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スケールを支える起業家の野心と泥臭さ:Galapagos Supporters Book④(前編)

シリーズAで累計13億円の資金を調達したAIR Designのガラパゴス。
そこには株主や顧問、社外取締役という形でガラパゴスを支える、たくさんの支援者の存在があります。
ガラパゴス・サポーターズブックでは、そのような外部の支援者と、ガラパゴス代表・中平の対談を通して、ガラパゴスとAIR Designの魅力をお伝えしていきます。

第四弾は今回のシリーズAラウンドからリード投資家としてガラパゴスへご参画いただいた、STRIVEの堤さんです。

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■堤達生 プロフィール
STRIVE | 代表パートナー
大学院卒業後、三和総合研究所、グローバル・ブレインを経て、株式会社サイバーエージェント及び株式会社リクルート、グリー株式会社にて、新規事業開発及びコーポレートベンチャーキャピタルの設立と運用に従事。その後、新たにベンチャーキャピタルファンド(現STRIVE)を創業して、代表パートナーに就任。

直感した野心を、信じてスケールさせる

ーーまずはじめに、堤さんの自己紹介をお願いします。

堤:ベンチャーキャピタル歴はほぼ20年になります。新卒でコンサルティングの仕事を3年半程経験した後に、初期のグローバル・ブレインに入社しました。ベンチャーキャピタル人生が始まったのはそこからですね。アソシエイトで2年ほど働いた後、あるあるですが、「事業を創ったことが無いのに上から目線で色々言ってもなぁ」という想いが出てきて。最初の事業会社としてサイバーエージェントにジョインしました。そこでは金融事業の立ち上げに携わり、FX事業が後々大成功を納めたんですがーその礎となる部分を創ったり、他にも金融サービスを多く創っていましたね。

次に移ったリクルートでもVCに縁があって。2006年にCVC※を作ったタイミングでちょうど良く入ったこともあり、投資部門の責任者を5年ほどやりました。VC以外に事業を創るのも好きで、リクルートでも色々創りましたよ。見事にどれも成功しなかったんですけど(笑)すごく優秀な人がいてお金もありましたけど、失敗する時は失敗するなと。非常に学びがありましたね。

※CVC:コーポレートベンチャーキャピタル。事業会社の自己資金でファンドを組成し投資を行う活動組織のこと。

中平:Kaizen(株式会社Kaizen Platform/STRIVE社の投資先)の須藤さんもいらっしゃったタイミングですよね。

堤:はい、リクルートでは本当にそうそうたるメンバーと一緒にやってましたね。その後に独立も検討しつつ、やっぱりインターネットビジネスど真ん中で仕事をしたい気持ちもあって、グリーにジョインしました。僕の場合ゲーム事業などより「インターネットビジネスに投資をしたい」という話をして。100%グリー資本の「グリーベンチャーズ」というCVCを創って、色々な会社に投資をしていましたね。2011年から14年にかけて、晴れて外からお金も集めて独立ファンドにしようと、STRIVEの原型組織を創りました。今年で足かけ10年ですね。ガラパゴスさんには、3号ファンドから出資させてもらいました。

中平:ちなみに「STRIVE」という単語はあまり聞きなれないですが、どのような意味なんでしょうか。

堤:「戦う」とか「勝つ」など強い意味のある言葉ですね。戦う集団というイメージ。ブランドを作っていく際に、社名がなかなか決まらなかったんですが、インド人のパートナーから「STRIVEってどう?」って言われてしっくりきて。それがそのまま社名になった感じです。

中平:堤さんのキャラクターを表している感じですか?

堤:どうでしょう。自分ではそんなに強いとは思っていないんですけど(笑)

中平:他のスタートアップの人たちと話している時に「堤さんってどういう人ですか?」って聞くと、大体「漢気」って言葉が出てくるんですよ。

堤:たしかに、ロジカルに切れ味鋭く、というよりは、「気合い」重視ですね(笑)

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中平:「その野心を、スケールさせる」というSTRIVEさんのタグラインも素敵です。

堤:「スケールさせる」と表向きは書いているんですけど、起業家の持つ物凄い野心を、0→1というより、1を10に、10を100にするところに自分たちのコアバリューがあると思っているんです。その野心をいかに大きくするかに自分たちの価値があると思っているので、タグラインで標榜していますね。

