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大義と情理をもった破壊者であれ:Galapagos Supporters Book③(前編)

シリーズAで累計13億円の資金を調達したAIR Designのガラパゴス。
そこには株主や顧問、社外取締役という形でガラパゴスを支える、たくさんの支援者の存在があります。
ガラパゴス・サポーターズブックでは、そのような外部の支援者と、ガラパゴス代表・中平の対談を通して、ガラパゴスとAIR Designの魅力をお伝えしていきます。

第三弾はガラパゴスに経営顧問としてご参画いただいている、ローランド・ベルガー日本法人の会長を歴任された遠藤功さんです。

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■ 遠藤功 プロフィール
シナ・コーポレーション | 代表取締役
早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2005年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を務めた。2020年6月末にローランド・ベルガー会長を退任し、7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動。良品計画やSOMPOホールディングス等の社外取締役を務める。

人を動かすのは合理ではなく、情理である

ーーまずはお二人の出会いからお話いただけますか?

中平:僕が入っていた中尾塾という経営塾で、推薦図書になっていた遠藤さんの著書『現場論「非凡な現場」をつくる論理と実践』を読んだのがきっかけです。「これはAIR Designの成長に必要な考え方だ」と感銘を受け、ぜひお会いしたいとオフィスにお越しいただいて。図々しくも「当社のサポーター(経営顧問)になってください」とお願いしたという経緯です。

遠藤:去年の8月に顧問に就任したので、もう1年以上前になりますね。

中平:ちょうど初めて資金調達をした後でした。当時我々に対して率直にどういう印象をお持ちでしたか?

遠藤:一言でいうとすごく野心的で、野望に溢れる会社という感じでしたね。面白いスタートアップはたくさんあるんだけど、その中でも野心、ダイナミズムが際立っているというか。非常に魅力を感じて、この会社の成長を見守っていくのは楽しそうだなと思いました。

中平:僕たちは製造業を標榜していますが、遠藤さんも知見の多い業界かと思います。業界的な観点からは僕たちのビジネスをどう思われましたか?

遠藤:デザインという既存の業界・ビジネスモデルを相手に新風を吹かせようと、そこに製造業のノウハウを入れたらもっともっと生産性高く、効率性が上がるだろうというお話で。野心や野望を感じる一方、しっかりと地に足がついている印象もありました。製造業の強み=日本の強み。それを生かすことで業界の地図を変えることができるんじゃないか、話を聞いていてそういう大きな絵が見えましたね。

中平:僕の勝手なイメージで、元コンサルタントの遠藤さんは合理の権化と思っていたのですが(笑)「中平さん、人間は合理じゃ動かないよ。情理だよ。」というお言葉をいただいたのがものすごく刺さって、その後の経営判断にも大きな影響がありました。

遠藤:僕自身も製造業出身で、ものづくりにおいて人の能力を最大限に活かすためにどうすればいいか考えていたんです。もちろん生産プロセスは合理的に設計しないといけないけれど、働いている人も合理的に扱ってしまうと当然うまくいかない。これはトヨタの役員の方に教わったことなんだけれど、結局「最も合理的なことっていうのは合理的なことじゃない」「人の情緒に訴えることがもっとも合理的なこと」だということを教えてもらいました。合理的にやるなんて簡単なんですよ、理屈なんていくらでも言えるから。理屈だけじゃクライアントは変わらないのも事実だし、人の気持ちや心を大切にできるか否かが、組織の成長において大きな分岐点になりますね。

中平:合理的・効率的に考えるのはめちゃくちゃ得意なんですが、それだけではだめなんですよね。

遠藤:必要条件ではあるけど、十分条件ではないですね。ロジックはあって当たり前だし、方向性も一定シンプル。大事なのは、それを早くどうやって実行していくかで、ここが難しい。理屈はその通りだけど、理屈通り人を動かせますかと。人を動かせないと大きな力にはならないのです。

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組織の成長には、成熟が必要

中平:僕らも100人を超えて、300人を目指すフェーズに入りました。規模が大きくなるとミドルマネジメントが重要になりますよね。マネージャー陣がどれだけ自分ごととして捉えて、行動して変革してくれるかが次の大事な経営テーマになってくる。

遠藤:ビジネスの成長と組織の成長がうまく同期しないといけないですね。人や組織が成長しているのか、ということを経営としてウォッチしていかないとサステナブルな会社にはなりにくい。「成長」ではなく「膨張」になってしまう。人材の育成とミドルの強化はビジネスが大きくなってから取り組んでも手遅れで、早い段階から時間をかけてやっていくことが重要。

