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連載小説【正義屋グティ】   第39話・鬼の反乱

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第38話・司令官】
重要関連話→【第10話・沸点】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】


~前回のあらすじ~

新入生歓迎会の最中に突如として現れた小型ミサイルと戦闘機が正義屋養成所を襲う。戦闘機から出てきた赤の服をまとう武装集団により、一棟にいたスミスと新入生は捕らえられ、何とか姿をくらませたパターソンと新入生のサムは救助を呼ぶべくアレグロに電話を掛ける。しかし、アレグロは自分の受けている使命と異なるからと要求を拒み、パターソンの考案した作戦によりグティとカザマを一棟に助けに呼んだ。何とか一棟二階の武装集団を倒した二人と加勢したパターソンによって場はしのがれた。そしてその直後デンたんと、ジェニーによって正義屋養成所内に大量の火災報知が鳴らされ、大量の武装集団を二棟へとおびき寄せることに成功した。そして、手薄になった一棟一階では武装集団の一人が拳銃を持ちスミスにへと迫っていた。


39.鬼の反乱


一棟一階
「腐ってるな。この教室の空気は」
「え?」
教室にいた誰もがそう口に出した。そして、皆が一斉に声の方向を向くと、そこには白色の銃口から煙を出し、すました顔でその場に立つアレグロの姿があった。そう、さっきの銃声はアレグロが放ったもので、血を出し倒れているのはスミスではなく、スミスを殺めようとした武装集団の男だった。
「お、おいお前大丈夫かよ?」
指に引き金を付けたままピクリとも動かなくなったその男に群がるように仲間が囲み込む。
昼間に比べ格段に下がっている温度計のメモリ以上にその場の雰囲気は凍りついていた。息をすると喉が凍りつく様に冷たく、アレグロの方なんてとてもじゃないが見れない程だった。
「右肩に一発。死にはしないが、しばらく気を失っているだろうよ」
ドアの淵にもたれかかって腕を組むアレグロは、何事もなかったようにピストルの手入れをする。
「てめぇ」
男たちの銃の握る手が無意識に強くなる。表情を一切変えないアレグロを横目に、男たちは固唾を飲み込みうなずいた。
「あんまり、大人をなめんじゃねぇよ」
さっきまで上機嫌に世間話をしていた男は眉間にしわを寄せ、歯を食いしばった怖い顔でゆっくりとアレグロの方向に身体を向けるとハンドガンを構えた。それと同時に後ろにいた8人ほどの武装集団もアレグロに向けて銃口を向けた。
「あくまでも、俺を殺す計画は遂行するつもりか」
「殺す計画って…まさかお前がニコルさんの言った要注意人物デューン・アレグロか!いつその計画を知った?」
「この養成所の優秀な男が耳にした情報だよ。そんなことよりも、俺が聞きてぇのはお前の言う『ニコル』ってやつの事なんだが」
アレグロがその名を口に出した途端、男たちは顔色を変えアレグロに向ける銃の引き金を反射的に引いた。
バンッバンッ
という痛々しい音が無数に飛び交う中、それにいち早く気づいたアレグロは壁の裏へと身柄を移した。銃口の先にあった窓ガラスは大きな音を立て、破片は宙を飛び交びかった。
「あいつらめ…」
幸いにも弾丸こそ的中しなかったアレグロだったが、雪交じりの強風に煽られたガラスの破片がアレグロの右頬を深く抉った。
「相手はガキ一人、ひるまずに進め!」
教室の中の戦闘員は急にまとまった指揮の元、一斉にドアから突き進んでいった。
先陣を切った大柄の男が教室から現れ、アレグロに標準を合わせようとしたその瞬間。大柄の男の右肩に一つの風穴が開き、その場に倒れ込んだ。
「ぐぁぁあああ」
何事だ!武装集団のほとんどの男が、意気揚々と飛び出して行った仲間の状況を理解できなかった。いや、理解したくなかったのだろう。男たちは教室から出ることを躊躇し、ただただ拳銃を握る手に汗を垂らしていると、その隙をついたアレグロが再びドアの前に現れ、5回ほどテンポよく引き金を引いた。
