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連載小説【正義屋グティ】   第40話・少女の決断

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第39話・鬼の反乱】
重要参考話→【第7話・慟哭】(ナタリー)
     →【第31話・失敗作】(アレグロの兄)
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ
新入生歓迎会の最中に突如として現れた小型ミサイルと戦闘機が正義屋養成所を襲う。戦闘機から出てきた赤の服をまとう武装集団により、一棟にいたスミスと新入生は捕らえられ、何とか姿をくらませたパターソンと新入生のサムは救助を呼ぶべくアレグロに電話を掛ける。しかし、アレグロは自分の受けている使命と異なるからと要求を拒み、パターソンの考案した作戦によりグティとカザマを一棟に助けに呼んだ。何とか一棟二階の武装集団を倒した二人と加勢したパターソンによって場はしのがれた。そしてその直後デンたんと、ジェニーによって正義屋養成所内に大量の火災報知が鳴らされ、大量の武装集団を二棟へとおびき寄せることに成功した。そして、手薄になった一棟一階では武装集団を制圧したアレグロが、背後にいたサムに気づかづ絶体絶命な状況に陥る。そしてノアによりこの事件の目的と、ホーク大国という大きな黒幕が明かされたのだった。


40.少女の決断

『ホーク大国』ノアが放ったその言葉を認識したアレグロたちは息をすることすら忘れて、その場で身を震わす。
「てめぇ、今何て言った」
後頭部に着けられた銃口の感覚がより鮮明に伝わる。アレグロは遠くで降り積もっていく雪景色を見やりながら喧嘩腰にノアに問いかけた。
「何だ、聞こえなかったのかよ。この襲撃はホーク大国によるものだと言っているんだよ」
「それが本当なら…戦争が起きるぞ」
珍しく声を震わすアレグロに対し、ノアは不敵な笑みを浮かべ銃口をぐっと押し出す。
「戦争か。国際的には新資源を独占し経済的に余裕があり、国内ではプロパガンダによって国民の士気が高い。そんな今のホーク大国にたかが中央大陸の小国が対立できるわけがない。…もう『60年前』とは違うのだ」
「『60年前』なんてそんな昔のことは知らねぇよ。俺たちはお前らホーク大国をぶっ潰すことしか考えてねぇからよ」
「言ってくれるな、少年」
するとノアはゆっくりと拳銃の安全装置を外し引き金に指をかけると、
「そうそう。これもニコルさんから聞いた話だが、お前の兄らしき男 デューン・コキ は上層部から目を付けられているらしいぞ。きっと消えるのも時間の問題だとよ」
と追い打ちをかけるかのようにアレグロに言った。突然の兄の名にアレグロは咄嗟に目の色を変えると、向けられていた拳銃を拳で弾き飛ばした。
「しまった!」
油断した隙を突かれたノアは重い音を立てて床に落ちた拳銃に向かって駆けだした。手を伸ばせば届く距離に拳銃がある。勝ちを確信したノアの口角はゆっくりと上がっていき、後ろで微動だにしないアレグロを撃ち抜くことを頭に思い浮かべたその時だった。
「なに!」
ノアの目の前にあった拳銃はひょいと上に持ち上げられ、視界から消え去ったのだ。その瞬間、先ほどまで落ち着き始めていた吹雪が再び教室の中へとなだれ込み体中に粉雪がまとわりついた。が、不思議とこの教室にいる人間はそれに気づかなかった。いつもなら凍えるような寒ささえも忘れその状況に皆がのめり込むほどだった。
「…動かないで」
静かにそう命令する冷たい眼差しをノアに送りながら、スミスは銃口を向けた。
「う、撃たないでくれ!僕には…国に家族がいるんだ!」
ノアは絶体絶命な状況に腰が引け、銃口の黒の奥をただひたすらに眺めていた。教室の隅の方では左腕から血を流したアレグロがゆっくりと立ち上がる。
「撃て、スミス」
凍りついたそんな言葉は手を震わすスミスの身体をさらに縛りつけた。
「撃て!スミス!」
「…できない。できないよ!だってそんなの人殺しじゃない!」
「なぜだ。そいつはホーク大国の人間だ!いずれ殺し合う時が来る。今こいつを野放しにしたら生きたこいつにお前の仲間が殺されるかもしれねぇ。もしそうなったら、お前は責任逃れと過去を拾う代わりに多くの命を捨てることになるかもしれねぇ!そっちの方が…人殺しだ」
アレグロは悪くなっていく視界の中、スミスの目をじっと見つめる。スミスは目に涙を溜め、アレグロに助けを乞うような眼差しで見つめ返した。
「忘れんなよ。そいつらホーク大国の使いだったニコルが、お前の相棒のナタリーを殺したことを」
スミスは息を飲んだ。心の支えだったナタリーを失ってから二年間、心から感情を表すことが出来ずただ淡々と日々をこなしていき、何のために生きているのかすらわからなくなる時もあった。正義屋養成所にいて未だに自分の正義を見つけられずに彷徨っていたスミスにとってアレグロの言葉が心の深くに刺さったような気がした。
「私の正義…きっとそれは私のように大切な人を奪われて心に穴が空く人を少しでも減らすために、その根源を破壊する事なんだと思う。そう、ホーク大国を崩壊させることが私の正義だ!」
「待て!お願いだ、僕を生かせてくれ!」
ノアの悲痛な叫び声がスミスの耳にも確かに飛びこんできた。スミスは赤くなった目からいっぱいの涙を流すと、下唇をぐっと噛んだ。唇から血が流れ、前歯が赤く染まる。そしてスミスは銃口をノアに構えると引き金を引いた。
バンッ
一発の銃声が校舎中、そしてナタリーの心に響き渡った。自分のひと時の決断で、自分の前にいた敵が地面に倒れ込んだ。
「嘘!わたし…」
帰り血で濡れた汚れた手を凝視し、泣き崩れるスミスを横目にアレグロは教室から出ようとしていた。
「強い憎しみは時に誰の信念と変わり、それに魂が加わることによって正義が生まれることがある。俺は正義じゃなくて使命によって動いている。だから正義がどうとか言っているような奴らの気持ちはわからねぇ。でもお前たちを見ていると何か感じる時があるんだ。グティレスがそのいい例だ、あの狼を見てるとそう思わずにはいられないんだよ」
そう口にすると左腕を押さえながらアレグロは教室から出て行ってしまった。

