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ロービジョンフットサル日本代表強化選手 加渡主悟 対談記事 対談日2019年12月29日

今回共に話し合った加渡君は同じ大学の1年後輩で、彼はフランクフルトに留学しています。彼の取り組みは非常に面白く、今回は年末に会う機会があったため、せっかくなのでインタビューというより対談形式で様々なテーマについて話し合いました。いつものインタビュー記事より僕自身の意見も多めですが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

加渡君のTwitter:@juokado

・僕の意見

「」加渡君の意見

プロフィール

高校卒業に渡独。ドイツ4部のチームと契約したが1年でクビになり日本へ帰国。その後日本の大学へ入学し、現在1年間のドイツ留学の傍ら、ドイツフットサル1部リーグとロービジョンフットサル日本代表にて活動中。ポジションはゴールキーパー。

・留学中の活動は?

「2019年2月にドイツへ来て、最初は7部のサッカーチームに入りました。5月にあったロービジョンフットサル日本代表の活動で、スペインへ行った際にそこでのプレーが評価されて、今所属しているドイツ1部のフットサルチームに移籍しました。12月にトルコで行われたロービジョンフットサルの世界選手権に帯同しましたが、その3か月前から代表の強化合宿が毎月あったので、その度に日本へ帰国していました」

・大学の授業はどうしてた?

「水曜日の授業を取って、ギリギリそれに間に合うように日本から帰ってくるように調整しました。それでも本当にギリギリでしたけど(笑)」

・フットサルチームの練習もあるし、それだけフライトがあるとコンディション面でも厳しくない?

「チームの練習は週3ですね。移動や時差を考えると、ドイツへ戻ってきたその日に練習があったりとか、授業もあってその週末には試合もあるとなると、コンディションも上がらなくて試合に出れないこともありました」

新しく立ち上げたクラブ「CLUB VALER TOKYO」について

・立ち上げようと思ったきっかけは?

「1年間ドイツでプレーして日本へ帰ってきたときに、『フットボールを通じた他者理解や共生社会』に興味があったんです。というのも、ドイツへ来て外国人と一緒にプレーして初めて『この人たちのことをもっと知りたい』って思ったし、それはロービジョンにおいても同じでした。そしてこれってすごく価値のあることだと思うんです。でも特に日本って、多文化共生とか障がい者が社会に出て行くのが遅れている中で、何かそういう思いを具現化したくて、今回クラブを立ち上げることになりました」

・ロービジョン限定のクラブなの?

「きっかけとしてたまたま自分の周りで視覚障がいの人たちがサッカーをやってて、彼らから話をもらってってだけなんで、敢えてロービジョンってわけではないです。だから将来的なビジョンとしては、それこそドイツの総合型スポーツクラブ(Sportsverein)みたいな、サッカーとか障がい者とか限らずに広げたいです。社会をより良くする仕組みが、スポーツを通じてあればいいなって思いでやってます」

・現状としてロービジョンのチームに対して、いわゆる健常者の人をどうやって巻き込んでいくの?

「競技という観点で言えば、ロービジョンの人しかプレーはできないけど、チームのイベントとして、視覚障がいの人と健常者の人を混ぜて一緒にフットサルやったりとか。実際にそういうイベントも今度あるんですけど。もちろんスタッフとして関わってくれている人もいます。だからプレーでというより、フットボールというプラットホームの中にみんなが入って来れるのがベストで

・それぞれの関わり方があるってことだね。サッカーって本来そういうものだよね。

「クラブ理念にも掲げているんですけど、『誰でも、どこでも、いつでも』っていうのが大事なところで。だから外国籍の人だったり、ろう者(聴覚障がい者)の人とかまでも取り込んでいけたらもっと面白いと思います」

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スポーツの本質・意義について

・おれも将来的に自分なりの形でずっとサッカーに携わっていたい気持ちがあるから、「サッカーで生きる」よりも「サッカーと共に生きる」って方がしっくりくるな。誰でも好きなようにボールが蹴れる環境が当たり前にあることが何より大事だよね。

「スポーツの普及の理想がそこだと思っていて、今おっしゃったような分野ができていないと、トップにも繋がって来ないんですよ。スポーツの本質を考えると、グラスルーツや普及ってところが大事で、ここが抜け落ちていると、トップを語るに至らない。今回のロービジョンの世界選手権で思ったことも結局そこで、日本より海外の選手の方が上手くて、この差って単純に練習量の問題ではなくて、どこまで普及しているかってとこなんですよ。例えばスペインだと視覚障がい者のフットサルチームが20チーム、イングランドにも10チーム以上ある、日本には4チームしかない。これが差だと思うんですよ。だからどれだけ誰にでもスポーツが開けているかってところがポイントだと思っています」

