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連載小説【正義屋グティ】   第9話・冤枉

 
9.冤枉


 現代 教室
 
グティ達は一連の事件ののちウォーカー先生により、教室に再び招集された。ナタリーの体は既に正義屋に保護され、生きているのかすらもわからない。クラスメイトも一言も言葉を発さず、皆が机とにらめっこをしているような状態だ。その中でもスミスは嗚咽を上げながら廊下で泣きじゃくっている。
「スミス…」
グティの口からついそんな一言が、ため息とともにこぼれ落ちた。次は自分の番かもしれないと、怯えながら『遺書』らしきものを書いている生徒の姿も見られ、教室は一層険しい雰囲気に包まれた。さっきまでご機嫌だった空が突然と泣き始め全開だった窓から大量の雨水が教室を勢いよく湿らせていく。
「窓、閉めてくんね?」
ニコルがこわばった声色でみんなに問いかけるが、誰一人として返事どころか全く見向きもしない。それが妙に不気味に感じたニコルは一人で小さく数回うなずいてから静かに窓を閉める。もうその時には、窓際のナタリーの机の上には小さな湖が誕生していた。そんな湖から床にしずくが垂れ下がるのを見てニコルは少し頬を緩ませた。
「なぁ、みんな。この騒ぎの元凶を知りたくないか?」
「…逆に、知りたくねぇ奴なんているの?」
ニコルの問いかけに一拍空けた後、カザマがわかりやすく怒った顔をして声の方向に振り向く。ニコルは何故か少し笑みを浮かべながらグティの席にゆっくり近づいて行った。
「なんだよ」
状況を把握する能力が著しく欠けているニコルに軽い怒りを覚えたグティは口をとがらせる。するとニコルはグティの肩を二回ほどたたき
「お前なんだろ。腐りきった人殺しは」
と、クラス全体に聞こえるような大声で呟いた。
グティはまさか自分に言っているわけが無いだろうと、すぐには反応できなかった。
「とぼけても無駄だぞ。イーダンの時も、ナタリーの時もいつも近くにお前がいたよな。何の恨みがあるのかは知らないけどよ、もうこの際自白したらどうだよ?」
だが流石に自分の真後ろから、かけられた疑惑の声に思わず動揺してしまったグティは、ニコルやみんなの『疑惑』が『確信』に代わるのを恐れて勢いよく席を立った。
「…僕じゃない」
皆がグティからある程度距離を保ち、怯えた目でグティをじっと見つめる。その緊張に耐えられなかったグティは、頭に用意していた反論が綺麗に削除され完全にフリーズしてしまった。だが、この間もニコルからの猛攻は止まることはなかった。
「じゃあ、提案があるぜ。この後にまだ探索があるようなら、みんなで3人以上のグループを作ってそのグループで行動するのはどうだ?そうすれば殺人鬼の誰かさんもむやみやたらには動けないだろ。」
「誰が、殺人鬼だって?」
グティは鋭い目をニコルに向け、鋭利な歯をちらつかせると、ニコルは突然うろたえてグティから距離を取り自分の席へと戻っていった。その後はすぐにウォーカー先生が汗びっしょりで教室に入ってきて
「緊急のため正義屋から生徒は帰るように指示された」
という伝言をグティ達に伝え、その日は強制的に家に帰された。いつもは寄ってくるパターソンが今日は遠目で見守っているだけだった。グティにとってこんなに『最悪』に近い日は実に三年ぶりである。
 
 
「グティ、助けて!」
グティが薄暗い校舎内を歩いていると、上の方からパターソンの叫び声が聞こえた。すぐさま駆け付けたグティの目には、全身血だらけのパターソンに拳銃を構えているにコルの姿が飛び込んできた。
「パターソン!大丈夫か?!」
グティがとっさにパターソンに近づくとニコルは何を思ったのか突如として高笑いを始めた。この悪魔が自分をはめたのかと考えるとグティはニコルに異常なまでの怒りを感じ、パターソンの救助よりも先にニコルにとびかかった。
「この悪魔が!」
だが、ニコルはあくまでも冷静にグティに銃を構えた。
「祖父を恨め」
次の瞬間、ニコルの構えていた銃が大きな音を上げて煙を出した。グティは自分の腹部を抑え、そのまま地面に倒れ込んだ。床にはパターソンの血とグティの血がゆっくりとまじりあった。色は変わらず赤のままだ…
 
 
翌日
 
「はっ!」
グティが目を覚ましたのはいつもの馴染み深いベットの上だった。グティは撃たれたはずの腹部をさすりさっきのが夢だったと自分に言い聞かせた。そしてこの夢を登校中、少しおびえた様子のパターソンに話した。なぜ話したかは自分でも分からないが、少しでも多くの人間に自分の身の潔白を証明したかったからであろう。だから少し大きめに話して後ろで大きな歩幅で学校に向かっているアレグロにも聞こえるようにした。
「みんな、おはよう。今日も宝探しの続きをしようか」
ホームルームが始まりウォーカー先生はいつもより二人も少ないクラスに向かって語りだした。グティら13人の生徒は今日も再び宝探しを始めることになった。グループは昨日の夢で見たのと同じグティとパターソン、ニコルの三名。その三名は昨日ナタリーがやられた第五棟を今、探索している。
「グティは四階。僕はニコルと屋上を探索するよ」
パターソンの指示にグティは親指を上に立て同意し、恐る恐る薄暗い空き教室のドアノブに手をかけ、固唾を飲みこんだ。
「怖くない」
グティが震える左手を右手で押さえ、そう言い聞かせた。
バンッ
すると間もなく屋上の方で大きな銃声がグティの耳に届いた。
「嘘だろ!」
グティの脳内では昨日の夢がフラッシュバックしてニコルの高笑いが耳に届いた気がした。
グティは走って屋上に繋がる梯子に手を掛けた時パターソンの悲鳴が聞こえた。
「グティ!助けて」
と。
 
 
          To be continued…【 第十話・沸点】
  次回は第一章最終話!2022年5月29日(日)投稿予定!お楽しみに!
 
 


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