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【要約】メディアとジェンダー(著:田中東子)

『ジェンダーの発達科学』の第12章より、「メディアとジェンダー」の要約です。

はじめに

この章で扱うメディアの定義を、①伝統的メディア(新聞・テレビ)、②新しいメディア(インターネットやSNSなどオンライン上で展開されるもの)とする。メディアにおけるジェンダーの問題は3つある。

・メディアの中では男性が規範であり、女性が不可視化されている
・メディアの中ではステレオタイプされた女性のイメージや
 性差別的な広告、女性を格下げするような表現が蔓延している
・女性は男性に比べてメディアの中で働く機会を不当に奪われてきた

 

不可視化された女性、そして可視化にともなう困難

不可視化される女性と規範化される男性

 メディアの中に登場するジェンダーの役割やその比率の不均衡を調査したものとして、グローバル・メディア・モニタリング・プロジェクト(GMMP)がある。当該プロジェクトによると、ニュースだけでなく各種娯楽コンテンツを含むメディア文化全般において、女性は副次的あるいは性別限定的な役割を与えられる周縁化された存在と言える。一方で、男性は中心的な存在で、その振る舞いが文化を主導するアクターであり規範的な存在であると認められようになっている。

ステレオタイプ化された女性の可視化とポストフェミニズム的主体

 メディアにおいて可視化されている女性の像は下記のようなものである

①性別役割分業に基づくイメージ
 母、妻、娘を引き受け、家事を担ったり、装飾的な対象(知性的ではない)として描かれている。

②ポストフェミニズム的主体
 ネオリベラル・企業フェミニズムと言われるものである。具体的には、「自己決定でき、しなやかで、フレキシブル」な自立した若い女性が企業家精神と結びついて賞賛されている。しかしこれは、中産階級的な「スーパーウーマン」イメージから疎外される多くの女性たちを、性差別が横行するメディア表彰の世界から救い出すことは出来ないし、逆にジェンダー不平等が解消されているかのように感じられ、構造的なジェンダー平等から目を逸らさせている。

表象の権力

メディア企業やメディア産業は、特定の現実を選択し、構築し、意味づけることで表象を通じたイメージを生産する権力を行使し、圧倒的に占有している。では、そういったコンテンツを生み出す人たちの所属する産業構造におけるジェンダー関係を見る必要がある。

奪われた機会とジェンダー不平等な産業構造

 『男女共同参画白書』等の通り、日本の新聞社・通信各社におけるジェンダー比率は著しく偏っている。ジェンダー不均衡な産業構造の中で生み出された生産物(コンテンツ)も、性別役割分業や家父長制体制を再生産し続けることに寄与している。

 メディア文化産業内における職掌にもジェンダー格差がある。テレビ番組制作等のクリエイティブで生産的な仕事を男性が占め、女性はアシスタントやタイムキーパー、メイクや衣装などよりクリエイティブではなく補助的で、再生産的な仕事に従事することが多い。

オーディエンスと新たな公共圏としてのソーシャル・メディア

 新しいメディア空間であるソーシャルメディア領域におけるジェンダー問題を考える。

 これまでマスメディアの中で情報の作り手・送り手は男性が担っていた。しかし近年では男女間におけるデジタル・デバイド(情報格差)が解消されてきており、男女等しくコミュニケーション技術のユーザーとなり、みずからが情報の作り手・送り手となり、同様に消費する存在となって来ている。

 こうした変化により、男女ともに情報やメッセージの消費者から、生産も消費も同時に行う「プロシューマ―」へと変化した。その結果、近年では新しいメディアを通じて多様な意見や声が表出されるようになった。オンライン上での新しい声は、一定の影響力を持つと同時に、ミソジニーの攻撃対象ともなる。これはオンライン・メディア空間における「公共性」の問い直しにつながる。


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