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【凡人が自伝を書いたら 101.非常時には、「イエスマン」で堅めたい】

「まさか、店長が異動になるなんて。。」

「やっと、これからって時なのに。。」


そんなふうにスタッフたちは寂しがってくれた。

正直、嬉しい気持ちもあったが、サラリーマンとしての虚しさと半々だった。

何度も理由を尋ねられたが、理由を話せば、チーフと同じように会社に対して不満を持ちそうだったし、スタッフ達から次の店長が、「今の店長より優秀って、なんぼのもんじゃい。」的な、変な目で見られそうでもあったので、

「なんかやばい店があるらしくて、そこを立て直して欲しいらしい。」

そんな、誰もが納得するような理由で誤魔化していた。

楽しい話をした時、忙しい営業を終えた後、教育をしている時、なにかにつけて、「もうすぐいなくなるんですね。。」なんて、別れを寂しがる声が聞こえてきた。

僕も気持ちは同じだったが、「別に死ぬわけじゃ無いんですから。」「会おうと思えば、会えるじゃないですか。」

そう言って、できる限り暗い雰囲気にならないように努めていた。

残りわずかな時間、僕にできることは、できる限りの教育と、出来る限りの改善だった。

スタッフ達も、「僕がいるうちに」と、色々な質問や提案をしてくれていた。

その度に、「本当にいなくなっちゃうんですか?」なんてことを聞かれ、こちらも寂しい気持ちがした。

僕にできたのは、「こればっかりは仕方がない。」と言い聞かせて、納得させることだけだった。


そんなある日、上司経由で、ある「一通のメール」が流れてきた。

内容は、先日行われた部内会議の内容だった。メールにはその議事録が添付されており、「社長も参加する大事な会議なので、しっかりと目を通すように」とのことだった。

このメール自体は、会議があるたびに流れてくるものなので、別に目新しいものでは無かった。

ただ、いつもとは違う文章が本文に添えられていた。


「先日の部内会議の議事録を共有させていただきます。

目を通してもらえばわかるとは思いますが、会社は今、こういう状況です。

エリアマネジャーである私自身も、この内容に不満を感じる点は多々あります。

正直、そのまま店長宛てに送付するか、私の方で少し表現を変えるか迷いましたが、店長の皆さんにも現状を正確に知っていただきたいので、あえて手を加えずに、そのまま落とさせていただきます。

皆さんの不満は重々承知ですが、それは私も同じ気持ちです。

ただ、これはそれだけ会社が厳しい状況であること、必死であることの現れでもあります。

私も「これは違う」ということに関しては、会社に対してどんどん意見していこうと思っています。

もし、何かあれば遠慮なく私に相談してください。

大変であることは重々承知ですが、皆で協力し、なんとかこの状況を打破していきましょう。

よろしくお願いします。」

細かい違いはあるとは思うが、内容としてはこういう感じだった。

添付されていたファイルを開くと、会議というか「命令」の内容が大量に並んでいた。

大きく、これからの「店舗運営について」と、これからの「評価基準について」の話に分かれていた。

店舗運営については、予想通り、かなり厳しい要求がされていた。

「売上が落ちているのだから、衛生検査でS評価未満は認めない。」

「どんなに売上の取れなかった日でも、労働時間の基準オーバーは1時間たりとも認めない。」

「現時点で必要のない、採用、教育は控えること。新人トレーニングによる労働時間オーバーは認めない。」

「食材の棚卸しを「全店」月一回から、週一回に変更し、必ずフードロス1%未満に収めること。」

僕の店は、ここに書かれているすべての基準・要求を満たしてはいた。おそらく文句を言われることはなかった。

そして、最後に「今後の店長の評価基準について」の内容が書いてあった。

「今後は、結果どうこうでなく、会社の要求・指示・命令に素直に従い、実践した上で、成果を残す人間のみを評価します。」

これは、おそらく気のせいであるとは思うが、なんだか「僕のことを言われているような」気がした。

僕は、悪く言えば「結果オーライ」の人間だった。

会社や上司の指示・命令に素直に従っているかと言えば、そうでは無かった。

ただ、最終的には、求められた結果を出す。

「王道」か「邪道」かで言えば、間違いなく「邪道」だった。(もちろん悪いことをしているわけではない。)

要は、「イエスマン」が欲しい。ということだった。

素直にいうことを聞いて、指示通りに動く、そんな人間しか評価しない。例外は認めない。

確かに、緊急時には「命令通りに動くイエスマンが使いやすい」という論理は理解できた。


どんなに客観的な解釈を入れても、そういうことだった。

自分自身でも意外だったが、「現場のことを知らねえくせに」とか「上から好き放題言いやがって」みたいな思いは浮かんでは来なかった。

「こうなったか。。」

それしか浮かんで来なかった。


しばらくして、上司がたまたまなのか、何か思うところがあったのか、僕の店へとやってきた。


つづく










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