時は少しさかのぼり場所は変わって、ここは正義屋養成所内にある正義屋軍基地。この日は新入生歓迎のため、いつもなら常駐している正義屋の職員たちが不在である。古臭く広い基地の中には数機のロボバリエンテと様々な武器が整頓されて置いてあり、その広い空間には勿論暖房はなくどんなに寒い日でも職員は我慢して職務に取り組んでいる。その気持ちを今まさに味わっている者がいた。
「あっちゃー派手にやられたね」
学ランの上に青いダウンを羽織ったグリルは天井に出来た大きな穴を見つめて頬を緩ます。穴の真下には基地の内部にも関わらず雪が積もっており、吹き荒れる吹雪の音が騒がしくグリルの耳に飛び込んでくる。
「おいおい、なんか奥にガキがいるな」
「ガキ…?あれはもしかしてターボ・グリルじゃねえか」
ふと基地の奥の方に意識をやってみると、無数の足音と共に赤の服を身にまとった武装集団がぞろぞろとやってくるのが分かった。その先頭を行く男は降り積もった雪の束を前にして立ち止まる。
「誰だよ、あんた達」
グリルは降ってくる雪の方を見つめながらそう口にした。
「冷たい冗談を言ってくれるなぁ、俺たちは同士だろ」
「同士?俺はあんたたちの事知らないよ」
「何しらばっくれてんだよ、獣の子グリル君」
男が体を前のめりにしそうあざ笑うと、後ろにいた仲間たちも一斉に腹を抱えて笑い転げる。
「あんたら、まさか…」
グリルはさっきまでの余裕な表情がウソみたいに、不安そうな顔をして自分の足元を見つめた。ドクドクと鼓動が速くなっていくのが分かる。頭の血管は浮き出て、手のひらに冷たい血が走った時にはグリルの拳は男の顔を殴りつけていた。
「うぉおおおおお」
という、獣のような雄叫びを上げながら…

        To be continued…      第41話・そのふたり
獣の子と呼ばれるグリル。その本性とは…?2023年7月9日(日)投稿予定!お楽しみに!今回で遂に40話!いつもご愛読やスキ、コメントありがとうございます。これからもよろしくお願いします!

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