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赤い鳥

暗闇は好きではない。
けれど、目を閉じ、その幕の奥に映る明滅で遊ぶのは面白いことだった。
時々、目を閉じては、そこにある光や闇を思いのままに形創って動かしてみることがある。いつでもどこでも、唯一ままなる玩具。
それは、直前まで見ていたものを模写することもあれば、全く新しい何かになることもあった。
それは今丁度、赤い鳥の形を成して羽根を広げている。
……何処へ飛び立つのだろう?
己で生み出しておきながら、鳥が何処へ向かっているのか、知りようもないのは少し歯痒い気もする。それとも、知らないでいる方が、幸せなのだろうか。
自分があの鳥の行方を知ることは、自由を奪うことになる。あの鳥は、自身の思いに則って空を翔け、自分の知らない所へ行かなくては意味がない。
暗闇の奥へ、羽根を精一杯に上下させて突き進んでいく。その姿は、あまりにも激しく、儚く、醜悪で美しい。
限りなく自由を求める、枷を千切った獣だった。
──いってらっしゃい。
揺れる尾羽根に向けた言葉は、心の中で溶けていった。

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