取り逃げ去ろうとするその両足に鉛玉を撃ちつけた。
「ああああああああああ!」
男は低い声で叫ぶと、顔から地面に倒れ込んだ。デューンは引き金の小さな空間に人差し指を入れ込み、ぐるぐると回しながら男の上に座り込んだ。
「よし。話を聞いてやろうか」
「くっ」
丸眼鏡の男は自分をあざ笑うような眼で見つめるデューンをじっと見つめて、予備用の小型ピストルを手にかけるといつもの声のトーンで会話を始めた。
「そうだな、では聞かせてもらおうか。君は先ほど自分の事をベルヴァと言っていたな。俺らの国では『ベルヴァ』という組織についてあまり明かされていなくてな。教えてくれねぇか?」
「ああいいぜ、幽霊に話したって影響はねぇからな。ベルヴァっていうのはな、対ホーク大国の組織だ。分かりやすく言えば、お前らを潰すことを目的とした人間が集まった組織だ」
デューンは驚きの隠せない男の顔に気づき嫌な笑みをこぼす。
「俺らの国を潰すだと?そんなことは不可能だ。第一、俺らがやろうとしている計画を知らねえくせに」
「バーサーク菌の事か?」
デューンのその一言に男は図星を突かれ一瞬黙り込んだ。デューンは追い打ちをかけるかの如く話をやめない。
「その話をここでするのは止めよう。もしここの国民が聞いたらパニックに陥るからな」
「この野郎…おい、まさかホーク大国に突然来やがった優秀な俺の友人デューン・コキは関係無いよな?」
男は身体を小刻みに震わし、デューンの返答を待った。しかし、男のその悪い予感はデューンの
「俺の兄貴か、うまく潜入してるらしいな」
という言葉によって的中したことが分かった。それにより丸眼鏡の男の怒りのパラメーターが限界に達すると、
「よくもこの俺様を!」
と吠えながら握っていた小型銃をデューンに向けた。
バンッ
男は目を丸くした。その鈍く恐ろしい音の主は、この展開を予測していたデューンの持つ銃口だった。白い煙が立ち上る銃口に大きく息を吹きかけ、手慣れた手つきでリロードをすると男の額に向け引き金を引いた。
「あばよ」
そんな慈悲の無いデューンの言葉が丸眼鏡の男が聞いた最期の言葉だった。
この出来事により、グティのデパート事件に関与したホーク大国の3人との戦いが幕を閉じた。しかし、『ホーク大国』という新たな脅威がグティや正義屋、ベルヴァへとのしかかることになった。

 To be continued…    第31話・失敗作
物語は新たなフェーズへ。そしてデューンの壮絶な過去が明らかになる。2023年2月12日(日)午後8時ごろ公開予定!お楽しみに! 連載小説【正義屋グティ】も30話になりました。いつも応援して下さる読者さん、本当にありがとうございます。引き続きよろしくお願い致します!


この記事が参加している募集

スキしてみて

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?