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連載小説【正義屋グティ】   第22話・あぶないよ

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前話はコチラ→【第21話・本当の】

22.あぶないよ

7年前(3007年) カルム国・オーチャー島
カルム国の北にある廃れたこの島では、近年の異常な干ばつなどの影響により徐々に砂漠化が進んでいた。国の中心では死の島と言われ始めたころには、島から若者を中心に去り始めていた。そんな中ある二人の主婦が砂で埋もれた道路の上でばったりと出会った。
「ラスさん、ちょうどいい所に。申し訳ないんですが、今度うちの夫と子供たちでホーク大国に旅行することになったんですけど、急遽娘のガネーシャの格闘技の大会が入ってしまったからその間うちの子をお家で面倒見てくれるお宅を探してたんですよ」
「いいですよ。オーリーさんの所にはたくさんお世話になっていますから。うちのバリトンも喜びますよ」
ラスはサンダルに入り込んだ砂を払いながら、オーリーの目を見てにっこりと笑った。するとオーリーは拳を掌に打ち付け
「そうだ。今一人分のチケットが余ってますんで、お宅のバリトン君もご一緒しませんか?」
この誘いをきっかけに12歳だったラス・バリトンは訳の分からないまま異国の地へと飛び立つことになった。それが、桧垣の始まりとも知らずに…

数日後 ホーク大国

「着いたよ。バリトン、デンハウス」
数時間のフライトが終わりオーリーの母(オーリー・オリビア)は、毛布をはねのけ豪快に寝ているラスと、当時7歳のデンたん(オーリー・デンハウス)を優しい口調で起こした。
「う、うん」
不機嫌そうに目を覚ましたラスは先に降りて行ったであろう、オリビアの後に続くように荷物をまとめ始める。すると窓側で日光に当たりすやすやと寝ているデンたんの小さな体が目についた。
「俺が運ぶのかよ、ったく」
オリビアたちは荷物をたくさん持っていたので、デンたんを担ぐ余裕がなかったと薄々気づいていた。だがこの時は無性に腹が立ったのかラスはデンたんの体を激しく揺さぶり少々手荒に起こそうとした。しかし、7歳児のお昼寝タイムがそう簡単に終わるはずもなく、ラスは自分のカバンを前に担ぎ、デンたんの人形を左手に、その持ち主を後ろにおぶった。
「遅かったなー」
オーリーの父(オーリー・リアム)は少しからかう様にラスの肩に手を置いた。ラスはその手を払いのけリアムの耳に届くような大きさで舌打ちをした。
「ごめんごめん。昼ご飯はバリトンが選んでいいから許してくれよー」
リアムも流石に申し訳なくなったのか持ち前のひげをいじくりながら頭を下げた。その日の昼食は空港の中で食べ、ラスはおいしい食べ物に懐柔されすっかりさっきの苛立ちを忘れていた。その後は空港があるホーク大国の首都ヌル州を後にし、半球のアンノーン星の果ての町と呼ばれる場所へと進んだ。その間カルム国の正義屋と見られる者を複数人見受けられた。

