見出し画像

連載小説【正義屋グティ】   第33話・僕と後輩

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第32話・いとまごい】
重要関連話→【第31話・失敗作】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】


~前回のあらすじ~

新入生歓迎会が終わり、グティとカザマは一般人から3年遅れて許可される自転車に挑戦するも、うまく乗りこなせずにいた。そんな中、チュイとその仲間のヘンリーとバントスは二年前に爆散したイーダンを弔いに行っていたがそんな時正義屋養成所で緊急放送とサイレンが鳴り響いた。放送通り養成所内に小型ミサイルが落下し、ヘンリーとバントスが命を落とした。正義屋養成所生の新たな戦いが幕を開けた。

33.僕と後輩


「んあー、めんどくさ。なんで私が新入生の案内担当なのよ」
「スミスったら、新入生の前で言っちゃダメじゃん」
いつもとは全く異なる白銀の校舎を横目に、パターソンとスミスは一棟へと続く渡り廊下をおぼつかない足取りで歩いていた。詰襟の学生服のフックをきちんと付け、緑色のネックウォーマーの中から自分の白く湿った吐息が溢れ出す様をパターソンは何気に楽しんでいた。その二人の後ろには一回り体の小さい『出来損ない』達が緊張した顔つきで続いていた。
「きみ…名前は?」
何とか雰囲気を和ませようとパターソンがひねり出した問はそれだった。突然、浴びせられた質問に、一際背が高く目立っている男の子はじっとパターソンの目を見つめ
「サム…です」
と答えた。
「サム…くんね。僕は三年生のパターソンっていうんだ。そのーえっと、よろしく…お願いします」
何だこの重すぎる空気は。新しい後輩を上手く引き立たせることが出来ずに気まずい空気を作り上げたパターソンは勝手に反省して勝手に落ち込んでいた。落胆しているパターソンを見ていたスミスは フッ と鼻であざ笑うと
「さぁ、着いたわよ。君たちの校舎に」
とアナウンスし、木のドアを勢い良く開けた。次の瞬間、チュイたちが聞いた緊急連絡用サイレンがパターソン達の耳を包んだ。
ウィンウィンウィンウィンウィン
「こちら正義屋の保安部隊。現在、ホーク大国より謎の小型ミサイルと戦闘機が…」
「なんなんだよ!これ」
「どうなってるのよ!」
「入って早々、まだ何かあるって言うのかよ!」
放送が鳴り終わる前に、一年生は一斉に騒ぎ立て始める。サイレンの音や、新入生の声、タイミング悪く校舎の窓に打ちつける強風で肝心な放送の内容がかき消されてしまっていた。
「ちょっと、みんな静かに…」
パターソンが新入生の肩に手を置き、優しい声で諭していると我慢の切れたスミスは置いてあった椅子で窓をかち割り注目を自身に集めさせた。
「うるさい!放送が聞えないじゃない!」
サーっと血の気の引くのを皆が感じた。だがもうそのころには放送は終わっていた。
「あーもう!なんの放送かわからなかったじゃない!」
「ごめん、僕がもっと早く止めていれば…」
「いいのよ。それより、君はこの後のことを考えて。私たちを導く力があるのは今、あなたしかいないのだから」
スミスは言い終わると、ポッと顔を赤らめてその長い髪の毛を必要以上にいじり始める。
「う、うん。取り敢えず、何の訓練の受けていない一年生をこの人数誘導するのは危険だ。だから今、僕たちは比較的頑丈な校舎内にいた方がいいと思うんだ」
「確かにそうね。じゃあ、みんな付いて来て。一年生の活動教室に向かうわよ」
パターソンの意見に賛同したスミスは、一年生を連れ近くの教室に身を潜めた。その直後、大きな爆音が養成所内に三つほど轟いた。
「きゃーーーーー」
激しく揺れ動く地面が、さらにパターソン達の恐怖を誘った。天井の蛍光灯は左右にゆらゆらと動き、心なしか微かに火薬のにおいが鼻についたような気がした。
「爆発⁈」
一年生のサムはそう咄嗟に判断すると一人で教室を飛び出した。
「ちょっと!危ないって、サム君!」
パターソンも足のすくむような恐怖と対話をしている暇もなく、サムの背中を必死に追いかけた。
 
