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連載小説【正義屋グティ】   第23話・ヒーローレスキュー

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前話はコチラ→【第22話・あぶないよ】


23.ヒーローレスキュー

現在(3014 年)カルム国
「あなたの...名前は?」
建物の瓦礫などが覆いかぶさり荒れ果てた道路の上を颯爽と走り抜ける、全身白の服装に身を包む謎の男にグティは怯えながらも質問を投げかけた。
「こんな忙しい時でも、いっちょ前に自己紹介を要求してくるか」
白い男はハンドルを握っていない左手で助手席に乗っているグティの頭をつつく。
「すみません。気にしないでください」
グティは慌てて視線をフロントミラーへと逸らす。それを見た白い男は面白がっているのか、フロントミラーへと視点を移しグティと目を合わせた。
「じゃあ、僕の年齢を当てれたら教えてやるよ」
「年齢ですか。えーーと…」
少し若く言おう そう決めていたグティは白い男の全身を見渡し、真夜中の似合わない黒のサングラスに、胡散臭い革靴、ポケットが多めについている白の上下から推測し、答えた。
「…32歳ですかね」
「あぁ?29 だよバカガキが。お前もこの年になったら、老いて今の原形もとどめないから覚悟しとけよ!...ったく、でも割といい線いってたから教えてやるよ。僕の名前はランゲラックだ」
ランゲラックは車を運転していることを忘れているのか、グティに顔を向け一方的に怒鳴り散らかす。そんなカオスな状況がツボに入ったのかグティはクスっとにやける。
「何笑ってんだよ、このガキ。...お、おいなんか変な音しないか?」
ランゲラックが何か不審な音に気づき車を止め窓を開け上空を見上げる。するとそこには、ラスが乗ったロボバリエンテが猛スピードでこちらへ向かってきているところだった。
「マズイ。追手がいるようだ」
ランゲラックがそれに気づきアクセルを咄嗟に踏んだ時には、ロボバリエンテ 33 号はジェット噴射で生じた回転を使い、グティ達が乗った灰色の車を叩き潰した。
バーーン
車は天井が一気に凹み、ほぼ真っ二つに割れてしまった。そしてその残骸を漏れたガソリンは容赦なく飲み込みその場で爆発を引き起こした。
「ああああああああああぁ」
グティとランゲラックの叫び声は爆発音にかき消され、荒廃した道路には火の塊だけが残った。

「わぁぁあ!」
グティは、鮮明に焼き付いた恐ろしい光景にうなされ目を覚ました。
「短い気絶だったな。無理もない、そんな大きな打撲を負っているのだからな」
先ほどグティと共に爆発に巻き込まれたはずのランゲラックは、相変わらず澄ました顔で似合わないサングラスを目元につけている。
「夢...だったのか」
そう理解しほっとしたと同時に、一年前にも恐ろしい夢を見た翌日にそれが正夢になることがあったため警戒心を高めた。
「どうしたんだい?グティくん、目覚めたと思ったらまた静かになって。どうだい、ここら辺で自己紹介でも...」
ランゲラックの鬱陶しい声掛けを、グティは
「うるさい、おじさん!」
と一喝すると、かすかに耳に届いたロボバリエンテのジェット音に反応しランゲラックの腕を思いっきり引っ張った。
「今後ろでおじさんの事を狙っている、ロボヴァリエンテに乗った誰かが追いかけてきてるんだ。だから、騙されたと思って僕の指示に従ってくれない?」
ランゲラックは一瞬顔をしかめたが、大きく頷き
「おじさんってのは気に食わないが良いだろう。君が言うんなら今は相当危険な状況なんだろうな。乗ったぞ、僕は何をすればいい?」
とグティの頼みを承諾した。グティはあまりにも早い交渉成立に少し戸惑いつつも、ランゲラックに指示を出し始める。
「ま、まずは何とか車から飛び降りれるような場所に行きたい。...柔らかい草むらとかかな」
「草むらか...」
ランゲラックはサングラスを後部座席に投げ込み、真剣な眼でナビを見つめ始めた。
「じゃあさっき爆発したデカいデパートがあるだろ。確かあそこは道路沿いに 100m ほど続く草むらがあったはずだ」
「あぁ。確かに」
グティは昼間パターソンとラスの様子を隠れてみていた時のことを思い出した。そして突然、車の助手席を倒しハンドル側の後部座席へと土足のまま移動した。
「おい、ガキ。人の車だろ!」
「だってこのまま進めば、草むらは左側じゃないか」
グティは遠くに小さく見えるデパートを指差しド正論をぶつけた。14 歳の子供に言い負かされていることが気に食わなかったのか、アクセルの踏む力が強くなったことが車の唸り声から分かった。