ホーク大国 フィン町
「え、皆さま観光に来られたのですか?」
町の入り口の門に着くとそこにはオーチャー島以上の砂漠地帯が広がり、検問の職員も口元にスカーフを巻き分厚いゴーグルをつけていた。
「はい。何か問題でも?」
何故か喧嘩腰のオリビアが職員の目をじっと見つめた。気候や土地の状態があまりにも危険のため、観光で訪れる物好きはほぼいない。職員の女性は戸惑いながら話し始める。
「あはは、冒険家さんなのかな。えーっと、そちらのお子さんはおいくつですか?」
「なぜです?」
「えっと、この町は災害なども多くあるので現地の子以外は原則15歳未満立ち入り禁止なんですよね」
職員はゴモゴモとそう言い切ると、オリビアはリアムの目を一瞬見つめ
「二人とも15歳です」
と大嘘を放った。結果的にはデンたんと大量の荷物を検問所で預かってもらうことになり、ラスは疑われながらもなんとか検問を通過した。
熟練冒険家の余裕からか砂嵐の中何の装備もなく平然と歩いていると、リアムは遠く先の方を見つめながらラスの恋愛事情について迫り始めた。
「バリトンはさ、ガネーシャと付き合っているのかい?」
突然すぎる問いかけにラスはせき込んだ。
「ゲホッゲホッ、何言ってんだよ。そんなわけないだろ」
「えーそうなの?生まれた時から二人はずっと一緒にいて、すごい仲いいじゃん。この前だって知らない間に隣町まで行って遊びに行ったんでしょ。しかも二人で」
オリビアも我が子のように遠慮なくこの話に乱入してきた。ラスはりんごのように顔を真っ赤にし、咄嗟に検問で貰ったスカーフで顔を隠した。
「何でガネーシャのお母さんたちが知ってんだよ。もう、別にいいだろ僕らのことなんて」
「良いわけないじゃない。あなた達が知らない危ないことだって世の中にはたくさんあるんだからね。例えば…」
「まぁいいじゃないか、オリビア。俺たちもそうやって学んで来たのだから。でもなバリトン、うちのガネーシャを貰ってくれるなら、俺らに負けないくらいの気持ちであの子を大切にしてやってくれよ」
いつもだらしないリアムだが珍しく真面目な顔をしラスの頭をポンポンと撫でた。その表情はラスの目に焼き付いた。そして自分の好意がはっきりと気づかれている事が分かりラスはしばらく二人の顔を見れなかった。次に二人の顔を見たのは後ろから若い男の声が聞こえた時だった。
「そこの三人、一回止まろうか」
あまりにも急な呼びかけに思わず三人は指示に従い、一斉に振り返った。ラスたちの瞳に映ったのは全身白の長袖長ズボンや白い靴に白いマスクに身を包まれた185㎝を超える巨体の男だった。
「うわっ、めっちゃイケメンじゃん」
旦那が隣にいることもお構いなしにそんな事を口から漏らすオリビアを無視しリアムは短く問うた。
「何者だ?」
「俺はこの国の…治安維持に努めているランゲラックというものだ」
「そんな君が俺らに何の用だ」
リアムは厳しい視線を投げると、ランゲラックは気にせず答え始める。
「ちょっと上の者から仕事があってね、その内容が不正に入国したオーリー夫妻とその子供を処分しろってものなのね。でも話にあった写真の子供がいなくて、少し大きめの子供になってるんだよ。不思議」
リアムは処分という言葉に体が震えながらも、反射的にオリビアたちを守るように前に踏み出した。
「処分って俺たちをどうするつもりだよ。それに俺たちはこの国の法に触れることは一切していないぞ」
「じゃあ、その通りなんだろうな」
「は?」
困惑で固まったリアムを前にして、ランゲラックはポケットから白に染められた拳銃らしきものを取り出し、
「表面上だけ見たらあなた達が正しいかもしれない。でもその裏側を見据えたうえでのあの人の命令だと僕は思った」
さらに荒れる砂嵐の中、肩に顔を付け標準を定めた。そして、ランゲラックは無慈悲にその引き金を引いた。
バンッ
そんな乾いた音が広大な砂の広場に広がり、リアムの赤く染まった血は砂の風に乗り遠くの方へと飛ばされていった。
「う、うそでしょ」
オリビアは思わずラスのことを守るように抱きかかえた。ラスは恐怖のあまり目を見開きオリビアの腕の中にうずくまり、もう一回同じ銃声が鳴り響いた。
「ガネーシャとデンハウスをあなたに託したわよ…優しい男になりなさい。またね」
段々と小さくなるオリビアの声に比例していくように腕の力が弱まっていき、遂に力なくでラスに倒れ掛かった。
「ガネーシャのお母さん、お父さん…」
ラスは茫然とし、その場に立ち尽くした。そんな光景を作り出した張本人はゆっくりとラスに近づいていき
「よかったな。僕は子供には手は出さないんだ。…恨むならこの国を恨めよ」
と言い放つと、砂嵐の方向へと歩を進める。
「待てよ。おっさん」
だが、ラスは下がること無くランゲラックの服の裾を強く掴み自分の方へと引っ張ろうとする。すると、ランゲラックは拳銃と逆のポケットから緑色の液体の入った透明のカプセルを取り出した。
「これはすごく危険な薬品で、この特殊なカプセル以外の物全てを溶かしちゃうやばいヤツなんよね。だから、僕に突っかかるのはやめような」
「やだね。俺はお前を…殺す!」
ラスはそう言うと、そのカプセルを乱暴に奪い取り、ランゲラックを蹴り飛ばした。
「うっ!やるな少年。だけど、もう止めよう。それを僕に渡すんだ」
「黙れ!突然現れて人の大事なものを消しやがって。お前にどんな理由があっても知るもんか、俺の正義はお前から全てを奪うことだ!」
「これが最後の警告だ。あぶないよ」
ランゲラックの柔らかい警告は怒りに満ちたラスに届くはずもなく、ラスは緑のカプセルを勢いよくランゲラックに投げつけた。
「くそ!」
ランゲラックは咄嗟にしまっていた拳銃を再び取り出し、カプセル目掛けて発砲した。
パリーン
ランゲラックの放った弾丸は見事カプセルを貫き、中から緑色の液体が少量ラスの右目に入ってしまった。
「うぁぁああああああ」
謎の煙をあげながら砂を飲み込んでいく緑の液体のすぐそばで、ラスは目をおさえ絶叫した。
「マジかよ。言ったじゃねぇか!」
ランゲラックはラスに怒鳴りつけながら、すぐそばにこぼれた緑色の液体からラスを離れさせた。砂漠ではとても貴重な水を全て使い切りもがき続けるラスの目から緑色の液体を洗い流す。この行動により、ラスの体への被害は被害は最小限に抑えられた。しかしラスの右目は失明と共に緑色に染まり、帰国後にオッドアイを嫌がったラスは左目に緑色のカラーコンタクトを入れた。これがラスとランゲラックの因縁の始まり、そして緑眼が誕生したきっかけである。

   To be continued…  第23話・ヒーローレスキュー
 点と点が結ばれ、線となり新たな点が生まれる。 2022年10月29日(日)午後8ごろ投稿予定! お楽しみに!!


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