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【凡人が自伝を書いたら 52.江戸(上)】

羽田空港に降り立った僕は、そのままその足で「川崎港」へと向かった。

事前にフェリーで運んでもらっていた、マイカーを受け取るためだ。

新しい社宅はなぜか「川崎」だった。僕の配属店舗は東京だったのだが、4月という時期的なこともあり、一番近いところが「川崎」だったというのだから、こればっかりは仕方がない。

店舗までは、車で45分程。「三重の漁村時代」を考えれば、まあ、イケない距離では無かった。

入居を済ませ、次の日、早速、配属先の店舗へと向かった。


「光と影、表と裏」

僕の心には「天使と悪魔」がいる。

そんな話ではない。

店の話である。

新しいエリアマネジャーと顔合わせをしていた。

この店舗は、本社から電車で一駅のところにあり、同じ会社の本部社員はもちろんのこと、グループ内の他社の社員も頻繁に「覆面調査」に来るようなお店だった。

大きな「駅前のホテル」に入っている店で、ホテルの朝食も提供していたから、売上は高い。さらに会社の新規の施策がある時は一番に導入される。

会社から「良くも悪くも」注目を浴びる、歴代の店長はほとんどがこの店を経て昇進する。そんな「出世店」のような店だった。

ただし、これはこの店の「光の面」に過ぎなかった。

この店には、もう一つの「影の面」があった

「人手不足」

オープンから居て、店を牛耳っているおばさん、いわゆる「お局様(おつぼねさま)がいる様だった。その人と合わない人はどんどん辞めていく。

アルバイト側からしても、大都市の駅前なので、時給が良く、交通の便が良い飲食店など、他にも無数にある。だからなかなか定着しない。そういうわけだった。

「従業員のモラルと能力の低さ」

当時はクビになっていたが、客と揉めた末に、追い返してしまうようなスタッフなんかもいたようだ。今いるスタッフの勤務態度もお世辞にも良いとは言えず、能力的にもかなり低いようだ。

他にもいろいろ問題はあった様だが、今ではいわゆる「事件」が起きなくなっただけ、まだマシ。そういうことだった。

「赤字」

僕はその店の「P/L(お店の家計簿的なやつ)」を見て驚いた。売り上げは十分あるのに、赤字である。それもここ2〜3年、ずっとである。

コストが高過ぎた。

まずは「家賃」

僕が今まで見た店の3倍くらいあった。(東京怖い)

次は「食材費」

ホテルの朝食の原価が高すぎるのと、価格が安すぎる。しかも売り上げの3割4割が朝食の売り上げだったので、「原価3割」と言われる飲食店の中で、原価率は40%近くもあった。(無理ゲー)

極めつけは「人件費」だ。

これはひとえに、「能力が低い」ことが原因だった。たくさん人を入れないと、店が回らないからである。


エリアマネジャーはこんなことを言っていた。

「この店は黒字じゃなくていい。問題を起こさず、グループの社員にある程度の評価を受けていれば、それでいい。みんなそれで出世した。」

え?それは、「飲食店の店長」つまりは「経営者」としてどうだ?

僕たちは、雇われではあるが、店長。店長とは経営者だ。それが最初から「黒字」を諦めている。コストが高いから、利益は取りにくい。気持ちはわかるが、それで良いのか?僕はそういうわけにはいかない。

なんだか、変な店もあるもんだなあ。

そんなことを思っていた。


「関東最悪の店」

「出世店」というのは、外から見た表向きの話だった。

その中で働く社員側から見れば、この店は「関東最悪の店」と言われていた。エリアマネジャーからこの言葉を聞いた時は、正直驚いた。

自分もこの店で店長をしてから、出世したのにである。

ただ、実際に営業に入って見ると、言わんとすることはわかった。

そこには、絵に描いたような「お局様」、愚痴を垂れまくる「スタッフ」、物が散乱し、ぐちゃぐちゃの「店」、全く回っていない「営業」があった。


「今までに一体、何がありましたか。」

僕はこれまでの店長の苦労を心で察した。

まあでも、せっかく来たんだし、いっちょやってみますか。

「最悪のものは、それ以上悪くなりようがない論」で半ば開き直って、やってみることにした。

「まずは、みんなのことを、とにかく知らねえとな。」

これだった。


「一体どうしてそうなった!?」

厄介である。

知れば知るだけ、厄介である。

こんがらがった糸を、どこから解けばいいか分からなくなっている感じで、厄介だった。(たとえ。。)

「お局様」をはじめとして、全員ではないが、ドライというか、スレているというか、ひねくれているというか、

とりあえず「厄介」だった。(語彙力。)


仕事はできるし、責任感もあるが、気に入らないことにはすぐに腹を立て反旗を翻してくる「お局様」

能力はあるが、やる気はなく、仕事に関しては、単なる金稼ぎでドライな「男子大学生」

物腰柔らかく、素直に働くが、いまいち頼りなく、遅刻も多い「年上のフリーター」

シフトに入れる量は多いが、能力は低い、精神年齢も低い、「オタクで僕と歳がタメのフリーター」

能力は高いが、気性が荒く、忙しくなるとキレまくる、「二十歳の女の子。」

仕事に来ているというより、若干遊びに来てるんではないか、と思うような「高校生諸君」

常にニコニコ、周りの人間とは1人だけ違い、良い感じの雰囲気を出しているが、休憩時間にはいつも「怪しげな宗教書」を読んでいる、「おばちゃん」


なんじゃこりゃぁ!!(発狂)

お前たち、一体どうしてそうなった!?

逆に採用したやつ、若干遊んでるやん!!!(エセ関西)

そう思いながらも、むしろ「人間味が溢れ過ぎていて」、逆に面白くなっていた。(そう、忘れていたが、僕も十分に変だった)


こりゃあ、なかなか「普通の神経」では、やってられんだろうな。

しゃあない。やったりますか!!


なぜか若干、「モチベーションが上がり気味」だった。

つづく






お金はエネルギーである。(うさんくさい)