中平:そういう観点ではガラパゴスにとって、遠藤さんに顧問についていただいた意味がとても大きいんです。1年先とか2年先に起こり得る課題を想定してくださるので必要な一手が打てる。

遠藤:特にスタートアップの時期はどうしても目の前のハードルをクリアすることに手一杯になってしまうからね。でもやっぱり組織や人に対しては時間をかけること。時には回り道した方がいいものもあるんですよ。なんでも直線的に行くのがいいわけじゃなく、経営として必要な踊り場はちゃんと作った方がいい。急いで直線で行ってしまうと、見失ってしまうものが結構あるんです。成長至上主義になりがちだけど、組織には成熟も必要だから。成熟っていうからにはじーっとしている訳ですよ。

中平:成熟を停滞ととらえてしまうのかもしれないです。成長を実感できる方が安心できるじゃないですか。

遠藤:組織を成長させようと思ったら、中平さん(社長)自身は我慢しないといけない。それは会社だけでなく中平さんを成熟させるタイミングなんですよ。自分が答えを教えた方が会社としてはスムーズにいくかもしれない、でもここは言わないで我慢だと。メンバーが考えるチャンスを提供することが、中平さんの成熟につながるんです。

中平:なるほど。いや~難しいですよね(笑)

遠藤:結局、人が育つ会社であれば組織としてできることはどんどん大きくなるし、魅力的な会社であれば、いろんな人の協力も得られる。やっぱり最後は人で、魅力的な人がいることで、自然と魅力的な人が集まる。事業もさることながら、「ガラパゴスで働いている人っていいよね、優秀だよね。みんなやる気に溢れているよね」って言われるのが社長として最大の喜びじゃないかな。

極端に言えば、「もう中平さん、いらないんじゃない?」と言われるような会社だね(笑)そのくらいみんなが活躍していたら、社長としてこんなに嬉しいことはないでしょう。

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トヨタのカイゼンに込められた真意と「人本主義」

中平:遠藤さんに伺った中でもうひとつ印象的だったのが、なぜトヨタは改善活動をするのかというお話です。利益を追求するという目的以上に、一番は人のため、人を育てるためのものだと。

遠藤:トヨタって「乾いた雑巾もしぼる」というくらいストイックに改善を繰り返していて、現場を締め付けるような印象があるかもしれないけれど、豊田英二さん(トヨタ自動車第5代社長)は全然違うことを言っていましたね。トヨタがカイゼンを進める理由は、無駄な仕事を社員にさせない為だと。人(社員)の人生・大事な時間を預かっているのに、その時間で無駄な仕事をやらせるということは、経営者としてはとんでもない話。だからみんなで改善して、意味や価値のない仕事は撲滅しないといけないんだと説明していた。

現場にとってはすごく説得力がありますよね。「会社が儲けるために極限まで改善する」って言われても響かない。どうせやるなら意味がない事はしたくないよね、だったら改善していこうよと。そういう考えが浸透しているんです。その力って何というか、極めて強大で。現場の人も極限まで考えているし、実行する能力がある。そういう人を1人ずつ育ててきた結果、今のトヨタがあるんです。

中平:以前遠藤さんのご紹介で見学に伺ったデンソーの工場でもまさに、そこかしこに改善活動の片鱗が見えました。

遠藤:資本主義の後に何が来るかを考えると、やっぱり「人」ではないかなと。「人本主義」って日本は言われていたわけだけれど、今はその価値をもう一回取り直すタイミング。ガラパゴスには、そのお手本のような会社になってほしいな。

中平:遠藤さんとの対話を通じて僕たちのフィロソフィーが「プロセスとテクノロジーで人をよりヒトらしく」という言葉に決まったんですよね。やっぱり情報化社会だし、僕らのサービスはデジタルなクリエイティブなんだけど、それを誰がつくっているのといったら人。改善を重ねることで「人がヒトらしくいられる」ということに確信を持てたんです。

「羨ましい会社」にしていきたいんですよね。給与が高くお客様にも喜んでもらえて、かつ仕事を通じて輝ける。誰も否定できない会社。そこに向かっていくことがすごく大事だと思います。

