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連載小説【正義屋グティ】   第41話・そのふたり

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第40話・少女の決断】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第11話・若きコンプレックス】(ソフィア)
      【第28話・華の所長】(新入生歓迎会)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
新入生歓迎会の最中に突如として現れた小型ミサイルと戦闘機が正義屋養成所を襲う。戦闘機の中からは無数の赤い服を着た武装集団が現れ、正義屋養成所の三年生は各所で奮闘していた。手薄になった一棟一階では、人質となっていたスミスと新入生たちをアレグロが助けに行くが、惜しくも武装集団の一人のノアに阻まれてしまう。そしてその際に、この養成所襲撃事件はホーク大国によるもの、そして二年ほど前にナタリー達に発砲しスパイとして潜入していたニコルはその仲間だと判明した。そのことを知ったスミスは不意に訪れたチャンスで自分の正義を見つけノアを倒した。そして場面は変わり、正義屋養成所に常駐している正義屋の基地に攻めてきた武装集団にグリルは拳を交わしていた。

41.そのふたり


ボコッ
そんな大きく鈍い音が武装集団の耳に飛び込んでくる。それと同時に先頭を歩いていた仲間の一人が鼻から血しぶきを上げながら、冷たく冷え切ったコンクリートの地面に打ち付けられた。
「がはっ!」
「班長!」
横になってピクリとも動かなくなった男に群がる仲間たちは、何の恨みがあるのか『班長』を乱暴に揺さぶり、何回も頬をはたいていた。
「お前ら、本当に仲間かよ」
グリルは呆れた眼差しで頭上がほんのりと白くなってゆく男たちを眺め、天を仰ぐと皆が一斉にグリルを睨みつけ
「安否確認だ!」
と、声を合わせグリルに銃を構える。白く分厚い雲からは無数の雪がその光景を一目見ようと、踊りながら基地の地面へと降ってくる。四方八方から銃口にのぞき込まれ逃れようのない状況だと理解するであろう。もしそれがこの男でなければ…
「まさか君らがこの事を黙ってくれるなんてことはないだろう。だから、申し訳ないけどここで全員やられてくれ」
グリルはそう一言残すと、突然その場で高く飛び跳ねた。
「なに⁈」
その人間離れした跳躍力に赤い服の武装集団は皆心を奪われ、唖然とした。そしてその隙にグリルは目の前の敵の顔面にきれいに飛び蹴りを入れたのだ。
「ぼーっとすんなよ」
男が白目をむきながら地面に倒れた時には、その隣の男にも拳を食らわせていた。
「うわぁ!」
物の数秒で少年一人に仲間が二人もやられたことに焦りを覚えた男たちは、無我夢中で引き金を引いた。が、そんな無鉄砲な攻撃でグリルを倒せるわけもなく、流れ弾に倒れていくものが続出した。
「くっ!噂には聞いていたがまさかここまでとは…」
流れ弾に左肩を撃ち抜かれた男はゆっくりと後ずさりをはじめその場から立ち去ろうとする。先ほどまで整っていた武器や、何かの木箱などがあちらこちらで散乱し見るに堪えないような状態だが、この男には好都合。いい大きさの木箱を隠れ場所として狙いを定め、ゆっくりと進んでいく。
「待てよ」