・「誰にでも」ってところにフォーカスすると、やっぱりに日本とドイツには大きな差を感じるよね。例えば4部とかの試合でも、ハーフタイムにはグラウンドで子どもが親とボールを蹴ってたりするし、グラウンドの数も本当に多い。だから「ボールを蹴る」環境へ入れるハードルが明らかに日本より低いよね。 

「なんでこんなに日本とドイツで違うのかって考えると、もう文化とか歴史の話になってきますよね」

・例えば日本の部活の仕組みとかどう思う?いまだに体罰事件は起こるし、ルールや掟に選手を当てはめ過ぎているようにも思うんだけど。

「どこを目指すかに依るとは思うんですけど、トップトップを目指すには規律は絶対に必要で。スポーツって勝ちに拘る場合には、ある程度の根性論って絶対に根底には必要で。ただ、それを18歳以下の子にどうやって課していくのか。その子の人生の先とか、スポーツの先を考えたときに、それが正しいのかというと今は世界的に見てもそうではない。だから個人的に、今の日本の仕組みはトップの中でトップを作るためだけの教育をしてるなって感じますね。半端ない選手3人作るために2000人を犠牲にしてる的な。だから本当にスポーツの価値で社会を良くしようとしたときに、社会においてパワーが足りなくなる」

・そこへ一石を投じるためにもクラブも作ったわけね。

「そういうことです。多分僕がそういう動きをして『それが正しいよ』って言ってくれる人ってものすごく少数派で。でもだからこそ僕がやろうと思うんです。誰かが繋いでいかないと、簡単になくなってしまうような分野に取り組んでいるから、『繋ぐ』っていう作業をする1人になれればいいかなと思っています。僕は色んな国へ行ってサッカーをしましたけど、スポーツってそういう風に成熟してきているから日本もそうなればいいなって思います。

それこそ僕は高校卒業の頃どうしてもプロになりたくてドイツに来たんですけど、結果的にその1年で得たものって本来欲しかったものではなかったけど、だからこそ今の僕があって。そういう価値観が大切なんじゃないですかね」

・だから指導者ってつまり、サッカーを通してサッカー以外のことまで伝えなきゃいけないんだと思う。もちろん選手はサッカーを教わりたいと思っていいし、指導者はサッカーを教えられることが大前提だけど、それだけじゃダメなんじゃないかな。

サッカー留学について

「だからやはりサッカー留学で来た人ってカルチャーショック受けますよね。週3の練習で、練習に全員揃わないことも普通だし」

・成功する道が見えにくいよね。まずはわざわざ言葉の通じない外国人を監督が必要としてくれるかという点。次にビザの問題で、ワーホリや語学学校ビザで滞在できる間に次に繋がる成果を残せるかどうか。もちろん日本での経歴なんて関係なくて、それを本人が理解したうえでどれだけサッカー以外の面もプロ意識を持って取り組めるかどうか。サッカー留学で来る選手は高卒も多いと思うけど、日本の環境で育った18歳が最初からそこまで理解したうえで渡独できるかというと、そうではないと思う。

「例えば1年目の選手がドイツの7部に入ったとして、7部ではおじさんでお腹が出ている選手なんてざらにいて、本当にアマチュアでグラスルーツなわけです。でもそんな中でも日本人選手が活躍できるかは分からない。なぜならフットボールには色んな要素があるから。チームの中でどういう立ち位置を築けるかってのも1つの大事な要素です。満足いく結果を残せず1年で日本へ帰ったとして、ドイツ語も喋れず、残ったのは1年間ドイツにいた事実だけ。でもそうなってしまうことの責任がその本人だけにあるのかと言うと、そうではなくて。そもそもサッカーだけやっていればいいと思ってしまうような環境を作ってしまったことが良くないと思いますね」

・いわゆるグローバル化が進んだことよって特に代理人も増えたし、誰でもお金さえかければ来れてしまうようになったからね。

「大して情報を知らずしても来れてしまう良さでもあり悪さでもあります。話が戻るようですけど、だからやっぱりスポーツの概念とか価値を改めて作り直していかないと何も良いものが生まれない。ドイツならどんなクラブにも地域のサポーターがいて、試合になったらビール飲んでソーセージ食べて、あーだこーだ喋ってる。でもそこにコミュニティが生まれてるわけです。そういうそれぞれの関わり方全てを含めてスポーツだと思っています」

