連載小説【正義屋グティ】 第32話・いとまごい
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前話はコチラ→【第31話・失敗作】
重要関連話→【第2話・出来損ない】【第5話・意地悪な】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】
~前回までのあらすじ~
正義屋養成所の新入生歓迎会にて突如、消息の絶たれていたデューン・アレグロが帰還した。正義屋の養成所に通いながらホーク大国に牙をむくベルヴァの隊員であるアレグロは、グティの祖父、そしてホーク大国に潜入している兄デューン・コキからある使命を授かった。『ベルヴァの希望、グティレス・ヒカルを守り抜け』その使命を果たすためにデューンは奮闘していた。
32.いとまごい
グティと三年生以外の生徒はホールの隅から滲み出るまがまがしい雰囲気から距離を置き、その集団を黙って見つめていた。
「これが俺の全てだ。俺がこの正義屋に来たのもその使命を果たすため。もう何一つ隠し事なんてしてねぇよ」
アレグロはホール屋上に吊るされた蛍光灯に焦点を当てると、傷だらけの顔をさすり悲しげな表情を浮かべた。ただひたすら話を聞いていた3年生11人とウォーカー先生は互いに顔を見合わせ黙りこむ。
「先生よ。今日は帰らせてもらうよ。ちょっと疲れすぎたもんでね」
「そうかい。好きにしろ」
ホールに背を向けるアレグロを止めることなくウォーカー先生達はそれを見守った。ある一人を除いては…
「待て。お前の過去はよくわかったが、お前がいう『バーサーク菌』だの『ホーク大国』だの、重要そうなキーワードがあるじゃねぇか。なんで詳しく教えてくれねぇんだ?」
そうアレグロを引き留めたのは、いつも通りだらしなく制服を着こなすカザマだった。アレグロはぴったと足を止めるとカザマの方を向き、怖い顔をしながら
「やっぱり隠し事あったわ。今君の言ったキーワードについて詳しくは話せない。でもこれだけは教えてやろう。ホーク大国はお前らの敵だ」
と言い切った。ハッとしたカザマは思わず腰を抜かすと、追い打ちをかけるようにアレグロは言い放つ。
「言い忘れてたけど、今言ったことが少しでもグティレス・ヒカルの耳に入ったら…殺すからな」
と。場は完璧に凍りつき、アレグロが出て行ってからもしばらく状況は変わらなかった。
「えーっと、新入生のみんなには申し訳ないんだけど、今日の新入生歓迎会はもう終わりにするね。午後の授業まで解散!」
そんな空気を何とか打破しようと新所長のミラはマイクを手に取り生徒の耳を優しい声で包み込んだ。
「はーい!解散しまーす!」
相変わらずのグリルとデンたんは目を輝かせながら大きな返事をした。何が何だかわからないまま歓迎会が終わった一年生の生徒は気まずそうにホールを後にする。その後を一人仲間外れにされたグティがむすっとした顔で続いていた。
「なぁグティ」
「なんだよ、バカザマ」
「誰が、バカだと…」
皮肉のこもったグティの返事にイラっとしたカザマだが、何とか怒りを拳の内に収め、ひきつった笑顔でグティに問いかける。
「ほら、俺ら今年で15じゃん。だから正義屋養成所の俺らが一般に人間よりも3年遅く許可される アレ に乗ってみねぇか?」
「 アレ ってまさか」
さっきまで険しかった二人の顔はぱぁっと明るくなり、急いで正門近くの駐輪所に向かった。
駐輪所
「えーっと確かここら辺に…あ、あれだ!」
気持ちの良いほどの青空に、白く輝く雪の大地。そんな場所にポツンと一台の青の自転車が置いてあった。
「おおぉ、本当に二輪しかねぇ!これで本当に動くのかよ」
「あたぼうよ!俺は三輪車のプロだぜ。乗るのはお前に見せるまで我慢して押してきたけど、簡単に乗りこなしてやるよ」
カザマはそう自信満々にサドルをまたぐと、付いている左足を地面から離しペダルに足を付けた。そして既に完治しているにもかかわらず、カッコイイというひと思いでずっと身に着けていたアームリーダーを取り払いハンドルに手を付ける。
「お、おぉ。あぁっと!」
しかし、その自信は裏腹にカザマは情けない声を上げながら、身体を雪の中にうずくめた。
「ははははは。乗れないのかなぁ、カザマ君~」
グティは白い雪がくっついたカザマの学ランをはたきながら大声で笑う。
「こんにゃろ!なぁに笑ってやがる!」
顔を赤らめたカザマは、起き上がるとグティの顔に咄嗟に作った雪玉をあて、しりもちをつかせた。
「何すんだ!バカザマ」
「お前が悪いんだよアホグティ!」
「なぁ、チュイ。あれ見ろよアイツラまたけんかしてやがる」
「そうだね。まぁ平和でいいじゃん。いつも通りで」
