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【凡人が自伝を書いたら 85.血眼(ちまなこ)】

本社からの指示の嵐、雨、あられ。

まるで「無数の矢」が降り注ぐように、毎日のように指示が飛んできた。

緊急事態宣言が解除されたことにより、売上が回復傾向になったのを見るや否や、ここぞとばかりに、あの手この手で売上を取ろうとしていた。

メールの文からも、

「絶対これ送った人、眼、充血してるやん。」

社長を筆頭に本社の人間が「血眼」になっていることが、容易に想像できた。

直属の上司の話を聞いていると、指示にも強制力が増しているようで、上司連中の中でも、社長に対する反対意見は認められない感じになっているようだった。

「俺の意見なんか、なんも通らんよ。今の社長にもの言える人なんておらんし、認められん。俺ら中間管理職は言うこと聞いてやるだけ。」

そんなことをぼやいていた。


戦後復興ですか?

GHQ、マッカーサーですか?

規模や内容は全然違うものの、雰囲気としてはそんな感じだった。(あくまで想像のお話)


「強制弁当」

この指示は多くの店長の心を折った。

僕の店で緊急事態宣言下で始めた「お弁当の外販」である。

人員に余裕がある店は、それを始める店も増えていた。

同じエリア10店舗の中、4店舗はお弁当の外販を実施していた。

その他の店は「人員不足」を理由に実施できていなかった。その中には、元々過度の人員不足で、コロナ禍で売上が落ちてやっと、人員的にはちょうど良い、みたいな店もあった。

ただ、人員不足と言いながらも、実はやりたくないだけの店もあった。「そんなことをやれと言ったら暴動が起きる。」なんて愚痴を垂れる店長もいた。

そんな状況での、「強制弁当命令」である。

しかも、「例外は無し」。

ヘルプを呼ぶなり、エリアマネジャー自らやるなりして、必ず実施すること。

と、こういうことだった。

しかもしかも、これが、社員間の「風の噂」でなく、メールで正式な形で流れてくるのだから、これはもう「非常事態大好物」の僕としては、逆に爆笑ものである。

爆笑はしたが、もちろん全く賛同はできなかった。

大変な時だから、気持ちは分かる。

本当に大変だという自覚がない。と言われれば、そうなのかもしれない。

ただ、「圧」が凄すぎませんか?

物言いが「受け入れられるわけが無い言い方」じゃ無いですか?

そんな思いは否めなかった。


「要求爆上げ」

「テイクアウト、お弁当販売だけで、一日20万は売りましょう。」

20万!!


うちの店は、現状合わせて10万超えるくらいは売れていたから、まだ100歩譲るけども、僕が言うのもなんだが、他の店は多分無理だろう。現によくて5万、平均2〜3万当たりだ。

しかも20万といえば、他の店で言えば、コロナ前の平日1日分の売上に相当する。そんなに売れない店もいくつもある。


20万とは、どういう根拠ですか?

「コロナ禍で下がった売上」を「店舗数」で割ったようなざっくりした金額。現実離れした、机上の空論、どんぶり勘定的な金額。

エリアマネジャーに問うてみる。

ビンゴ。

ビンゴ!!(目玉)


もちろん、細かい違いはあったが、大まかにいえば、そういう感じのようだ。

「ま、、うちは、不可能では無いですけども。。本気で言ってます?これくらいの高い目標を持って頑張っていこう。的なやつでなく、本当に本当に、本気で言ってます?」

「まあ、そうやろな。」

マジですか(@@)(目玉)


正直僕の中では、そろそろお弁当の外販は潮時だと感じていた。

日々、店内客は増えていたし、5月になり外の気温も高くなってきた。衛生上あまりよろしくないからである。

そこにきての「強制」である。

正直、上司自身も、達成できるとは全く思っていなかった。

「こうしたらできる。」なんて言葉は出てこない。

出てくるのは、「やるしかない。」

そんな言葉ばかりである。


絶妙な感じですなぁ。

気持ちはわかるが、この「前のめりすぎて、頭から転んじゃっている」感じ。

緊急事態宣言から「解放」され、店としても「再出発」を果たし、わりと晴れやかだった心に、なんだか「モヤ」のようなものがかかる。

まぁ、それだけ大変だということである。

つづく










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