中平:なるほど。あの、僕、すごく堤さんと相性が良いと勝手に思ってるんですけど。

堤:大丈夫です、僕も思ってるから(笑)

中平:よかった、両想いだ(笑)僕も「野心」という言葉が大好きなんですよ。下剋上とかひっくり返すとか、そういう言葉。でもVC業界って、あんまりそういう事を表に出す方が少ない気もしていて、だから余計印象に残ってます。実はSTRIVEさんにずっと投資してほしいと思っていまして。2019年に古城さん(STRIVE社のインベストメントマネージャー)とお話する機会はあったんですよね。当時は競合に近いKaizenさんに既に投資しているし難しいかも...みたいな話はしていて。でもKaizenさんが上場して、「席が空いた、今いけるんじゃないか?」と思って。2021年の3月頃に古城さんに連絡をさせてもらって、そこから初めて堤さんへの事業説明の機会をもらいました。

堤:実は投資判断って、ほぼ会った瞬間に決まっていることが多いんです。自分で言うのもなんですが、そういう案件は大体成功しますね。中平さんとの出会いも、プレゼンを聞いて、Kaizen Platformさんの経験も役に立ちそうだなと思ったし、すごく先が見えたんです。マトリックスシリーズ1の最後あたりのシーンでね、電子構造の中で敵が見えるシーンがすごく好きなんですけど、それに近い感じでガラパゴスの未来がクリアに見えたというか(笑)

中平:お~嬉しい(笑)とは言っても、堤さん単独の意思決定ではなくて、パートナーの方とも協議が必要ですよね。

堤:もちろん投資委員会を通すために、データやロジックの組み立て、マクロの分析等もやりますよ。でも投資の意思決定って、何より経験を積んだキャピタリストの直感力がすごく大事だと思うんです。考えすぎてしまうと経験が変に邪魔をしたりとか、データやロジックで判断しようとすると、見えるものも見えなくなってしまう。そのバランスがすごく難しいんですけどね。

中平:僕も採用面接の時とか、直感派です。テレカンだろうが実際に会おうが、会った瞬間に「お、好き」とか感じますよね。それに近い感覚を豊富にお持ちなんだろうなと。

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「泥臭さ」こそが、長期的な競争優位

中平:投資先が大きくなるか否かについては、どの様に見極めていますか?

堤:「大きくなる」というのは結果の話ですよね。僕は「人がめんどくさいと思うことをゴリゴリやる会社」がすごく好きで、大事にしたいという気持ちが大前提としてあります。後回しにされてしまうようなことを一生懸命やってる会社。面倒くさいことを効率化して、どうテクノロジーに置き換えていくかというガラパゴスのフィロソフィーと、僕のフィロソフィーがかなりマッチしたんです。だからすぐに投資判断ができたんですよね。

中平:Twitterで「好きな会社は、キーエンス、SHIFT、リクルート」って書かれてましたよね。ガラパゴスもその系譜だと思ってるんですが、どんなところに惹かれますか?

堤:SHIFT(株式会社SHIFT)は、ソフトウェアのテストをゴリゴリやるところからスタートして、それをどんどん拡張してここまで大きくなった。リクルートも、元々学生の就職媒体の広告集めという非常に地味なところから始まっている。ただ、コツコツやっているだけでは労働集約的になってしまいますよね。それを効率化するにはどうすべきか、頭のいい人たちがめちゃくちゃ考えていいものを創るという。そのプロセスや思想が好きなんだと思います。

中平:僕たちも元々ロゴを自動生成するサービスを作っていました。これもみんなが嫌がる仕事なんですが、そもそもマーケットサイズが小さいとか単価が安いとか、リピートされないことに3年気付かなかったんですよ。でも技術はあったんです。そこから「広告デザイン領域ってマーケットサイズ大きいよね」という話になり、ピボットして。かつLP サイトを商材にしようと決まったんですけど、各広告代理店とかLP制作会社に話してみたら「絶対やめた方がいいよ」とばかり言われて。

「これは勝った」と思いましたね。「プロが嫌がってる仕事をテクノロジーとプロセスで効率化したら圧勝するじゃん」って。それからプロダクトやサービスを磨きこんで、泥臭くコツコツやったことがマーケットにハマっていきました。

堤:そういう考え方のほうが長期的な競争優位を築けますよね。技術的な優位性ってせいぜい半年とか、MAX9ヶ月くらいしか持続しない。Googleが本気出して同じ事をやってきたら、すぐ追いつかれますよ。一方、面倒なことをゴリゴリやる会社は蓄積型だから、結果が出るとなかなか追いつけない。

