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ドタバタ?!ヘリ移送劇とお茶目なグレイ先生と予知能力【総合病院E-ICU15日目】

父の家系には、ドクターヘリに乗った人間がすでに2人いる。大腸がんを患った祖母(父の母親)が地元の総合病院から大学病院に転院する際もヘリ移送だった。その時に伯母(父の妹)も同乗した。後に伯母が「あれは生きた心地がしなかった」「気持ち悪くなって吐いてしまって」と話すのを、妹は覚えていたらしい。ちなみに私は全く覚えていない。

そして今回、父と妹が乗ることになればわが家系では4人もの人間がドクターヘリのお世話になるのだ。結構キセキに近い。

父の転院を決めた金曜日、移送をスムーズにするために家族でいろいろ話し合った。ヘリには妹が同乗し、私は車で転院先の病院に前乗りして迎える手はずを整えようということになっていた。

妹は、移送に関して師長に矢継ぎ早に質問していた。が、その質問はちょっと考えるとわかるような的を射ないものばかりだということにすぐ自分で気づく。そんなやりとりを端で聞いていて、普段は冷静な妹が今回の父のヘリ移送に不安と動揺を隠せずにいることがわかった。

姉妹は、うまくできている。私が感情的になっているときには妹が冷静に対処してくれる。そして普段冷静な妹が珍しくあわあわしているとき、私は結構冷静にいられることが多い。今回の父の入院に関してはもちろん前者が圧倒的に多いのだけど、転院の件に限って言えば完全に立場が逆転していた。いや、そもそもお姉ちゃんなんだからお前が普段からしっかりしろよ、と自分でツッコミたくなるけども。

私が冷静でいられたのにはワケがあった。グレイ先生から大学病院への転院を提案される前日の夜、私はなぜか転院を予知していたのだ。

そのタイミングで転院打診をされた。言い方がふさわしいかどうかわからないが「ああ、なんとなくそうなると思ってた」と頭の片隅で囁かれる中で、グレイ先生や看護師長の話を聞いている。だから冷静でいられたのだと思う。ヘリに乗って転院することまではさすがに予知してなかったけどね。

『姉、怖えぇよ。昨日転院の話したばっかりだったじゃん』
『このタイミングってね…自分でもなんか不思議』

金曜日の帰りの車では、姉妹でそんな話をした。

よく考えると、こういう不思議なことは重なっていた。父が救急搬送される土曜日の週の初め。私はふと「家族グループLINEに週1〜2回は自分からメッセージを入れよう」と思い立った。他愛もない話だけど離れて暮らす家族を気遣ってやりとりをすることで、なんとなく安心したいという気持ちがわいたからだ。

その7日後に父は救急搬送されたのだけど、一番びっくりしたのは、ふと思い立ったその日が、父の状態が急激に悪くなった日だと後から聞いた時だ。「なんかやだ、予知能力っていうの?直感?第六感?今思えばあの時よくわからない不安があったのかもしれない」こうやってついネガティブに考えてしまうけど、そんな能力がほんとうにあるのなら、もっと別のことに力を使ってもらいたい。温泉を掘り当てるとか、宝くじを当てるとか、いろいろ使い道あるじゃん?頼むよ長女さん。

話が逸れたが、最終的にヘリには父とひとみ先生だけが乗っていくことになった。医療機材の重量の関係で3人は乗れないのがわかったのはだいぶ後になってのことだった。師長さんが何度も消防に確認を取ってくれて「やっぱりご家族は乗れないということでした。ごめんなさいね」と言われた時には、妹の動揺を返してくれ…とちょっと思ったけれども。

翌土曜日。転院に向けて準備を進める中、面会時にグレイ先生が来てくださった。『明日は日曜日で私ちょっといないもんですから』と言い最後の挨拶にお見えになったのだ。

『状態は相変わらず悪いままですし、月曜日に移送できないと判断すれば日を改める可能性もありますが、週明けの転院で段取りは進めていきます。移送にはひとみ先生が付き添ってくれますから安心してくださいね。非常に稀な病気かもしれないということで治療が始まっても長くかかるかもしれません。大学病院の先生にお願いするということでしっかりと情報は引き継ぎますから』

グレイ先生がいろいろな可能性を模索してくださったおかげで、ここまで来れたと思う。焦りや不安もあったけれど先生はいつだって父や私たち家族のことを気遣ってくれた。本当に信頼できる素晴らしい先生に巡り合えたと思っている。

こみ上げるものをグッと堪えながら『本当にお世話になりました。ありがとうございます』と姉妹揃って頭を下げた。

するとグレイ先生『ところで転院先の病院は長女さんのご自宅の近くで良かったかな?いや、次女さんの家の近くの方が良かったかな、とも思ったんですけどね。ちょっと距離がありますしね…』とポロリ。父も妹も私も【それ、今言うか?!】と心の中で先生にツッコミをかましていた。こみ上げてきた熱いものがスッと引っ込むのがわかった。

最初から最後まで、ボサボサのグレイヘアがよく似合う、ちょっとお茶目であったかい先生だった。この先生からは救命救急の殺伐とした空気をまったく感じない。そういうところが逆にプロだと思った。

父の状態が良くなったらグレイ先生に手紙を書こうと思う。うん、絶対にそうなる。なんたって私、予知能力あるんだから。




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