【要約】男性・男性性の研究のあり方(著:渡邊寛)
本文は、『ジェンダーの発達科学』より、第3章。
1. 男性・男性性の研究とは
男性学では、女性学やフェミニズムを意識し、社会的・文化的に規定された男性と男性性、そこから来る問題を対象にしている。男性学の特徴は下記2点。
①男性性が社会規範によって成り立つこと
女性学やフェミニズムが誕生する以前においては、人間の研究=男性の研究として男性が標準であり女性は特殊な存在とみなされていたが、男性学では男性もまた「男性は●●であるべき」という規範にそって振る舞う存在として捉えらえる。
②現在の男性のあり方に問題意識を抱いている
男性が男らしさに縛られることで、女性も男性も苦しめているという問題意識がある。
2. 男性・男性性に関する実証的研究
2-1. 男性性の規範
男性性の規範は5つに分類される。(参考文献:多様化する男性役割の構造:伝統的な男性役割と新しい男性役割を特徴づける4領域の提示、心理学評論、60、117ー139)…※こちらオープンアクセスでダウンロードして読めます!
2-2. 男性の問題
男性性の規範に対して肯定的な男性についての特徴をについて、下記の研究結果を挙げている。
・精神的に孤立し不健康な生活を送っていると推察される。
・自らの男性性が脅威にされされる時に、自分よりも弱い立場にいる存在(性別問わず)を攻撃しやすい
・性別役割分業に肯定的な男性ほど仕事中心の生活であり、妻との共感的コミュニケーションが少ないため、妻の満足度は低くなる。
3. 男性・男性性の研究に対する批判
批判の論点は3つある。
①何を研究対象とするか
男性自身が何を感じているのかという問い、あるいは、男性性により男女間の差異が維持されていること、どちらを研究対象とするのか。
②男性性をどのように位置づけるか
男性性が社会的につくられたものと前提して、男性性を男性が内面化していることによって問題が起きているとするのかを問うか、あるいは、男性性がどのようにつくられ、維持・強化されているのかを問うのか。(鶏か卵か)
③どのような視点で論じているか
研究対象を俯瞰して3人称で研究するか、当事者性を生かした1人称で研究するか。
4. これからの男性・男性性の研究
4-1. 男性性の複数性
男性の中にも、優位な地位を占める「覇権的男性性」とそれに従属し劣位に置かれた「従属的男性性」があり、階層性があると言える。ある社会や文化の中で、「覇権的」なあり方が作られていくプロセスに着目し、当事者はなぜ覇権的なあり方にこだわるのかを研究することが大切。
4-2. インターセクショナリティ
インターセクショナリティとは黒人女性フェミニストのクレンショーが用いた言葉で、性差別と人種等、複数の属性が交差することによる差別の複層性・交差性を示している。これまでの日本の男性・男性性研究においては、中産階級・異性愛の男性を中心として行われていた。しかしこれからは、人種・階級・国籍・セクシュアリティなどの視点を含めることで、こうした問題が男性性の固有の性質から生まれるという固定的な見方を相対化することにつながると考えられる。
4-3. 複数の視点による複合的・重層的な理解へ
男性性の複数性やインターセクショナリティに加えてm¥、「3. 男性・男性性の研究に対する批判」の3つの論点を意識することが大切である。カテゴリや視点の固定化を防ぎながら、研究対象に対するメタ的視点を維持することが期待される。