ブーーーン
少し経ちデパートの姿がより鮮明に見え始めた時だった。さっきまで小さかったロボバリエンテのジェット音が段々と強まってきた。
「まずいな。このペースじゃ」
ランゲラックは顔をしかめさらにスピードを上げる。時速は 200 キロを超し速度のパラメーターもとっくに振り切っていた。
「もう真上だよ!」
「分かっている。僕が合図したらお前も例の草むらに飛び込めよ」
ランゲラックは目を血走らせハンドルを握る手が汗ばんできた。グティもドアに手をかけ変わり果てた街中に目をやった。
「もう少し歩道に近づこう」
グティの指示にランゲラックは親指を立て、車をガードレールすれすれまで近づけた。
ガガガガガ
車の表面がガードレールにする音と共に、左のサイドミラーが電柱にぶつかり火花を散らしながら飛んで行った。
「おじさん、車が燃えている」
「マジかよ。あと少し持ってくれ」
灰色の車はいつの間にか赤く全身を炎に包ませ、いつ止まってもおかしくなかった。グティは再び恐怖に怯えながらも赤いランプに照らされるデパートをほぼ真下から見つめ合図を待った。
「いまだ!」
ランゲラックの合図と同時に、二人はドアを勢いよく開け草むらに飛び込んだ。
「グハッ!」
グティは草むらに転がり込み何とか助かった。
「おじさんは?」
グティは丸焦げになり減速していく車を見つけた。すると次の瞬間後ろから頭を押さえつけられながら
「伏せろ!」
という声が聞こえた。そしてさっきまで乗っていた灰色の車がラスの乗るロボバリエンテによって真っ二つに割れその場で爆発した。
バーーーーーン
凄まじい熱気がグティを襲う。
「大丈夫か?」
後ろからランゲラックらしき人物の声がした。そして上空からまた別の白いロボバリエンテが飛んできた。
「今度は何?」
「あれは僕の仲間の奴だよ。助けに来てくれたんだ」
純白のロボバリエンテはゆっくりと着陸し、機体の真ん中のドアが開いた。ランゲラックはそれに乗り込みドアを閉めようとした。
「まって!」
グティはランゲラックを呼び止めた。
「なんだ」
ランゲラックは静かに答えると、冷たい眼差しでグティをじっと見つめた。
「あなたは自分が僕の命の恩人って言ってたけど、もしかして 四年前の海辺の事件に何か関係あるの?そしてあなたは何者なんだ?」
ランゲラックは少し黙り込み、口を開けた。
「僕はただの嫌われ者だ。でも僕はある目的を持った組織に所属している。その組織の名前はベルヴァだ」
ただそれだけ言い残しドアはゆっくりと閉まった。そして勢いよく飛び立ちラスの乗った赤いロボバリエンテはそれに向けて体当たりをした。
バコーーーン
白に染まったロボヴァリエンテはその攻撃を華麗によけ、ラスの機体は赤レンガのデパートに突っ込み穴をあけた。
「あのデパートにはまだ、あいつらが」
崩れ行くデパートから再び飛び立つロボバリエンテを眺め、グティは走り出した。そして助けを呼ぶために自分の携帯電話を漁っていく。
「こんな真夜中に、頼りになる人...あっ!」
グティはある人の連絡先にカーソルを合わせ、タップした。
「でもこの人、若干サイコパスだから、去年みたいに無理しなければいいけど...」
グティはそうぶつぶつと呟きながら、応答を待った。その相手とは正義屋養成所の担任であるネビィー・ウォーカーだった。

      To be continued... 第 24 話・残痕

爆発事件以来のウォーカー先生の救出劇、そしてラスとランゲラックの行方は...。
2022 年 11 月 19 日(試験のため変更したら 12 月 10 日です。すみません!)午後 8 時公開予
定!お楽しみに!

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