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ホントはパパって呼ばれたい

2023年、僕には娘ができた。

娘は8歳。

つまり、僕の結婚相手の連れ子。

結婚前から度々会っていて、旅行も一緒に行っていたので、僕には懐いてくれていた。
と言っても、この子からすると「よく遊んでくれる男の人」くらいの認識だったと思う。
オリジナルで作ってくれたあだ名で呼ばれていた。

初めて会った当初から、愛嬌があって人懐っこくて、とても愛くるしい子だった。

肩車や隠れんぼをしたり、重いランドセルを代わりに持ってあげたりしていくうちに、「父親ってこんな感じなのか」、「この子の父親になりたい」と思うようになった。

特に迷いはなかった。
思い立ったように結婚を決意した。

この子のママにプロポーズした時は、この子にも花束を渡して、

「君のパパになってもいいかい?」

とプロポーズした。

「楽しいからいいよ」

僕は夫になったと同時に、パパになった。
呼び方は変わらずあだ名のままだった。

その数週間後に入籍し、3人で一緒に住み始めた。

最初は楽しいとしか思わなかった。
どんなに部屋を汚されようとも、大声で騒ごうとも、気にならなかった。
自分で掃除すればいい、2人を精一杯楽しませよう思った。

ただ、その幸せムードはずっとは続かない。
生活リズム、習慣の違いは、徐々に僕にとってストレスになっていった。
自分を犠牲にして、2人に合わせようと無理をしていたのだった。

何度綺麗にしても汚れるテーブル、点けっぱなしの電気、排水溝に詰まった長い髪。
2人には綺麗で快適な家に住んでほしいという思いで、僕はひたすら掃除を頑張ったが、長い一人暮らしで培ってしまった自分流が崩れることに我慢できなかった。

気づけばこのイライラは、嫁にだけでなく娘にもぶつけてしまっていた。
子どもが急にできるようになる訳でもないのに、同時に数々の注文を押し付け、自分流の生活を取り戻そうとしてしまっていた。
嫁に指摘されても、「子どものためだ」と大義名分を振りかざしていた。

終いには嫁にもイライラが伝染して、月の半分は夫婦喧嘩をする始末。
お互いの言い分に対して聞く耳を持たず、あげ足を取ってばかりの口論(もはや裁判)を続けていた。
一回始まると2,3日で終息するが、またすぐに開廷の木槌が鳴るという状態だった。

夫婦喧嘩をする度に、娘は怯えていた。
喧嘩が終わったら、「仲直りしたから大丈夫だよ、ごめんね」と2人で娘に謝った。

娘は、間抜けなアニメキャラの真似をして、仲直りた直後でまだ冷えている場の雰囲気を和ませてくれた。
娘の優しい性格に救われた。

気づけば、結婚当初に持っていた「娘を楽しませたい」という思いが一転、悲しませてしまっていた。
しかも気まで遣わせてしまっていた。

僕は娘に対して何かしてあげられているのだろうか?
この子のパパになると決めた時から、パパとしての自覚を持ってこられただろうか?

引くなら今のうちだと、かなり悩んだ。
嫁もそう思っていたかも知れない。

ただ、振り返ってみると、3人で過ごす何気ない日常はとても楽しかった。
幸せだった。

嫁も、娘も、そう感じていた。

その思い出も、これからの幸せな時間も、2人から奪いたくなかった。
自分からも去ってほしくなかった。

僕は考え直した。

「いいパパ、いい夫になろう」と頑張るのはやめた。

自分の中での理想のパパ、夫というのは、子どもに付きっきりで面倒を見て、仕事の合間に家事もバッチリこなすというものだった。

その理想と、完璧にできない(しきれない)現実とのギャップにイライラしていたのだ。

全部を取ることは無理だと諦めて、「3人で楽しい家族を作る」ことに重きを置くことにした。

そう考えると、肩の力が抜けて楽になった。
心に余裕ができたのを感じた。

3人でくだらない話で盛り上がったり、娘と僕の2人でデートに行くことも増えた。

当初は家事も娘の面倒(宿題など)も張り切っていたし、頑張ってることを認めてほしいと思っていたけど、それは「押し付け」でしかないんだなとつくづく感じる。

嫁も娘も頑張ってるし、自分だけではない。

一番大事なのは掃除じゃないだろ?
掃除に手を抜いたって誰も悲しまないだろ?

風呂の細かいところ洗ってる時間があるなら、娘を肩車してあげなきゃ。
今しかできないんだから。

さあ、今日も早く家に帰って娘に渾身のジョークでもかまそうか。

宇宙人に会った話にするか、オナラで宇宙まで行った話にするか。

こんな親父だけど、君の幸せを思ってるし、愛してるよ。

楽しんでくれてるならそれでいいけど、ホントはパパって呼ばれたいんだよな。

もちろん、嫁のことも愛してるし、今はとても仲良し(喧嘩はする)。
あげ足取り夫婦だったのが、今ではおしどり夫婦ってね。

さいなら。

#創作大賞2024


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