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Vol.1念願の診断確定は最重症…TAFRO症候群と言われた日【大学病院ER1日目】

12月のある日、朝9時。父が総合病院を出発する時間になった。昨日の呪いのような祈りが奏功し天気は快晴、ヘリで予定通り出発すると病院から妹に連絡があった。前乗りしていた私と妹もほぼ同じ時間に出発し、父を迎えるために初めての大学病院に向かった。

向かう先は高度救命救急センター。前日のうちに病院案内を見て「広っ」とは思っていたけど、いざ行ってみるとそこはまるで迷路。まだまだ増殖中らしい院内は立ち入り禁止の箇所も多く、床には何本も色付きのラインが引いてある。その中に「救急外来」と書かれた青いラインを見つけた。どうやらそれを辿れば着けるらしかった。

9時半頃、受付。「先ほど出発したとこちらに連絡がありました。10時すぎには到着予定ですので待合でお待ちください」と引き継ぎは完璧。大学病院ってやっぱ違うなぁ…とかどうでもいいことを考えつつソワソワしながら長椅子に腰掛けた。

10時頃、先ほどの受付のお姉さんがやって来て「今、近くの病院にヘリが着いたと連絡がありました。そこから救急車で来られますのであと20分くらいだと思います」とのこと。てっきりここの屋上に着くものだとばかり思っていたのでちょっと意外ではあったけど、ひとまず無事に空路を乗り切ったんだ…よかった。

担当の先生が来られ軽くご挨拶をしてくださり、「まずはお父さんに会われますよね」と比較的すぐに顔を見られることになった。到着後父がソッコー「娘たちは?」と医療スタッフに聞いてくれたらしく、先生が配慮してくださったようだった。

地元の総合病院同様、スタッフのICカードで病棟の自動ドアが開く。ところが目の前に広がる世界はそれまでとは全然違っていた。こういう時うまい言葉が見つからないのが悔しいのだけど、ホント「まるでドラマ」。数々の医療ドラマの名作に出てくるまさにそれなのだ。

救急車の搬送口の目の前に初療室、救命病棟24時シーズン2のオープニングで流れるような無機質な機械が並ぶ中に、コードブルーで観た「いち、に、さん」と患者をストレッチャーから移すときの声が聞こえて来そうな初療台。通って来た通路からはMRIだかCTだかの大きな医療機器がむきだしに見えていた。「これみんな、TVで見たことある」が最初の感想(笑)

通路を進み最初に目に入ったのは、地元の総合病院から父に同伴してくださった見慣れたひとみ先生の姿だ。ひとみ先生は上着を抱えて初療台から離れた通路に立っておられた。軽く会釈をしてから父の元に歩み寄る。

非現実の世界に足を踏み入れフワフワしていた私が父に投げかけた第一声は『おつかれ〜』だった。いや、もうちょっと別の言葉もあったよね、きっと。でもあろうことか父もまさかの同じ言葉で返して来た『どうも、おつかれ〜』。その掛け合いに医療スタッフたちが思わず笑ってくれたことで、ようやくドラマみたいな世界から現実に引き戻されたような気がした。

父は案の定『ヘリ、気持ち悪かった』とゲンナリしていたが、話もしっかりできている。「良かった、とりあえず良かった」バカみたいにそれしか言葉が出てこなかった。

後になって担当医から「よくこの状態で長距離移動を耐えてくれました」と聞かされた。それがどういう意味を持つのかは後になってわかるのだが、素人の私から見ても父は本当に頑張ってくれたのだと思う。そして先生が父にも同じことを伝えてくれたことがすごく嬉しく、誇らしかった。

しばらくすると、ひとみ先生が『それでは私はこれで失礼します。お父様の状態はしっかりと引き継がせていただきましたのでご安心ください』と、ちょっと緊張気味でおっしゃった。今までのひとみ先生とは何かこう雰囲気が違う。どんな時でもどんな相手にも上からバスンとはっきり物を言うタイプで、感情を入れない淡々とした先生だと思っていたけど、ここに来てなんだか急に親近感がわいてしまった。

『本当にお世話になりました。ありがとうございました』と深く頭を下げた。心の中で(今まで、ちょっと苦手とか嫌いとか思っててごめんね)と唱えながら。お辞儀には感謝と反省の意味も込めたつもりだった。

そういえば、ひとみ先生ってどうやって帰ったんだろうか。
ヘリがひとみ先生の戻りを待っていてくれる?それはなんとなく想像できなかった。いまだに謎のままなのだが、もしも公共交通機関で帰るとしたら相当な労力だ。残念ながらわが地元は新幹線一本で帰れるような利便性の高い場所ではない。ますますひとみ先生が好きになった(ゲンキン)

その後、担当医から「少し落ち着いたら検査をしていきます。終わりましたらまたお呼びしますので待合でお待ちください」と言われた。覚悟はしていたが2〜3時間ほど待ったと思う。

大学病院には何でも揃っている。カフェやコンビニ、売店や食堂はもちろん、果物やお花も売っているし、郵便局やATM、理美容…ヘタしたらここで暮らせるんじゃなかろうか(いや、すでに入院患者はここで暮らしている)

妹が気を利かせてパンを買って来てくれた。しかもコンビニのパンではなくパン屋さんのやつで、相変わらず食欲はなかったがひとつ食べさせてもらった。それがまた今まで食べたことのないようなパンですごく美味しかった。姉妹揃ってちょっと気になったのは『大学あんぱん』だ。いつの日か買ってみることもあるかもしれない。

ほとんど人のいない待合室で思った以上に快適に過ごしていると、担当医から面談室に案内された。

さあ、いよいよ待ちに待った説明だ。
(Vol.2へつづく)

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