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NFTは第一歩。デジタルを活用し、選手の心をファンへ届けるコミュニケーションの場を創造する。

今回は、「MatchUps」を開発いただいたイグニション・ポイント株式会社さんと共同で取材を行い、それぞれのライターさんに記事を執筆してもらいました。我々としてもはじめての試みで、どんなカタチになるのか不安でもあり楽しみでもありました。
関係者のインタビューからは、視点の違いはありますが、NFTサービスの先にある“お客さま”への姿勢では共通点がありました。ぜひ2記事あわせて読み比べていただけるとうれしいです。(シーホース三河note編集部)

正直に言えば、シーホース三河がNFTサービス「MatchUps」を始めるというプレスリリースを受け取った時、あまりピンと来なかった。
 
「なぜ、いま、NFTサービスなのか?」
 
新しいことに挑戦をする姿勢は素晴らしい。しかしながら、他にもっと優先してやるべきことがあるようにも思う。様々な疑問が浮かぶ中で、最も引っ掛かったのは、NFTによって「コロナ禍で離れてしまったクラブとファン・ブースターの距離を縮める」ことを期待しているという点だった。

リアルな場で得られる熱狂や感動体験を、デジタルで代替することは可能なのか。これは私だけではなく、スポーツファン、そしてデジタルサービスの開発に関わる人などにとっても半信半疑な部分ではないだろうか。
 
この疑問を、本サービスを推進するシーホース三河の堀江隆治、中野佑、西岡舜と、開発を担ったイグニション・ポイント株式会社の鈴木崇之さん、大山達也さんに率直にぶつけてみた。するとそこには、応援してくれるファンとのつながりを大切にしたいという、シーホース三河のブレない信念と将来への大きなビジョンがあった。

目指したのはコロナ禍でもファンとのつながりを強化すること

「いま」に対する答えは明瞭だろう。2019年に発生した新型コロナウイルス感染症の拡大により、スポーツ業界は多大な打撃を受け続けてきた。
 
コロナ禍以前のシーホース三河は、「来場してもらえれば魅力は伝わる」。そう信じて様々な施策を行い、ホームゲームの価値を高めることに注力してきた。

ホームゲームで非日常空間を楽しんでもらうことで『顧客体験価値』を高め、リピーターを増やし、そこからファンクラブ入会やグッズの販売につなげる。その積み上げてきた好サイクルは、対面での接触が制限されたことで大きく崩れた。
 
「ブースタークラブ(ファンクラブ)会員さま向けにサイン会や選手との1対1での撮影会などを行ってきたのですが、コロナ禍で様々な制限がかかったことで撮影会が中止になってしまうなど、選手とブースターの心理的な距離が離れてしまった印象がありました。選手をより身近に感じていただける新たな接点の必要性を感じていました」(中野)

シーホース三河でブースタークラブを担当する中野が語った懸念は、2020-21シーズンのチケット収入が昨対比で11.5%減少するという形で如実に表れた。この危機を打破するために、ファンとチームの失ったつながりを取り戻す一手が待ったなしで求められていた。

その過程で出会ったのが、新規事業創出やDX支援に強みを持つイノベーションファーム、イグニション・ポイントだった。

幼少期からバスケットが好きだった鈴木さんは、コロナ禍でファンとの新たな接点の創出が求められ、収益も不安定になっているという話を聞き、「デジタル社会の到来という未来が見えている中で、現状のファンの不満の解消ではなく、将来のファンのニーズも考えて何か未来に向けた施策を打ち出していきましょう」と熱弁。
その積極性に惹かれた堀江は、まずは共に自主的な勉強会を行うところからスタートすることに決めた。半年ほど隔週1回くらいのペースで続け、相互理解を高めながら、「新アリーナに必要なデジタルサービス」をテーマに自由な視点で研究。数十点のアイデアを出し合った。

「例えば、試合会場で選手が履いているバッシュを撮影すると、その種類が分かり、その場で購入できるようなアプリとか。ビールやアリーナグルメが購入できたり、トイレの混雑状況が確認できたりとアリーナの利便性を高めるものであったり。いろいろな企画を出した中にNFTの案があり、『これ、いいね』ということで進めることになりました」(イグニション・ポイント・鈴木さん)

堀江は「いいね」と感じた理由について、「ファンの方は、選手との接触体験や『自分だけの何か』を選手から得られることを大変欲していることが分かっています。しかしながら、選手は10数人しかいないので、何万人ものファンに一人一人対応することは難しい。その差分を埋め、叶う限りファンとの接点を持つことができる可能性をNFTに感じました。NFTを介して、選手の心が届くような状況を描ければと思っています」と説明。これが冒頭の「なぜ?」という疑問への回答のひとつだ。

ところで、そもそも「NFT」とは何なのか。
「MatchUps」をきっかけに、私も遅ればせながら数冊の本を読んだり、解説動画を見たりして勉強した。その程度の知識なので、詳しくはイグニション・ポイント公式noteの解説をご覧いただきたい。

付け焼き刃の知識でかいつまんで説明すると、「NFT(Non-Fungible Token)」は非代替性トークンと訳される暗号資産の一種で、複製や改ざんが容易にできてしまうデジタルデータに資産の鑑定書や所有証明書を付与することができるもの。
つまりは、デジタルデータがオリジナルであることのお墨付きが得られ、なおかつ自分の資産として所有することが可能になる。それにより「MatchUps」で言えば、シーホース三河が肖像権を持つ画像を自分だけの特別な一枚として所有することができ、サイトのアルバムを開けば、いつでもどこでも選手とつながることができるというわけだ。

