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わが家の年寄り猫

わたしたちは1匹の黒猫と暮らしている。仔猫のときにもらってきてから、かれこれ20年近く一緒にいる。猫の20歳は人間でいうと、90歳くらいに相当するらしくて、若い頃元気だった猫も、よぼよぼになってしまった。
猫の名前は陽という。若い頃は「陽ちゃん!」と呼びかけると「ンミャー」と返事をする仔だった。ベランダの窓の近くに猫タワーを設置してやると、陽は1番高いところに、見事なジャンプ力で、ぴょんと飛び乗り、おひさまにあたりながら、窓から外の景色をいつも眺めていた。外には出さないで育てたし、食べるものはキャットフードなので、健康に過ごして、長生きしているようだ。
半年くらい前から、陽の目線がおかしくなった。うつろな目をしているのだ。そして、夜中わたしたちがあかりを消して寝静まると、ニャーニャー鳴いて、部屋中をうろうろ徘徊するようになった。身体の毛もぼさぼさになった。若い頃はめったに鳴かない猫だったので、すっかり変わってしまった。認知症になったのではと妻と話す。
猫が鳴きはじめる。ベッドから起き出して、猫の背中をぽんぽんたたいてなだめると、おとなしくなる。2時間ほどすると、また鳴き始める。猫をなだめるのに、夜中何回も起きる。
猫トイレに何回も行く。その都度、ニャーニャー鳴く。トイレの砂の掃除をしに行くが、3回トイレに行って、2回は全然垂れていない。
水をやたらと飲む。若い頃はあまり水を飲まない猫だったので、心配になるほど飲む。こまめに水を変えてやり、お湯を混ぜてぬるま湯にしてやっている。
若い頃は毛がつやつやで、黒光りしている猫だったが、今は毛がぼさぼさで、あまり生えかわらなくなってきているようだ。赤い首輪をしていたが、首のまわりの毛が禿げてしまっていたので、首輪を外してやった。
高いジャンプができなくなったようだ。猫タワーもまったく登らなくなった。鳴いて徘徊するほかは、妻のベッドや、ストーブの前の座布団の上で寝て過ごしている。
もう長いことないのかな、と妻が悲しそうに言う。わたしたちの子どもたちが小学生の頃にやって来た黒猫の陽。子どもたちももう30歳になり、独立して暮らしている。わたしたちと一緒に育ってきた猫。妻のひざの上で香箱座りして目を閉じている。もうすぐあかりを消して寝む。そうしたらまたニャーニャー鳴いて徘徊するのかな。

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