しかし、現実はそう甘くなくどこからか湧き出たグリルによって気づけば吹き飛ばされていた。
「言ったろ、誰も逃さねぇって。覚えておけ、俺にはぜってぇに死んでほしくない人がいる。その人のためなら俺は容赦しない!」
グリルは雄たけびを上げると再び背後に残る大量の敵を向かいうとうとした、その時。今さっき自分が殴り飛ばした男の銃口からでた鉛玉がグリルの脇腹を突き刺した。
「ぐぁっ!」
何が起きた、身体が思うように動かない。グリルは突然身に走った激しい痛みに思わず膝まづいた。そしてそれに勝機を見出した男たちが一斉にグリルの顔目掛けて拳を放つ。
「くそっ!」
何とか得意な足技で拳を止めたが、横から来たもう一人の男の傷口を蹴られその場に倒れ込んでしまった。
「くそっ!手こずらせやがって」
とどめを刺した男が再び腰に巻いた拳銃を構えると、地面に倒れ込み動かなくなった15人ほどの仲間を眺め激しい怒りを覚えた。辺りには物騒な武器や破壊された幾台の戦闘用の車、それに生々しい血が無雑作に散らかっている。
「てめぇ、随分と暴れてくれたな。流石獣の子として沸かせただけはある」
「う、この…やろう」
「だが、そんなお前も最後だ。裏切り者に制裁を」
男は引き金に指をかけて深呼吸をすると、弱り切ったグリルをあざ笑い指に力を込めた。
ドコッ
銃声?いやもっと低く、けたたましい音がした。死を覚悟したグリルは目を開けるとそこには赤色の髪を伸ばした緑眼の男が拳を血で濡らし平然とした顔でその場に立っていたのだ。
「お前は!」
「今の養成所最強がこんなんだと、先が思いやられるな」
紺色を基調とし胸には世界平和を表す銀色の五角形、そして赤の繊維で染まった両袖の服。そう、その男は正義屋の戦闘服を着ていたのだ。
「お前は、ラス・バリトンだな」
グリルは、痛む傷口を押さえながらなんとか立ち上がり、赤く濡れた拳をラスの胸に置いた。こんなにも異質な光景にわずかとなった敵の生き残りも口を開けてその場に立ち尽くしていた。
「なんで、あの裏切り者が、ホーク大国にとっての要注意人物と馴れ合ってんだよ」
武装集団の男の一人がそう口にすると、それが耳に入ったのかラスはグリルの顔を見つめながら何やら話を始めた。
「今日の新入生歓迎会に俺は、半年前の首都襲撃事件で勇敢に戦った職員として表彰された。まぁ表彰と言うが、俺にとっては首都の街をあんなにぐちゃぐちゃにしたテロリストの素性も暴けなかった情けない職員の恥さらしのように感じたがな。だが、この調子だとあの事件もお前たちの仕業なんだろうけどよ…まぁいい、俺はその会の後にこの基地で残業をしてたんだよ。だから、今ここにいる。グリル、君の評判は聞いていたから少し見学してたんだ。ごめんね」
ラスは口をつむり自分の胸からグリルの拳を避けると、グリルは口を結び悔しそうな顔で
「ラス、俺と戦え!」
と一言放った。何が起こったかわからなかった。それは当事者であるラスも同じく、目を点にさせ動きを止めた。
「戦え?」
「そうだ、俺は強くなるんだ。だから強い奴を倒すんだ!」
グリルは今にも倒れそうな体でそう言い切ると、ラスはクスっと笑顔が洩れてしまい、グリルに背を向けた。
「さすが『問題児の巣窟』の代の筆頭。昔の俺にそっくりだな、君は。いいだろう、でも君が元気になったらね」
ずっと蚊帳の外だった生き残りの武装集団の男たちは、ラスに身体を向けられるだけで体の隅々まで寒気が走った。そして、言うまでもなくその場はあっという間に制圧されたのだった。