「ぐぁぁああああああ」
そんな男たちの悲惨なうめき声が校舎中に響いた。
「おい、おめぇ冗談きついぞ。あんなガキに俺らが負けるはず…」
視覚の位置の敵から次々と同胞が倒れていく事実を受け入れられない残された男たちは、そんな情けない言葉を吐き後ずさりをしていく。
「どこ行くんだよ」
が、その時には既に教室に侵入してきていたアレグロと目が合うと、男たちは震える手をアレグロの方へと向けてがむしゃらに鉛玉を撃ちまくった。
「国の直轄機関を攻撃しに来るような奴らにしては骨がなさすぎだ。下手くそ」
アレグロは悲鳴を上げながら逃げていく男たちの背中に怖い笑みを投げつけ、もう4発発砲した。
「やぁああああああ」
その声が止むと教室はすっかり静まり返り、それを目の当たりにした新入生も唖然としていた。
「おい、スミス」
アレグロは明後日の方向を向きそう呼びかける。
「なによ」
負傷した上に、激しい戦闘の現場にいたスミスの身体はすっかりと弱り切っていた。横たわるスミスは、残った力でアレグロの方に目をやると、
「大丈夫か?」
という、彼らしくない言葉が飛び込んできて、耳を疑った。
「へ?」
いままでアレグロとほとんど話してこなかったスミスは、分かりやすく困惑したが
「うん。ありがと」
と一応感謝の言葉を伝えてみることにした。アレグロは少し照れたようにまんざらでもない顔を浮かべた。そんな時だった。
バンッ
という銃声が教室に轟いた。
「ぐっ!」
次にスミスが見た光景は驚くべきものであった。つい今までそこに立っていたアレグロの左腕が撃ち抜かれその場にうずくまっていたのだ。
「誰だ!」
アレグロは恐ろしい目を撃たれた方向に向けると、そこには銃口から煙を出すノアの姿があったのだ。
「やっぱり何かあると思って戻ってみたら、このザマか」
ノアはゆっくりとアレグロに向けて歩を進めていき、息が荒くなっていくアレグロの後頭部に銃口を突き付けた。割れた窓ガラスから流れてくる夕方のひんやりとした空気とは別にアレグロは別の寒気を背筋に感じた。
「俺はもうお前に殺される身だ。だからちょっと聞きたいことがある」
アレグロは両手を上げるとノアに背中で交渉をし始めた。
「本当は俺はお前らを殺すつもりはなかったんだが。お前があの噂のデューン・アレグロならば仕方がないのか。いいだろう、聞いてみろ」
「ニコルっていう奴がお前らの仲間でいると思うんだがそいつは何者だ。そしてお前らは何を目的にこんなことをしているんだ」
アレグロは窓の奥の遠くの一点をひたすら見つめ、核心を突くようなことを問いだした。すぐに返答は来なかった。しかし、少し経つと何かを決心したのかノアが再び口を開いた。
「ニコル潜入捜査長の本名はニコル・ストック。聞いた話では二年ほど前にこの養成所に潜入していたらしい。その際の君の言動から君と、詳しくは教えられていないがあのグティレスって少年の存在が僕らの邪魔になるらしいんだ。だから、今回の僕らの裏向きの目的はグティレス・ヒカルの拉致とデューン・アレグロの抹殺だ」
「ニコル…だと」
その名を聞いたアレグロはニコルが起こした、二年前の痛ましい養成所生への無差別攻撃の事を思い出し、拳を強く握る。息の詰まるようなこの空間に冷たく不気味な空気が漂う中、アレグロはもう一つ質問を投げかけた。
「お前が言う『僕ら』とは一体、誰なんだ」
アレグロは口を閉じると、騒がしかった風の音がピタッと止み、傍観者の中には肌にチクチクとした棘のようなものが刺さった不思議な感覚に陥った者もいた。そして、ノアは口を開けた。
「ホーク大国だ」
と…。
 
      To be continued…      第40話・そのふたり
ホーク大国。この敵の強大さは計り知れない。2023年7月2日(日)投稿予定!次回は遂に40話!これからの物語の進展などもお楽しみに!!
 

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