例えばGoogleはバリバリのテクノロジーの会社だけど、今からGooglemapを作るとかそんなめんどくさいこと誰もやらないじゃないですか。あれ自体でGoogleは圧倒的に勝っているわけで。そういう仕事ができる会社こそ、長期間成長すると思う。もちろん僕の投資家としてのゴールは期限内でのエグジットということになるんですけど、自分の投資した会社が長期的に成長するとすごく嬉しいし、応援したくなりますね。

中平:STRIVEさんの投資先は、やはり短期よりも中長期のモメンタムと言うか、まさに「面倒くさい仕事」に自ら取り組んでいるような会社が多いですよね。

堤:もちろん、美しいプロダクトをグロースさせてスマートに成長していく会社は素晴らしいですよ。ただ、やはり多少泥臭さがあったほうがいい。純粋にソフトウェアだけだと、どこかでひっくり返されちゃうんじゃないかって、投資検討の際にも少し恐怖感を感じてしまう。泥臭いエッセンスが入ると、簡単にどうこうされるものじゃなくなるんです。

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ミッションは起業家が「立ち返る」場所

中平:2021年の頭からカチッとスイッチが変わったことがあって。単純に「お客様に良いサービスを提供しよう」という考えから、「産業を変革する使命感」を勝手に背負ったんです。僕、自分を100億人に一人の男だと思っていて。100を5回かけると100億なんですけどね。デザインについて一番詳しいのは当然。ディープランニングやAI のことも一番知っている。製造業のことも誰よりも一番わかっている。これで100人に一人の要素が3つ。そして地頭でも100人中一位になる自信はあります。かつ、図々しさでも100人中1位だなって。掛け算すると地球上に僕しかいないんですよ(笑)

となると、デザインの産業変革をできる人は僕しかいないと勝手に思い込むようになって。単純な拡大よりも、日本に16万人、世界で300万人、400万人ぐらいのデザイナーの未来を僕は背負ったんです、平均388万円の労働待遇を、僕達が600万にするんだって。そう思い込むようになってから、すごくパワーが出るようになりました。

堤:まさに使命ですね。

中平:まさに。ミッションというか、使命だと心の髄から思える。その瞬間があってからはもう迷わないです。ちょうど40歳になって、これが私のテーマだとわかってからすごく楽にもなりました。

堤:スタートアップこそミッション・バリューと言われるけど、やっぱりそこに立ち返るんですよね。特にガラパゴスの場合、社歴も長いから本当にいろんなことがあったと思うんですけど、「自分のミッションはこれだ!」とトップが思えた瞬間に、立ち返る場所ができる。大変だろうが苦しかろうがIPOして大成功しようが関係ないんですよね。そこに自分は帰ってくるんだから。

中平:100年後、自分が死んでもAIR Designがあったからデザイン産業が良くなった、という未来さえあれば、他のことはどうでもよくって。このタイミングで、心の底からそう思えるものを持てたということがすごく嬉しい。しかもそれに共感してくれる堤さんのような力のあるキャピタリストが仲間になってくださって。昨日のミーティングで、意識しての事かわからないんですけど、堤さんが当社のことを「ウチ」って言ってくれてたんですよ。あれ、実はすごく嬉しくって(笑)

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堤:いやいや、同じボートに乗ってますからね。

中平:そういう何気ないことが大事で。外部の株主って言っても、もう仲間でしょう。運命を一緒に背負ってもらっている。少なくないお金を張っていただいてますもんね(笑)

堤:まあ、そうですね(笑)

中平:長いキャピタリスト経験の中で本能的にやられてることもあると思うんですけど、そういうスタンスでいてくださることがすごくありがたいです。

堤:いつも忘れちゃうんですよ、自分が株主であることを(笑)会社のボードメンバーとしてすべきことを最初に考えますし、そうあるべきだと思います。特にリードインベスターであれば尚更。かつ社外取締役でもある以上、会社にとって本当に大事なことを徹底的に考えぬく。これは当たり前のことだし、僕はその意志を常に守り続けたいですね。

後編に続く

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▲力強さと爽やかさが共存している印象の堤さん。仕事のパフォーマンスには清潔さと健康が大事という信条で、最近はピラティスにも通われている。

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(文責:武石綾子・髙橋勲)