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連載小説【正義屋グティ】   第36話・共倒れ

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第35話・赤の進軍】
重要参考話→【第10話・沸点】【第21話・本当の】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
新入生歓迎会の最中に突如として現れた小型ミサイルと戦闘機が正義屋養成所を襲う。戦闘機から出てきた赤の服をまとう武装集団により、一棟にいたスミスと新入生は捕らえられ、何とか姿をくらませたパターソンと新入生のサムは救助を呼ぶべくアレグロに電話を掛ける。しかし、アレグロは自分の受けている使命と異なるからと要求を拒み、パターソンの考案した作戦によりグティとカザマが一棟に助けに呼んだ。何とか一棟二階の武装集団を倒した二人だったが、生き残っていた武装集団の一人、ノアが放った弾丸がカザマの足に命中したのだ。グティは発砲音の方を向くと、そこには頭から血を流すノアの上で震えながら鉄パイプを握るパターソンの姿があった…

36.共倒れ

「はぁはぁはぁ」
僕は今、本気で人を殺めようとした。激しく震えている手の内に包み込まれた鉄パイプには、さっきまではなかった赤い血がその罪を責め立てる。足元には、自分よりもずっと図体のでかい知らない男の人が頭から血を流し動かなくなっている。鉄パイプから滴っていく血を無意識に見ていると耳の奥からキーンと音が聞こえ、それ以外の音が遮断されているようにも感じた。
「パターソン!パターソン!」
自分の名前が微かに聞えてくる。パターソンは声のする方に目をやってみると、そこにはグティと足を押さえ倒れているカザマがいた。
「…グティ?」
「パターソン、早くそこから逃げろ!そいつはまだ生きているぞ!」
グティが必死な形相で訴えかけているとパターソンの足は何者かに掴まれ、バランスを崩し緑の床に身体を打ち付けた。
「うわっ!」
パターソンの声は冷たい空間に響きわたる。何事だと思い目を開けてみると、そこには先ほど自分が殺したはずのオレンジ色のひげを生やした男が自分に覆いかぶさっていた。
「痛いじゃないか、少年」
小さな子供相手に不覚を取ったノアは、薄れる意識の中パターソンの額に銃口を突き付けた。しかし敵だとは言え子供の命を奪うことを躊躇したノアはその引き金をなかなか引けずに、パターソンの怯える目の奥をじっと見つめていた。
「やめろ。パターソンから銃を離せ!」
少し遠くのところではグティがカザマの傷口を押さえながら、こちらに怒鳴り声をあげてくる。外の吹雪はますます強くなり、割れた窓ガラスから冷気と粉雪が次々に入り込んでくると、ノアたちの視界は徐々に奪われていきグティの姿をはっきりと視認できなくなった。
「おい、パターソンからその物騒なもんを離せって聞こえなかったか」
「え?」
空耳だろうか。パターソンとノアは冷たい風の吹いてくる方に顔を向け固唾を飲んだ。するとゆっくりとではあるが一人の人間のシルエットが吹雪の中から浮き出てきたのだ。
「グティ」
いち早くその正体が分かったパターソンはそう呟く。
「グティって、奴の事か」
ノアも少し遅れてそれに気づくとパターソンに向ける銃を強く握った。子供とは思えないほどの迫力にノアの手汗が激しく反応する。張り詰めた雰囲気のが続いていると、近づいてくるシルエットは突然動きを止め四つん這いになった。
「グティ…まさか」
パターソンがそのシルエットにくぎ付けになると
「離せって、言ったよなぁ!」
と、シルエットが叫び出し四足歩行でノアの元へと走り出した。
「まさか…これが、オオカミ!」
ノアの感じた異変は恐怖へと形を変え、拳銃を思わず落とし尻もちをついた。その間にもそのシルエットは標的を見つけたサバンナの肉食動物のようにノアに向けて全速力で向かっていた。その時、 バンッ という銃声と共にそのシルエットの姿が地面へと崩れ去ったのだ。
「何事だ!」
腰を抜かしたノアは目を凝らしてみてみると、吹雪の中拳銃を構えるパターソンと、その先で左足を撃ち抜かれているまだ人間のグティの姿があった。
「まさか、お前が撃ったのか?」
ノアは首を傾げパターソンに訊くと
「彼は、ずっと人間でした。いいですね?」
と意味深な回答だけが帰って来た。パターソンはすぐにグティの元へ駆け寄ると身に着けていた学生服を傷口に巻き何度も謝罪をした。気味の悪いノアだったが、正気を取り戻すと再びパターソンの後ろ姿に銃口を向けた。
「これが僕の仕事なんだ。申し訳ない」
ノアがそう言い残し、引き金に手を掛けた次の瞬間。養成所内に新たなサイレンが鳴り響いた。
『火災警報です。火災警報です。二棟一階で出火しました』
けたたましい音量のサイレンと共に録音されていた声が養成所を包み込んだ。それも一回だけではなく、『二棟の二階』『二棟の三階』と場所を変え絶え間なくなり続けるのだ。

グティの足をさすっているパターソンに、後ろ姿でノアに話しかける。
「何かあったようですね」
「お前、何かしたのか?」
「さぁ、でも様子を見に行った方が良さそうですよね。何やら下の階にいるあなたたちの仲間も皆動いているそうですし。ほら」
パターソンが下を指さすと通り抜ける風の音と、確かに一階から大量の足音がしていることに気づいた。ノアは子供とは思えないパターソンの言動にいぶかしみながらも、言うとおりにサイレンの鳴る二棟の方へと向かっていった。
「二人とも、お疲れ様。そして、ごめんね」
パターソンは横たわる二人を風の当たらない教室に入れ、救助を待った。

         To be continued… 第37話・おにごっこ
再び養成所に響くサイレン。この養成所で一体何が起きているのか…2023年5月28日(日)投稿予定!お楽しみに!テスト週間に突入するので投稿を二週間ほどお休みします。楽しみにして下さる方々には申し訳ないのですが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。


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