障がい者スポーツについて

・日本って色んなスポーツがある国だし、サッカーだけ良くしていこうと思ってもだめだよね。人口も敷地も限られるわけだから、野球やバスケが敵になってはいけない。少なくともメジャーな男子サッカーと、ロービジョンや女子サッカーだったりまだまだマイナーなサッカーは協力していく必要があるよね。

「今回の世界選手権で1番感じたことは、結局日本のロービジョンの代表が今弱いのも、そういう普及の差なのかなということです。イングランドとかスペインで弱視の人がフットボールする環境が整っているのも、まず前提として健常者の人が誰でもできる環境があるからこそ。そしてその結果が今回の世界選手権のランクにそのまま出たのかなって。今回の日本代表の現状として、ベスト4を目指せるレベルはあったと思います。1点差の惜しい試合もありました。でも実際のレベルの差は数字以上にあったと思っています。男子サッカーとかのトップだけを見ると世界でも戦える選手が出てきていたりして、世界との差が埋まって来ているように感じますけど、もっと下の方に目を向けると全くそうではないと感じています。だから世界との差って多くの人が思っているよりも広いし、もっと関係ないようなところに手を出していかないと、強くもならないし続いて行きもしないと思います」

・最近だと指導者としてトップを目指したくてドイツへ来る人も増えてきたけど、ドイツの環境ならグラスルーツがあってのトップだって理解することは容易いだろうね。

「逆に日本でトップを目指そうとしている指導者の人は、僕の考えをあまり理解してくれないことが多いです、もちろん人にも依りますが。日本でA級やS級を取ろうとすると、選手時代の経歴とかも大事になってきますし。

だから今の日本的な考えだと、弱視のフットサル選手ってアスリートという認識はされないんですけど、僕的には彼らをアスリートにしたいです。フットサルの関東リーグでさえお金を払ってプレーしなきゃいけない現状ですけど、僕が今取り組んでいるのは、弱視のフットボーラーだけどお金を一切払わずにドイツのように出場給や勝利給が貰えるサッカー環境やチーム作りを目指しています。CLUB VALER TOKYOでは入会費やユニフォーム代はかからず試合給が出るようにスポンサーにも話をしています。それこそスポーツの価値を理解していただいているスポンサーに援助してもらっています。そしてこういうチームが広まってくると、障がいを持っていてもプロのような生活を送りたい人が増えて、スポーツの価値も広がると思うんです。『障がい者スポーツだけどめっちゃお金稼ぐ』って面白くないですか?スポーツっていう括りで健常者よりも稼ぐって夢があるし絶対に面白いと思うんですよね」

・お金ってモチベーションの1つになるし、今言ったような仕組みを作れれば外から介入してくる人も増えて、更により良いものが作れると思うな。

「お金が全てではないですけど、お金がなくて競技から離れて行ってしまう人もいますし。最終的には日本的な発展のさせ方をしなければいけないですけど、その過程の中でドイツやスペインの良いところを取り入れていく必要はあると思っています

今後について

・2020年はどういうことをしていくつもり?

「3月に帰国することが決まっています。ですので2020年は日本での活動がメインになりますが、まずは競技者として、自身の技術や能力を高めることには例年以上に努めて行きたいと思っています。幸いにも先日、現所属クラブで来季もプレーする事が決まりました。資金面でスポンサー集めが必要であったり、大学との兼ね合いもあるので超えなければいけないハードルは有るのですが(笑)。ただ来シーズンはブンデスリーガ参入に向けた大事なシーズンになるので、再びドイツに戻れることを信じて、その力になれるように気を引き締めて体づくりからしていきたいと思っています。そして代表に呼んでいただいた際にはしっかりと結果が残せるように準備を欠かさずしていきたいです。
そして主となる、VALERでの活動ではチームの強化と共に障がい者向けのスクール事業や様々な啓発イベントを通じて、スポーツの価値を少しでも多くの人に伝えられたらなと思っています。夏にはオリンピック・パラリンピックという最高の機会が訪れるということで、自身の活動を2020年のさらに先に「繋ぐ」為にもより多くの分野やその方々と協力し、クラブの拡大に努めていきたいです

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対談内容は以上になります。「留学生」「日本代表」「フットサルプレイヤー」「クラブ経営者」と、様々な顔を持つ彼からは学ぶことばかりで、そのスポーツに対する姿勢と行動力には本当に刺激を受けます。僕も彼と同様に自分にできることを「繋ぐ」作業をこれからもしていきます。

今回も読んでいただきありがとうございました!

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