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連載小説【正義屋グティ】   第38話・司令官

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第37話・おにごっこ】
重要参考話→【第33話・僕と後輩】【第34話・ブルーサファイア】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】


~前回のあらすじ~

新入生歓迎会の最中に突如として現れた小型ミサイルと戦闘機が正義屋養成所を襲う。戦闘機から出てきた赤の服をまとう武装集団により、一棟にいたスミスと新入生は捕らえられ、何とか姿をくらませたパターソンと新入生のサムは救助を呼ぶべくアレグロに電話を掛ける。しかし、アレグロは自分の受けている使命と異なるからと要求を拒み、パターソンの考案した作戦によりグティとカザマを一棟に助けに呼んだ。何とか一棟二階の武装集団を倒した二人と加勢したパターソンによって場はしのがれた。そしてその直後デンたんと、ジェニーによって正義屋養成所内に大量の火災報知が鳴らされ、大量の武装集団を二棟へとおびき寄せることに成功した。そして、手薄になった一棟に再びアレグロが姿を現す…

38.司令官

数時間前 一棟屋上
 
バンッバンッバンッ
吹雪でどんどん荒れていく養成所の空に三つほど痛々しい銃声が響いた。雲の間から白色光が漏れ出し、脆い雪の上に立つパターソンと後輩のサムはその光をじっと見つめる。
「どうやらそんなこと考えている時間はなさそうだね。僕は自分の正義とみんなの命を守りぬく。僕自身を犠牲にしてもね」
パターソンは雪に埋もれた、赤色の携帯電話を掘り起こすとある人物に電話を掛けた。
「デンたん?今どこにいる?…二棟でくつろいでるか。丁度いい…」
「え?」
こんな状況にこの男は何を笑っているのか。
サムは口角が少しばかり上がった先輩の横顔を見つめ訝しむ。『全力ダッシュ』だの『火災報知機』だの、この状況で聞くはずも無い単語が耳に入ることがサムにとっては不思議で仕方がなかった。
二か所ほどに電話が終わったのかパターソンは雪の中にずしっと座り込み、またほほ笑む。が、今度は自分の目を見ながら浮かべる不敵な笑みであるようにサムには感じた。
「どうか…しましたか?」
苦い愛想笑いを返すと、パターソンは白い息を長く吐きネックウォーマーを下げ紫色になった口元を見せ
「入学早々、君に任務を与えていいかい?」
と訊く
「任務ですか…」
「そうさ。今ここの一棟にグティっていう三年生がスミスたちを助けに来る。おまけがもう一人来ちゃうみたいだけど…それで、どうにかしてグティはこの一棟に侵入してあの武装集団と戦ってくれるはずなんだ。全員を倒してくれればそれでいいんだけど、もちろんそう上手くはいかない。だから、そのグティって子がピンチに会うところをサムは僕の携帯電話で写真に収め、この『デューン・アレグロ』っていう送信先に送って。その後は僕が命に代えてでも、グティを守るよ」
長々と話し終えたパターソンはサムの手を握りゆっくりと立ち上がると、目を点にさせ固まるサムの肩を強くたたき
「任せたよ」
と一言、言い残し三階へと続く扉へと向かっていった。
「すごいですね」
その時、パターソンの後ろからそんな声がしたような気がした。
「ん?なんか言った」
「あ、いやまだ三年生なのにそんなに人を上手く使えるなんて、まるで司令官みたいだなって。どんな英才教育を受けてきたのか知りたいくらいです」
サムは恥ずかしそうに顔を赤らめると、何も言わずにその場でうつむくパターソンを横切り先に作戦へと向かっていった。
「司令官…か。なんだか妙にしっくりくる響きだな」
パターソンの声が少しばかり踊っているように感じたが、表情は変わらず暗いままだ。短い時間が流れ、パターソンも遅れて作戦へと移った。
 
そして現在 一棟二階
 
「いいだろう。俺が全員ぶっ飛ばす」
アレグロは倒れているグティと、カザマを一瞥しながらスタスタと冷たい廊下を歩いて行く。その姿が見えなくったくらいの頃、パターソンは後ろの空き教室に向けて
「サム。お疲れ。完璧だ」
と声を上げた。すると、びくびくしながらサムが現れる。
「あれがアレグロ先輩ですか。近くにいるだけで凍ってしまいそうな雰囲気の人ですね」
「だろ。あんまり関わらない方がいいかもね」
パターソンは歯を出してニッと笑うと、サムの頭をクシャクシャと撫でまわす。そして、先ほどまで吹き荒れていた吹雪がまるで嘘のように窓辺から低い夕暮れが顔を出した。が、それもほんの一瞬で、再び雪がパラパラと舞い始めた。それと同じくらいの時、何やら一階が騒がしくなっていることにそこにいた皆が気づいた。
 
一棟一階
 
教室の中は新入生が10人ほどと、同じくらいの人数の武装集団。そして右肩から血を流しぐったりとしているスミスがいた。人質であるスミスたちには相変わらず緊張した空気が流れているが、突然鳴り出したサイレンの確認で数十人と取られたため、武装した男たちの間では随分と和んだ雰囲気であった。
「それでよー俺の息子がな、めちゃくちゃ可愛いんだよ!」
「それ何回も聞いたって。てか俺らこいつらの警備任されてるのに、こんな世間話に花を咲かせてていいのかよ」
「だぁいじょうぶだって。正義屋本部への直接的な連絡手段は断っているんだから、奴らがこの嘘みたいな状況を知り駆けつけて来るまでは時間がかかる。それに教官達は、あの大ホールへの小型ミサイルでみんな片付いただろうしな」
男たちは上手く行っているように思われるこの状況に気分がよくなり高笑いをやめようとはしなかった。すると、先ほどまで退屈していた一人の武装隊員は何を考えたか突然立ち上がり、
「ちょっと退屈だからよ、人質の一人くらい撃っちまってもいいだろ?」
と面白半分に仲間たちに尋ねてみる。
「あぁ、いいね。やっちゃおうぜ」
一人の男がそう手を叩くと、周りの者たちも誰一人嫌な顔をせずそれに同意をするような素振りを見せた。
「そんじゃ悪いけど、最初にみんなを守ろうとして俺たちに手を出してきやがったうつけ者に消えてもらうか」
男はそう言うと力の抜けきったスミスの前に立ち銃口を向けた。
「なに…するのよ」
スミスは今ある力を振り絞ってそう反抗する。周りの新入生も無責任に『次は自分の番かもしれない』とスミスから距離を置く。
「なにって、まさか分からないわけ無いよな」
男の怖ろしい笑みに命の危機を感じたスミスは、ありったけの力を出してドアの方へと四つん這いで向かった。
「逃げれるわけねぇだろ!」
「きゃぁ!」
すると無情にも男はスミスの脇腹に蹴りを入れ、倒れたスミスの額に銃口を付けた。スミスは突如として現れた夕焼けの温かい光と目を合わせた時、自分の最期を覚悟して目をつむった。
「やっと聞き分けが良くなったか。今度こそ終わりだ!」
男が引き金に力を入れ、その直後赤く染まった血がその場に舞った。
バンッ
という短く儚い音と共に…
 
         To be continued… 第39話・鬼の反乱
一階へと向かったアレグロ。そしてスミスの運命とは…2023年6月11日(日)投稿予定!第三章前半も遂にクライマックス!この後の展開の考察など是非コメントにお書きください!お楽しみに!!

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