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「見える化」は目的ではなく、問題解決のための手段

ーー遠藤さんと言えば「見える化」の仕組みですよね。

中平:「見える化」どころじゃなく「見せる化」が重要だと思っています。デンソーさんでも改善活動の中で「課長の想い」というものを共有していて。それを参考に、ガラパゴスでもマネージャー陣による「Manager Note」(気付きから小噺まで共有する取り組み)を始めたのですが、やっぱり効果は大きいですね。

遠藤:要は経営において必要なものを見えるようにしようということ。都合が悪いものや問題など、本当は隠したいこと・見せたくないものを共有することです。それが会社が病気にならないために一番大事なんですよ。健全な会社は、現場における色々な問題をどんどん見せていく。問題が見えれば周りも協力してくれるわけです。見える化は目的じゃなくて、問題解決を加速化するための手段なんですよね。そういう姿勢が風通しの良い風土にもつながっていきます。

中平:なるほど。僕は「恐怖」って目に見えないから勝手に頭の中で作り出してしまう幻想だと思っているのですが、できる限り因数分解して、見える化することですよね。そこで浮かび上がるポイントに注力することで課題がクリアになり解決に向かって進むことができる。

遠藤:情報格差を無くすのもポイントですね。例えば経営陣と現場の社員の間。「情報は透明性を保つべき」という意識を組織全員が持つ事によって、変な情報格差がなくなって行動が早くなる。フラットな組織にしたいと思ったらちゃんと「見える化」「見せる化」をすること。情報のばらつきがあるのに、組織がひとつになることはありえない。

中平:今回の資金調達において使用したピッチデック(投資判断に必要な企業情報を細部まで盛り込んだ資料)を投資家だけでなく、社内の皆にも開示したんです。全体像を見て、自身の行動についても考えるきっかけになればいいなと。

遠藤:そういう取り組みは良いね。今後組織が大きく中で、縦割り組織の弊害とかいろんなものを防いでいくことにもつながるから、見える化・見せる化は本当に大事な考え方ですよ。

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自律分散型の組織と、経営の醍醐味

中平:僕自身この半年間で特に意識しているのが、「事業家から経営者になる」ということなんです。社員に権限移譲しつつ寄り添う、ということを考えていましたが遠藤さんには「寄り添われたら邪魔だよ」と言われて、たしかにそうだなと(笑)

遠藤:ガラパゴスには自律分散型の組織になって欲しいという気持ちがあります。ヒエラルキーじゃなくてね。働いている社員が自主的に自律的に動いて回っていく、お互いに連携し合いながら動いてく、そんな組織のお手本を示してほしい。

中平:自律分散型といえる組織って日本にはまだまだ少ないですよね。

遠藤:そうですね。本来は現場が一番情報を持っていて、お客様に近くて、何が必要かわかっているはず。それなのにいつの間にかトップの指示待ちになってしまう。それが日本企業の優位性を削ぐ1番の原因だと思います。やはりGAFAがここまで強い大きな要因は自律分散型の組織運営にあるんじゃないかな。

中平:自律分散型の現場であることと、トップが遠くにビジョンを描いていることのふたつですよね。

遠藤:もちろんそうですね。トップはビジョン・ミッションや方向を決めて、全体を束ねていかなくてはならない。でも現場で仕事をするのはトップじゃないんですよ。どんなに有能な社長だって全部ひとりではできないから。どれだけ現場の社員が自主的に楽しそうに働ける組織をつくるか、それが経営という仕事。経営をしているっていう感覚だと思うんですよね。

中平:その感覚、持ち直さないといけないと思っています。ずっと現場で自分が動いて事業を牽引して創ってる自負があったのですが、それをずっとやっていてもガラパゴスという会社は大きくならないから。

遠藤:そうなんだよね。楽しいこととかやりがいのあることを社長が独り占めしちゃいけないんですよ。社長はもっと辛いことをしないといけないんだよね(笑)

中平:ははは、おっしゃる通りですね!今現場仕事をやりたくてうずうずしちゃってるんですよ。

遠藤:我慢ガマン! 楽しいこと、やりがいのあることを現場に任せて、社長は「いいな、やりたいな」って思っているくらいがちょうど良い。それが経営者としての器の大きさになってくるし、経営者はもっと大きな楽しみを見つけていくんです。人が育つとか、人が集まってきてくれるとかね。現場とは違う楽しみを味わえるのが、経営者の醍醐味だから。

後編に続く


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▼ガラパゴスでは、デザイン産業革命に取り組むメンバーを募集中です!

(文責:武石綾子・髙橋勲)