Twitterで日記を更新するなどSNSでのファンとのコミュニケーションを大事にしている中村太地選手は「『MatchUps』は選手のプレーやオフでの一面をまるで自分が撮影したかのように楽しめる。その瞬間を『独り占め』できるのが魅力だと思う」と、新たな交流の場として期待していると歓迎する。

NFTでも貫いたシーホース三河らしさ

デジタルの場においても、これまでの対面の施策と同様に、シーホース三河がBリーグ開幕当初から貫いてきた姿勢は変わることはなかった。「プレイヤーズファースト、オーディエンスファースト、カスタマーファースト」。この3つのファーストを重視して、「MatchUps」の開発は進められた。

NFTは購入したデータを2次市場で販売することができるため、その差額で収益を得る目的で購入する投資としての側面を持つ。例えば、NBA選手のトレーディングカードを扱う「NBA Top Shot」は人気選手のカードが1000万円以上の高値で取引されて話題となったが、これは投資の過熱により起こった現象で、純粋なスポーツファンが楽しんだかと言えば少し違うようだ。

NFTは再販されるたびにクラブにも収益が入るため、希少性を高めて値段を上げるというのも一つの方法ではある。しかしシーホース三河は、これまで通り試合に足を運んでくれる観客を楽しませることを主眼に置いた。

このようなクラブの思いを、「MatchUps」を共創したイグニション・ポイントの鈴木さんも十分に理解している。
「他のスポーツチームが販売されているNFTは、1枚5,000円から1万円くらいで、安くても3,000円と高額なんですね。販売数も限定して、希少性を高めています。
一方で我々の『MatchUps』は一部の投機目的のファンが買い占めるのではなく、色々なファンに所有して欲しい。試合を観に来た子どもたちが、「かっこいい!」「写真が欲しい」と言っても500円であればお小遣いで買うことができる。そういう価格設定でなければダメだよねという話は、早い段階から共有していました」

『試合の興奮をそのままに』をコンセプトに、リアルタイム性を何より優先したのも、同様の理由だ。理想を言えば、試合を観て感動したシーンをその場で買えるような、写真を見るたびにその場の迫力、熱狂が蘇ってくるような。

そのために、デジタルリテラシーがそれほど高くないお客様でもスムーズに購入できるよう、シンプルで使いやすいサイトに仕上げた。さらに「少ないスタッフで無理なく更新できるよう、オペレーションの負荷を軽減するバックエンド設計にもこだわった」と開発担当の大山さんは自負する。

またマーケティングの手法として、「残りわずか!」などと表記して購買意欲を掻き立てるというものがあるが、「選手が見た時に、仮に自分の写真が残っていたら悲しい気持ちになるのでは」(イグニション・ポイント・鈴木さん)との「プレイヤーズファースト」の考えから表示しないことを選択している。
いずれも短期的な収益から見ればマイナスに思える。しかし「あくまでNFTはファンとの接点作りの場であり、目指すところはもっと先にある」(堀江) 、そしてあくまでデジタルもクラブが目指す「顧客体験価値」の醸成の一部を担うという考えが貫かれている。

NFTはまだ2合目。
新リーグ、新アリーナに向けてデジタルを活用した接点作りを続ける

NFTの面白いところは、単に写真の売買やコレクションをするだけではなく、ファン同士が交流できる場を構築できる点にある。プレスリリースでも既に発表されているが、「MatchUps」でも将来的にはブースタークラブとの連携を含めた交流機能を追加予定だ。

ファンクラブを担当する中野は「ブースタークラブのポイント特典はファンの方に人気が高いので、ブースタークラブの特典として使ってもらえるようなことも考えています。また現状は試合の写真が中心ですが、バイウィークで試合のない期間も楽しんでいただける施策も検討しています」と話す。

グッズ担当の西岡は「ブースタークラブの会員データを紐づけることにより、より豊かなお客様のデータを作っていくことができます。グッズ担当としては、そうしたお客様のニーズを生かしたグッズの開発、お客様一人ひとりに合わせて商品をレコメンデーションができるようになるといいなと思っています」と先を見据えている。

大きな期待のもとに送り出した「MatchUps」だが、順風満帆というわけではない。現時点の登録者、販売数ともに想定よりも下回っている。
ホームゲームにPRブースを出店し、来場者と直接意見交換をしたイグニション・ポイントの大山さんは、最大の原因はNFTの認知度の低さにあると分析する。筆者自身がそうであるように、利用する側のデジタルリテラシーが追いついていないことが出足の鈍さの一つの要因であることは否めないだろう。

NFTの認知度を高めることが直近の課題となるが、それでもイグニション・ポイントの鈴木さんは今回の共創は大きな第一歩だと捉えている。
「NFTサービスはまだまだ入り口であって、お客様とデジタルの関係については今後も考え続けなければいけない。NFTを皮切りにデジタルの施策を続けていく中で、新アリーナができたあかつきには、シーホース三河のファンが非常にデジタルに強いファンになっていたらうれしいですね」

シーホース三河の堀江はさらに壮大なビジョンを描く。
「写真の販売という形でサービスを開始しましたが、これはまだ2合目くらい。アリーナでお客様と選手やチームがデジタルを介してつながり、お客様のそばにいつもシーホース三河があるような状況を作り上げていきたい。そして将来的には、選手、チームだけでなく、クラブや三河という地域を愛していただけるような、枠組みを創出したいと考えています」

「なぜ、いま、シーホース三河はNFTに取り組むのか?」
その本当の答えは、新アリーナ、新B1リーグで知ることになるのかもしれない。

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