「それもそうだな」
ホールから出て行くチュイと、その友達の辛い物の得意なバントスに足がとてつもなくデカいヘンリーはかつての友達を弔いにある場所へと歩を進めていた。
「あれからもうすぐ、二年か」
チュイが言葉をこぼすと、チュイの頭の中に二年前の正義屋養成所連続殺傷事件で爆殺したアップル・イーダンの顔が浮かび上がった。かつての仲間に最初の友達を殺され、その血まみれの腕を手に持った時のことをじっと頭で思い返してみた。
「チュイ、大丈夫か?そんな顔して」
バントスが小さなチュイの肩に手を置き、そう慰める。
「あぁ、ありがとう。ちょっとぼおっとしていただけ」
「俺らはいつまでも四人組だ」
ヘンリーももう片っぽの肩に手を置き、再び歩き始めた。
「何してんだ?置いてくぞ、チュイ」
「今行くよ!」
冷たくチクチクとした風がチュイの頬をかすめる。思い出したくない過去を頭から振り払い、チュイは二人の後を追いかけた。
一棟と二棟の間の中庭
巨大な校舎にはさまれ凍結している噴水や、太陽の光とマッチして美しさが際立つ渡り廊下に滴る氷柱が三人を迎い入れた。
「また校舎が小っちゃくなったんじゃね?」
「違うよ、君らがでかくなっただけ。チビの僕への皮肉か?」
毎月恒例のヘンリーとのくだりを適当に流したチュイは、花を手向け手を合わせた。後ろにいる二人も同じように手を合わせ目を閉じた。心の中でたくさんイーダンと話した。趣味の事や、夢の事を。そして耳を疑った、突然、校内に流れ出す緊急連絡放送のサイレンを。
ウィンウィンウィンウィンウィン
「こちら正義屋の保安部隊。現在、ホーク大国より謎の小型ミサイルと戦闘機がこの正義屋養成所に向けて飛んで来ている。校内にいる人間はすぐさま避難しなさい!繰り返す…」
「は?なにこれ、どういうこと?」
チュイは唖然とし、その場で固まっているとバントス達に腕を掴まれ
「何もたついてんだ、早く逃げるぞ!」
と引きずられた。
「待って!逃げるってどこへ?」
「そんなの、この養成所のどこが被害に遭うか分かんねぇんだから、養成所の外に決まってるだろ!」
「『養成所のどこが被害に遭うかわからない』?」
ヘンリーの言葉に、チュイは思わず腕を力いっぱい振りほどき先ほど花を手向けた場所に急ぐと、雪の中を漁り始めた。
「何やってんだ!そんなとこにいたら死んじまうぞ!」
バントスの力強い声に少し震え上がったが、そんなことを気にせず手を血だらけにさせながら雪を掻き続けた。
「チュイ、いい加減しろ!こうなったら力づくで!」
ヘンリーが荒ぶるチュイの身体に触れて途端、チュイはヘンリーの顔を力いっぱい殴り飛ばした。
バシッ
鈍い音と共にヘンリーは雪に尻もちをついた。
「チュイが、人を殴った…」
その光景を固唾を飲み眺めていたバントスも驚きを隠しきれなかった。そして我に返ったチュイは二人に、
「ごめんなさい。でも、この土の下には二人が知っている通り、僕とイーダンの夢を誓い合った大切なものがあるんだ。だから…それをほって逃げたりできない」
と頭を下げた。
「でもよ、チュイ…」
鼻血を手で拭きながら説得をしようとするヘンリーをチュイは黙らせた。
「イーダンは、僕の初めての友達だから!!!」
という一言で。
涙を流し頭を下げ続けるチュイに胸を撃たれたバントスはチュイの元に向かうとチュイを遠くに放り投げる。
「なにすんだよ!」
訳の分からないままチュイは声を荒げた。
「チビなお前がこんな雪の中を掘っても変わんねぇよ!ここは俺たちに任せて、早く逃げろ!」
「そうだ!お前がいると足手まといになるだけだ!」
二人はそう言い切ると、チュイの事を気にせず素手で地面を掘り進めた。
「そんなことしたら二人が!」
黙っていられないチュイはまた立ち上がるとそう叫び、二人の元に向かおうとした。
「来たら、ぶん殴るぞ!俺らのリーダー!」
が、そんなことを二人がいうものだから、チュイは声を上げて泣きながら正門へと向かった。
ゴゴゴゴゴゴ
それから数分もたたないうちに小型ミサイルは数発正義屋養成所に着弾した。その中の一発は二人のいた中庭に落ちていた。二年越しに立ち上る大きな炎と黒い煙のすぐそばには黒く汚れた宇宙飛行士のヘルメットがぽつんと置いてあった。それを手に取ったチュイは堪えきれずに大粒の涙を流した。
「うあああああああああああん」
散った三人の友に届くくらいの大声で。
To be continued… 第33話・ブルーサファイア
散っていく仲間たち。そして彼らを襲う試練はまだ続いていく。2023年3月26日(日)午後8時ごろ投稿予定!お楽しみに!!
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