古ぼけたMDに想い出を閉じ込めて【音楽の神様に乾杯!~サザンと僕の30年ほどの逢瀬の日々~③】
2003年夏、ひとつの夢がかなった。その夢とは、サザンを聴きながら運転して海までドライブするというものだ。
サザンといえば、夏。サザンといえば、海。というのは異論のないイメージだろう。サザンほど夏や海が似合うバンドは、TUBEの他にサザン以外にない。子どもの頃からずっと、サザンを聴きながら自分で運転して、海岸線をドライブするのが夢だった。
その年の3月に自動車免許を取得した僕は、親の車で練習を重ね、ついに長年の夢をかなえる日を迎えた。サークル仲間を乗せ、明石の海まで海水浴に行く。サザンの楽曲を録音したMDを再生して出発すると、少し緊張しながらも嬉しさでいっぱいになった。
順調に進み、プレイリスト中盤には発売されたばかりの『涙の海で抱かれたい 〜SEA OF LOVE〜』。車内に響くと、その歌詞も相まって、大人になったような感慨が一気に胸に膨らんだ。とはいえ、当時まだ19歳。世の中的には、まだまだお子ちゃまといわれる年齢である。だけど、大学時代に少々イキりながらも背伸びをしようとした経験は、必要だったのではないかと今になって思う。
車の免許を取得して行動範囲が広がった僕だけど、大学に入学してからは人間関係も広がっていた。友だちの出身地はバラバラだし、中学高校と6年間にわたって男子校に通っていたから、女友だちも増えた。多様な価値観に触れられたすべての出会いが、今の僕につながっている。
「サザンが好きだなんてセンス良いね!」
そう言ってくれたサークル仲間がいた。岐阜出身の同じ年の女の子で、派手な見た目に「こういう女子って、ほんまに実在するんや」と、初対面のときには目を丸くしたものだ。僕の年代では「サザン派」は少数派だったから、華やかに生きてきたのだろうと想像できる女子に肯定してもらえると、単純な僕は「そうか、俺のセンスはやっぱり良いんや」と自信に満ちていった。
その女の子とは友人として仲良くしていたが、いわゆる色恋の関係になったことはない。彼女の名誉のためにも記しておきたい。
そんな彼女が亡くなったのは、僕がサザンを聴きながら運転して海までドライブするという夢をかなえた、たった8年後のことだった。27歳になったばかり。大学卒業間近に病におかされ、何度か復調するも、短い人生に幕を下ろした。
まだ27歳。同じ年の友だちのお葬式に行くなんて、想像だにしていなかった。まだまだやりたいことがたくさんあっただろうに。
桑田さんは、いつからかライブで「死ぬな」とメッセージをよく送るようになった。その言葉を聞くと、僕は亡くなった彼女の顔を思い出す。その子も、サザンが大好きだった。「死んじゃいけない」「生きなきゃいけない」。僕は、強く思うようになった。
大学時代はMDにお気に入りの楽曲を録音するのが定番で、その数は何十枚にも上った。それらは、もうない。けれど、古ぼけたMDに閉じ込めた想い出の数々は、僕の中にしっかりと蓄積されている。
(つづく)
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