顧客のところへ300回いけ
しゅんしゅしゅんです。
現場にいけ。顧客をみろ。顧客と話せ。
どんな職務でも、どんな商売でも、新規事業でも既存事業でも、大切なことだといわれる。
社会が成熟し、だいたいの不便は解消し、モノがあふれ、価値観が多様になったいま、顧客の本質的な不満を捉えて解決しなければならない。
現場を見ることなく、顧客の声を聴かずに表面的な不満の解消に走れば「世の中の誰も必要としていない立派な製品が出来上がってしまう」
と、ここまでの内容であれば、納得できるだろう。
ではいざ現場にいこう、顧客をみよう、顧客と話そうと動きはじめる時に思うことがある。「どれくらい」現場にいって、顧客をみて、顧客と話せばいいのだろうと。
そんなことを聞くのは気がひける。だって返ってくる答えはなんとなくわかるから。どうせ「顧客の真のニーズがみつからまで」なんだろ。
でも、指針がほしいのが人の性。
「これだ!」と思う顧客のニーズが見つかった時に、「これは本当に真のニーズなのか?俺は本当に顧客の声を聴き切ったといえるのか?本当のニーズは他に隠れているのではないか?」こんな不安が頭をよぎる。一世一代をかけた起業や新規事業ならなおさらだ。
この問題に対して、指針をいただけるとは思ってなかった。
300回だ。どうやら300回らしい。
「新規事業の実践論」をよんだ。徹頭徹尾、顧客起点の重要性を伝えてくれる本書は、新規事業の新たなバイブルになるだろう。
新規事業の立ち上げ期においては「確認・事例・調査・会議・資料・社内・上司・先輩・競合」なんてワードはたったの1つたりとも発生させてはいけない。
新規事業の立ち上げ期に登場すべき単語はたったの2つで「仮説」と「顧客」だけだ。
仮説を顧客のところに持っていき、顧客の反応に応じて仮説を修正する。そして修正仮説を顧客のところに持っていき、再び仮説を修正する。そして修正仮説を顧客に持っていく…「仮説を顧客に持っていき、修正する」のサイクルをひたすら回すことが、立ち上げ期のチームがやるべき唯一のことだ。
仮説と顧客の回転を、先ほど登場した9単語を「1つたりとも登場させずに」回すことが重要。優秀な人であればあるほど、これらの単語が仮説と顧客の回転の間に登場してくる。「仮説を顧客のところに持っていく前に、上司に確認をとる」「顧客の反応に応じて仮説を修正する前に、競合の事例を調査する」これらは絶対にやってはいけないことなのだ。
いい。「1つたりとも登場させない」。このくらい言い切らないと。
スタートアップは社内や上司のための時間が少なく、顧客と向き合う時間が必然的に多いから社内ベンチャーに勝つのかもしれない。そんな風に思う。
既存事業はたしかに(特に大企業で)「確認・事例・調査・会議・資料・社内・上司・先輩・競合」からなる仕事の進め方が優秀だ。成功体験として体にしみついたこの仕事の進め方をアンラーンできない限り、新規事業やスタートアップではうまくいかないのかもしれない。そんな風に思う。
ただ、社内や上司向けの仕事が完全に無駄といいたいわけではないだろう。上司に相談したり、競合調査をしてもよいのだけど、立ち上げ期においては優先順位が低いということ。そんなことをやっている時間はないよということだ。なぜなら顧客のところには300回いかなくてはならないのだから。
仮説と顧客のサイクルを回すにあたって、その「必要回転数」は何回転か。役2000件の新規事業開発の「相場観」から導かれたマジックナンバー。それが300回。
半年か1年で300回転しようと思ったら、1日に約2回転。これが新規事業を立ち上げる創業チームが目指すべき平均的な進捗ペース。
朝作った仮説を、昼に顧客にぶつけて、夕方に仮説を修正し、夜にまた顧客にぶつける。そして翌朝仮説を修正して…この生活サイクルを繰り返さないといけないから、その他のことをやっている暇がないはずなのだ。
大体の人は「必要となる回転数はどのくらいだと思うか」と質問すると、返ってくる答えは「3回くらい」もしくは多くても「10回くらい」。そんな感覚の人たちがほとんど。必要な回転数のケタが間違っているのだ。
1回か2回、現場にいって「顧客の声を聞きました!」なんて、ちゃんちゃらおかしいのだ。「顧客の声を聞く」のレベルを教えてくれる。必要な回転数のケタの違いを教えてくれる。本書の神髄はここにある。
起業のバイブルといわれる「起業の科学」はPMFにフォーカスしている。「新規事業の実践論」は事業創造に対するそもそもの意思(WILL)であったり、創業メンバーの選び方といった面にもフォーカスしている。1冊目は「新規事業の実践論」、2冊目は「起業の科学」の順番がいい。
他にも起業、スタートアップ、新規事業系の本はごまんとある。でも必要ない。この2冊だけでいい。他の本に費やしている時間はない。
だって300回は顧客のところにいかないといけないんだから。
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