「おーい!待ってよ、サム君」
パターソンはみるみる小さくなっていくその背中を諦め始めていたが、突然サムが足を止めた。
「どうしたの、急に止まって」
「あれ…見て下さい」
サムが細い人差し指を立てる方向には雪が積もった人工芝の射撃訓練場の上に、黒い戦闘機が当然のように乗っかっていた。
「なに…あれ」
パターソンは言葉を失った。そして目線の先の戦闘機からライフルを持ち赤の服を身に着けた戦闘員がぞろぞろ降りて来る光景を見た時には腰を抜かし、唖然とした。この光景が夢だと自分に言い聞かせるが、それには限界があることをパターソンはこの二年間でよく分かっていた。
「早く…逃げましょう。みんなにも、伝えてきます」
小刻みに体を震わしながら教室に向かうサムの後ろ姿からは生気が感じられなかった。
「待って」
思わずそんな言葉が飛び出た。
「今戻っても、さっきの戦闘員が到着しているかもしれない。この状況を何とかして外部に伝えるためにも、僕らは今戻るべきじゃない」
静かな時間が流れた。サムは何を考えているのか、じっと床を見たまま小さな口を開く。
「だって、僕らは所詮『出来損ない』じゃないですか。そんな僕らが束になったって、あんな奴らには勝てっこないですよ」
サムのその言葉にはどこか重みがあった。か細い力で握りしめている拳を見つけたパターソンはサムの拳を両手で握りしめ、目を見つめた。
「色々な正義を胸に秘めて、それに向かって突き進む僕らのどこが『出来損ない』なんだい?」
サムはハッとした。そして、今まで溜まっていた不安などがこみあげてきて涙へと変わり溢れ出した。
「そんなんじゃ、これから正義屋やってられないぞ」
二年前、世間から見放された存在になってまで正義を全うする自分の選択が正しかったのか悩んでいたパターソンにとって、サムの悩みは痛いほどわかった。パターソンは四つ葉のクローバーが描かれたハンカチをサムに渡し肩をたたいた。
「パターソンさん…ありがとう」
赤く充血したサムの目から出た熱い涙は頬を伝い、苔むしたような色の床にポタポタと零れ落ちる。
「僕は何をすればいいですか?」
サムは顔を上げパターソンにそう問いかけると、パターソンは三階へと続く階段を指さし、
「屋上へ行く」
と、力強く言った。
「屋上?」
「そう。僕ら二人で武装している大人たちに勝つなんてそれこそ勝てっこないよ。だからまずは様子を見るために敵にばれにくく、状況を読みやすい屋上へ行くことが重要だと思うんだ」
パターソンの案に賛同したのか、サムは細い人差し指で丸眼鏡をくいっと上げパターソンから受け取ったハンカチを無意識に学ランのポケットに突っ込んだ。
 
首都・カタルシス 中心街
半年前とは変わり果てた姿をした首都を見渡しながら、アレグロは一人雪の中で散歩をしていた。
「ひでぇな、マジで。これがあの液の威力なら…」
戦いの影響で不自然なえぐられ方をしている赤レンガのデパートを見上げそう呟く。
ブーブーブー
「電話?」
いつもはほとんど鳴らないはずの携帯電話を不思議に思いつつも手に取ると、画面に映る名前を見ずに電話を耳に着けた。
「誰だ?」
電話の先からはしばらく返事が来なかった。アレグロはいたずらだと思い、電話を切ろうとした時、声が流れた。
「もしもし、電波が悪いな。中心街にいるかな?あそこはボロボロだから電波があんまり通ってないんだよ」
「だから、お前は何者だよ」
聞き覚えのある声ではあるが、なかなか名乗らない相手に腹が立ちアレグロは分かりやすく声を低くし対応した。
「ごめん。僕はクラスメイトのパターソンだ。今、緊急事態で君の力が必要なんだ。だから、養成所に戻ってきてくれ」
「そこには誰がいる?」
「えっと…僕とスミスと新入生たちだ」
パターソンの声色からその状況が危険だとは理解したアレグロだったが、この男は無情にも口角を上げると降り始めた粉雪に向けて言い切った。
「さっきも言ったはずだ。俺は正義ではなく、使命によって動く。その危機にグティレスが関係ないなら、俺は誰であっても見捨てていく。俺はそういう男だ!」
と…

        To be continued… 第34話・赤の進軍
アレグロに見捨てられたパターソン達、この先どう戦う…? 2023年4月2日(日)あたりに投稿予定!正義屋グティも一周年!!まだまだ続く波乱の展開をぜひお楽しみに!!そしていつもご愛読ありがとうございます!!

この記事が参加している募集

#スキしてみて

524,761件

#眠れない夜に

69,099件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?