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【凡人が自伝を書いたら 84.抱擁はできなくても、握手はできる】

2ヶ月近く現場を離れていたYチーフの「リハビリ&強化トレーニング」はなかなかに熾烈を極めた。

普通にブランクもあるし、そもそもこの店の忙しさに慣れていないのもある。とどめとして、休んでいる間にコロナ対応のため様々な面でマニュアルが変更された上に、メニューも新メニューになっていた。

ここまで変わると、もはや別世界である。

いざ営業に入ってみると、全然できない。なんなら新人スタッフの方がまともな働きをしているレベルだった。もちろん僕がその立場であっても、多分似たようなものだろうから、そのことをどうこう言う訳ではなかった。

Yチーフ自身も「自分が営業に全然ついていけないことを実感した」ようだった。


これが、思わぬ感じになる。

Yチーフが少し物腰が柔らかくなり、スタッフに質問をしたり、手伝ってもらったりしている。普通に仕事を教えてもらったりもしている。

その中で、スタッフと会話する機会も増え、雑談なんかもしている。主婦さんとは、子供の話で盛り上がるなんてシーンもあった。自分の家庭のいざこざをネタにして話もしていた。ここは主婦さん「大好物」である。

自分がスタッフより仕事ができていないこと、教えてもらっていると言う立場もあるのか、指示したり、間違いを訂正するときも言い方が少し「柔らかく」なった。

一番の変化は、笑いが多くなったことだ。指摘するにしても、以前のように終始厳しく、冷たい雰囲気で終わるのでなく、いじりに変える時もあれば、笑いながら言う時もある。

特に表情の変化はかなり大きかった。

同じことを言っても、怒って言うのと、笑って言うのでは全然違うのだ。

この変化の理由を本人に詳しく聞きはしなかったが、自分が今までと違い、「仕事ができないと言う立場」になったことで、きっとスタッフ達にある種の「頼もしさ」を感じ、スタッフに教えてもらう中で、「人の良さ」「暖かさ」のようなものを感じたのかもしれない。

実際のところは今となっては分からないが、目の前の現実としては、確かに「変化」していた。

もちろん、スタッフ全員といきなり打ち解けたかといえば嘘になるが、いつの間にか普通に仲の良いスタッフも増えてきた。

そんな感じで1週、2週と重ねると、Yチーフも段々忙しい営業に対応できるようになってきた。僕も少しだけ教えたこともあるが、元々Yチーフは能力が高かったので、そこまで手はかからなかった。

最初とは違い本当の意味で、スタッフ達と「肩を並べて」働く時間が増えたため、スタッフ達もYチーフの本来の良さ、清掃面であったり、整理整頓面であったり、マニュアル遵守の働き方を感じているようだっだ。

どちらかというと溝深めだった、お昼の主婦さんからも、Yチーフに対してのポジティブな話もちらほら聞こえるようになっていた。


僕は完全に予想に反する現象が起きたので、「お、、うん、いいねぇ〜。」くらいの感じに逆に戸惑ってはいたが、なんだかいい感じになったのだから、それでいいのである。(バカボン精神)

もちろん、まだYチーフと一定の距離を置いているスタッフも数人はいた。

ただ、別に炎上することも無いし、以前のように愚痴が聞こえてくる訳でもない。あとは時間が解決する。そういうこともある。一定の協力関係ができていれば、最低限それでよかった。

「抱擁はできなくとも、握手はできる。」

「握手」ができれば、チームとしては十分にやっていける。

そんなことを学んだ。

つづく




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