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余白あるミッションが企業の輪郭をつくる:Galapagos Supporters Book⑫(後編)

シリーズAで累計13億円の資金を調達したAIR Designのガラパゴス。
そこには株主や顧問、社外取締役という形でガラパゴスを支える、たくさんの支援者の存在があります。
ガラパゴス・サポーターズブックでは、そのような外部の支援者と、ガラパゴス代表・中平の対談を通して、ガラパゴスとAIR Designの魅力をお伝えしていきます。

本記事は、シリーズ第12弾・シニフィアンの朝倉さんとの対談記事の後編です。前編については、以下よりご笑覧ください。

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既存事業と新規事業は「混ぜるな危険」

中平:新しいプロダクトを生み出す環境づくりに注力されたというお話ですが、具体的にはどのように環境を作っていったのですか?

朝倉:強く意識していたのは、既存事業と新規事業は「混ぜるな危険」だということです。既存事業が収益を生み出している中、先行投資が必要となる新規事業を並行しようとすると、どうしても空気感の断絶が生じてしまいます。無から有を生み出すには既存事業とは違った熱も必要ですし。オフィスデスクの島の中で、一個ぽつんと新規事業の島があるとして、明らかに両者のテンションが違う、そんな構図になりがちです。

中平:そうなりますよね。

朝倉:みんな遅くまで頑張って作っている中、既存事業のチームから「今日はどんなイノベーションできたの?」とか言われたらやる気なくなるじゃないですか。

中平:腹立つなそれ(笑)

朝倉:でしょ?だから物理的な意味も含めて、完全に分けると決めていました。本当は別のビルを借りたかったんですけど、予算の関係もあり会議室のフロアを使っていましたね。

中平:予算ガチガチの中で新しいことをやるって、とても難易度が高いですよね。

朝倉:でも、実は当時のtoCサービス(個人消費者向け)って、企画開発する段階でマーケティングなどにコストをかけなければ、そこまでお金はかからなかったんですよ。莫大な予算があっても意外と使えないですしね。コストを削ることも難しいですが、お金を有効に使うことはさらに難しいんです。

中平:確かにそうかもしれませんね。

朝倉:後はどこまで先行投資を許容できるか考えた上で線引きをしていました。空間も、人材像も、人事制度すら分けることを検討しましたよ。

中平:評価・報酬までも、パキッと分けるということですね。

朝倉:そうです。それから、事業同士のシナジーを追わないこと。既存事業の責任者からしてみたら、既にやりたいことがあって優先順位をつけているのに、いきなり新規事業とシナジーを追求しろと言われてもすぐに着手できないし、中途半端な位置付けでは結局何も生まれないので。

中平:確かに。

朝倉:既存事業と距離を置いたスタンスで新規事業を進めて軌道に乗ってくると、逆に既存の人たちがシナジーを追いたくなるんです。「同じ会社なのになんで一緒にやってないんだ」という声があがるタイミングを待つ。残念ながら僕は中平さんと違って創業社長じゃないから、説得力も発言力も全くないわけですね。僕が「やれ」って言っても絶対やらないので、追わない・待つと決めたんです。

中平:なるほど。

朝倉:分けると決めたからには、「mixi」アカウントの接続もNGにしました。ブランドを切り分けようとしている中、接続させたら意味がないので。

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事業と密結合しすぎず、拡大解釈できるミッションを

中平:既存と新規、それぞれの事業が成長していくのは喜ばしいですが、一方で全社共通のミッションとビジョンを人は欲しがりますよね。新規事業が大きな影響力を持ち始めた時、会社のアイデンティティが内外から問われると思います。それに対してはどのようにお考えでしたか?

朝倉:これはすごく悩みました。ミッション、最近ではパーパスという呼び方をしたりしますけど、それを変えるか、思い切って社名を変えることまで考えましたね。

中平:「モンスト」と改名してもいいぐらいですよね。

朝倉:実は僕が悩んでいたのは「モンスト」がヒットする手前の段階なんです。新規事業が急拡大したらもう悩まなくなるんですよ。ミッションとか関係なく皆の意識は盛り上がっている方に集中するから。そこに至るまでの一番の問題は、「会社」のアイデンティティと「事業」のアイデンティティが密結合していることなんです。突き詰めると僕がミクシィの経営を通じてやったのは、その密結合を解きほぐすことなんですね。

中平:なるほど。

朝倉:結局、社名は変えないという結論になったのですが、ミッションをどうするか、悩みに悩みました。当時のミッションは「全ての人に心地よいつながりを」というものだったんです。聞いてお分かりの通り、サービスと密結合したフレーズです。一見すると「このままで良いのか?」となりそうですが、考えに考え抜いたあげく、全く関係のないフレーズを持ってきたところで誰にも響かない、ということに気付いたんです。ミッションって結局、社員を奮い立たせるとか、外部から見た時のテーマ性を浮かび上がらせるためにあると考えれば、とってつけたもの、かつ僕が言うことに何の意味もないな、と。繰り返しますけど、外から来た僕には社内向けの発言力がないから。