正義屋養成所に落とされた小型ミサイルの数は三つ。一つはチュイ達がいた一棟と二棟の間の中庭。二つ目はグリルのいた養成所常駐の正義屋基地。そして三つめが今、マーチ・ソフィアが瓦礫の下敷きとなり倒れている大ホールだった。
「うぅ…」
あの激しい爆音がしてからどれだけ時が経っただろう。ソフィアはかわいらしい顔を自分で優しく撫でその手を見つめる。
「血…だ」
そうソフィアの身体は既にボロボロで、羽織っていたダウンにいくつもの切れ込みが入り、そこから大量の綿が飛び出してしまう程だった。しかし運よくソフィアに覆いかぶさっていた瓦礫は軽く自力で立ち上がることに成功した。数時間前の大ホールの面影はとうに消え去り、天井には一つの大穴。規則正しく並べていた椅子は見るも無残な姿で散らばっており、それは新入生歓迎会の片づけをしていた先生たちも状況は変わりなかった。
「ウォーカー先生⁈」
ソフィアの視界に担任の先生の姿が入った。ウォーカー先生は膝と腕を曲げ、その場で倒れていた。その傷はひどく、ガラスの破片でも刺さったのか頬から首にかけて血を垂れ流していた。
「大丈夫ですか?先生!」
総合分校時代のグティの件で血を見るのに抵抗があったソフィアだったが、覚悟を決めウォーカー先生に顔を近づける。すると先生はわずかに目を開け
「大丈夫のわけないだろ…これで正義屋に救助を」
と笑い、ソフィアに目線で自分の胸ポケットを探らさせた。
「これは?」
「それは、ここの教官が皆持っている正義屋本部へと緊急事態を伝えるためのものだ。仮に今みたいに電話回線を途切れさせられても、このボタンは無線で通じるため通信は可能だ。いいか、ボタンを長押しして端的に今の状況を伝えてくれ。」
ソフィアは少し、戸惑ったがすぐに言う通りにした。
「こちら、首都正義屋養成所三年マーチ・ソフィアです。緊急事態です!…」

それから数十分後このとだ。正義屋養成所に10機ほどのロボバリエンテが到着し、養成所内に残った武装集団を拘束し身元や目的を吐かせた。翌日世界的に報道された内容が次のような文章になった。
『ホーク大国がカルム国の直轄機関である正義屋養成所を攻撃。死者、重傷者は両国ともに出し、その中でも正義屋養成所の三年生、ロイ・バントス、シューズ・ヘンリーが亡くなった。この事件からカルム国の正義屋総裁のラギ・モンドは半年前の首都襲撃事件をホーク大国の犯行と決定づけ、それ相応の報復措置をコア大陸諸国全体でとると発表。60年前の世紀大戦の終戦以降この両国の関係は最悪となった』

報道直後 ホーク大国 王宮
「ホーク様、よろしいでしょうか」
王の側近であるオリバー・マイケルはいつもに増して整えてきた金色の髪の毛を右手で整え、香り豊かな紅茶のポットの取っ手を左手で支える。マイケルは高貴な茶色の木材で出来たドアの前でその返事を待っているとドアの奥から
「どうぞ」
と、年老いた声が聞えてきた。この男こそがアンノーン星に代々語り継がれる人間を超越した『五神伝説』の一人である。マイケルは顔を強張らせゆっくりとドアを開ける。部屋の中に香る木の独特なにおいを堪能しながらマイケルは深々とお辞儀をした。
「マイケルさん。どうしましたか、今回は」
「ホーク様、それがある声明を国際社会に向けて出して頂きたいのです」
マイケルは先日起きたカルム国での事件の詳細を説明すると、ホークは小さくうなずきマイクと台本を手にした。
『ごきげんよう。私は、ホーク大国の王だ。今回のカルム国での事件は私たちの仕業であることには間違いない。しかし、半年前カルム国起きた紛争で巻き込まれた私の国民が大きな損害を受けている。我らはその不可解な事件をカルム国の自作自演だと受け取り、今回のような報復措置を行ったのだ。それと、もう一つ忠告しておく。私たちはもうあのような戦争は望んでいない。悪夢の世紀大戦はもう二度と起こしてはならないのだ』

                    ~第三章・終結~

  To be continued… 第42話・世紀大戦
幕を閉じた正義屋養成所襲撃事件。だがその裏にはとんでもない過去があったのだ。
2023年7月17日(月・祝)投稿予定。次回からついに第4章。とても重要回となるのでお見逃しなく!お楽しみに!!


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