中平:(笑)

朝倉:辿り着いたのは、事業のひとつひとつを、「全ての人に心地よいつながりを」というテーマに即して、新たな解釈で説明をする、ということです。

中平:あー、分かります。

朝倉:根付いているミッションというのは、やっぱりサービスにも滲み出るんです。例えばゲームにしても、「つながり」をずっと意識してきたからこそ滲み出る細かな仕様や機能があるわけです。これ、わかる人には絶対伝わります。この機微に気付かない、セルサイド(証券会社)のアナリストのような方には「儲からないじゃないか」と言われるかもしれませんが、そういう話ではないんです。僕は、ミッションって太陽じゃなくて月のようなものだと思っているんですね。太陽のように、ミッションの文言自体が光を発して自然と社員を勇気づけるというものではない。

中平:その例えは分かりやすいですね。

朝倉:事業と密結合しすぎず、拡大解釈の余地があり、だけど何か尖った感じがする、そんなフレーズが一番良いと思うんですよ。

中平:解釈の余白があるフレーズですね。

朝倉:そうそう、最たるものがソフトバンクグループさんの「情報革命で人々を幸せに」というフレーズです。事業について具体的には何も言っていなくて、拡大解釈の余地があります。携帯キャリアだって、ペッパー君だって、AI事業に参入する、といっても違和感がない。でも、どこかテーマ性と求心力を感じるじゃないですか。

中平:感じますね。

朝倉:さらに太陽じゃなくて月だと考えれば、一番重要なのは自分たちで光を当て続けることなんです。「情報革命をやるんだ、オーッ!」と言い続けることがものすごく大事。

中平:はい。続けることですよね。

朝倉:全ての物事を紐付けてコンテキストを作ること。最初から正解があるわけじゃないんです。延々と紐付けて語って、コンテクストを作っていくプロセスにこそ意味があるんです。だから、耳障りの良いフレーズをただ掲げてもダメということですね。

中平:僕らも「プロセスとテクノロジーで人をよりヒトらしく」というフィロソフィーをすごく大事にしているのですが、かなり解釈の余地があると思っています。プロセスとテクノロジーを重視しているんだけど、やることは人をよりヒトらしく。「ヒトらしい」って何かと言えば、働きやすい環境もそうだし、サービスによってユーザーの生活をより良くすることもそう。伝わるか若干不安はあるんですけど、うまく解釈してもらえるといいなと思っています。

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朝倉:いろんなものを紐付けて説明することで、意味を持たせていくんだと思うんです、その言葉自体に。

中平:最近、コテンラジオ(podcastの歴史系人気番組)で歴史を学んでるんですが、例えば宗教なども、余白ある伝え方をすることで次の世代が解釈を加えながら広めてくれるものだと感じます。

朝倉:そうですね、確かにキリスト教ってパウロがつくったようなところもあるかもしれないです。

中平:ソフトバンクさんのお話もそうですが、周囲が広めてくれていますよね。ミッションやパーパスの設定は、会社を繁栄させるプロセスにおいて非常に重要なんだろうと得心しました。

朝倉:ミッションて、何回も言っていると、本人が一番飽きてくるんですよ。「また同じ話してるわ、俺」って思うんですけど、聞いてるほうがうんざりするぐらい、同じことをずっと言い続けることが大事なんですよね。

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▲ 美しい白馬とポロ競技の練習に臨む朝倉さん。広大な大地を人馬一体となって駆け抜けています。

ゲーム事業のヒットと過熱する株式市場

中平:もう1つ聞きたかったのですが、「モンスト」については売れる予感、手応えみたいなものは早い段階から感じていたんですか?

朝倉:そうですね。ゲームは絶対来ると確信していました。確か「モンスト」は4本目ぐらいのネイティブアプリで、何本か作った中でも一番予算をかけていたんですね。当時、日本のモバイルゲーム市場はHTMLベースのプラットフォームが中心。DeNAさんとグリーさんですね。ネイティブアプリを出して存在感を持っていたのはガンホーさんとコロプラさんぐらいしかなかったので、まだまだ席は空いているなと。社内で作っていくのは非常に大変でしたけど、「パズドラ」より絶対面白い!って話は人にしてましたね。

中平:なるほど。

朝倉:けれど水物だから先のことは分からないですよね。そんな中、2013年の年末にかけて株価が数百億レベルで一気に上がったんです。当時、サイバーエージェントさんも1500億ぐらいの時じゃないかな、確か。

中平:要因は何だったんですか?

朝倉:おそらく、当時の個人投資家がAppStoreのランキングを注視していたんですよ。僕も2ちゃんねるなどで ー当時はtwitterではなくー その様子には気付いていて、「やっぱり見ている人は見てるな」という感じでしたよね。決算も良かったのですが、当時まだマネタイズ要素が弱くて、実はゲーム事業はそれほど貢献していませんでした。でも、期待先行でぐんと上がりましたね。実際にユーザー拡大の波が押し寄せていることがわかると社内も盛り上がって、てんやわんやの祭りが始まりました。それはそれで良いことなのですが、僕自身は「怖い」と感じていましたね。

中平:「期待はされてるけど...」みたいな。

朝倉:そうそう。中にいたら昨日と今日で何も変わってないことがわかるわけで。それなのに、過剰な評価を浴びていて、その負荷が非常に大きかったです。ある程度市場に対して、クールダウンさせるようなコミュニケーションも必要かと考えていました。

中平:市場が盛り上がりすぎていたということですね。

朝倉:期待値をコントロールするのがIRの役割でもありますからね。

中平:実力として安定的に「モンスト」が当たり始めたのは?

朝倉:売上貢献という意味では2014年に入ってからですね。

中平:各事業へのリソース配分を意識し始めたのはどのくらいのタイミングですか?

朝倉:若干曖昧ですが2013年の年末くらいでしょうか。サーバーが落ちそうなほどユーザーが集まる状態になっていて、凄腕の人たちが対応していた時期ですね。

中平:それは強いですね!ゲーム事業が軌道に乗って、組織が大きくなった時の大変さはありましたか?

朝倉:それで言うと、いよいよ人数を増やす段階になった頃には、社長を退任していたんです。僕がいる間はめちゃくちゃ抑制型でしたから。1年前まで大変辛い状況だったわけで、その時の反省もあるから、むしろスーパー緊縮財政でやってました。

中平:贅肉なしですね。

朝倉:もう搾り取るものはないくらいの状態でした。

中平:それだけヒットすると会社としては希望の光だと思うんですが、全体的に盛り上がっていたんですか、それとも温度差がありました?

朝倉:一部では温度差あったのかもしれないですけど、あれだけ大ヒットすれば否が応でも意識が行きますよ。

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圧倒的なV字回復、直後の退任

中平:不思議なのは、そこから経営が楽しくなりそうなのに、短期間で退任されたことです。

朝倉:結局、代表になってから1年で退任しました。執行役員になる前くらいからの下準備を含めると関わっている時間はもっと長いですけどね。右肩下がりの中でどう折り合いをつけていくのか。これが全然楽しくないんですけど、シミュレーションを重ねてなんとか3年程度でブレイクイーブンさせようと考えていました。何しろ社長就任時は、上場以来で初の赤字転落という状況でしたからね。時価総額も180億前後。

中平:その後V字回復を達成されましたが、すぐに退任されました。

朝倉:色々とプランはありましたが、ポジションにこだわる気も、しがみつく気もなかったですし、「仕事は終わった」と思ったんです。それが2014年ですね。実際、時価総額も2014年中に、5000億を超えるまでいきましたしね。

中平:いやー、すごいです。ガラパゴスとしても、今後は多角化を進めていくと思うし、朝倉さんが仰ったように新しい事を起こそうとするなら既存事業とのシナジーを考えている場合じゃないと。だけど会社という同じ器のミッションがあり、それぞれの事業があり、その結合性をどう捉えるかが、僕たちの次の経営課題になると思っています。朝倉さんには、客観的な目線で引き続きアドバイスをいただけたら嬉しいです。

朝倉:ぜひ、お役に立てるように頑張ります。

中平:最後の締めとして、ガラパゴスに興味を持ってくださっている方にメッセージをお願いできますか?

朝倉:すごく面白い会社だと思います。SaaSで良い会社っていろいろあると思うんですけど、ガラパゴスは良くも悪くも、わちゃわちゃしてるところがたくさんあります。結構な事業規模になっているのに「まだわちゃわちゃしとるな」という感じです。

中平:(笑)

朝倉:それをどう捉えるかは人それぞれですが、僕はものすごく伸びしろがある会社だと思うんですね。「自分が入ったらこんなことができる」と腕に覚えがある人であれば、すごく「腕のふりがい」がある会社だと思います。事業は事業として伸びていくと思いますが、さらにそこに対して工夫する余地のすごくある会社だと感じていますね。

中平:若き日の朝倉さんが入社したら、いろいろできそうですよね。

朝倉:中平さんも、そういう生意気な若者好きでしょ(笑)

中平:ぜひ来てほしいです(笑)僕たちまだまだわちゃわちゃしているので、カオスをさらにカオスにしてくれる人、大歓迎です。朝倉さん、本日はありがとうございました!

朝倉:ありがとうございました!

村上さんシニフィアン (2)

▲ シニフィアンを共同創業された、朝倉さん・村上さん(写真左)・小林さん(写真右)。THE FUNDの運営によって、未来世代に引き継ぐ新たな産業の創出を目指されています。

▲ シニフィアン村上さんとの対談記事

▲ シニフィアン小林さんとの対談記事

▲先日発売された朝倉さんの新刊。イラストや具体例を交えながら、経営に必要な仕事術について分かりやすく解説されています。

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(文責:武石綾子・髙橋勲)