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20世紀型の価値観の構造転換と人本主義:Galapagos Supporters Book⑤(前編)

シリーズAで累計13億円の資金を調達したAIR Designのガラパゴス。
そこには株主や顧問、社外取締役という形でガラパゴスを支える、たくさんの支援者の存在があります。
ガラパゴス・サポーターズブックでは、そのような外部の支援者と、ガラパゴス代表・中平の対談を通して、ガラパゴスとAIR Designの魅力をお伝えしていきます。

第五弾は今回のシリーズAからガラパゴスに株主としてご参画いただいた、THE FUNDを運営するシニフィアンの村上さんです。

村上さんプロフ

■村上誠典 プロフィール
シニフィアン | 共同代表
未来世代に引き継ぐ新産業創出を目指し、シニフィアン株式会社を共同創業。創業前は、ゴールドマン・サックス東京・ロンドンの投資銀行部門に15年弱勤務、TMTカバレッジとM&Aグループを兼務。大手電機メーカーやメディア企業など大型投資も実行。ソフトウェア&サービス、自動化/ロボティクス、通信テクノロジー業界の専門家として数多くの企業の成長戦略とポートフォリオ転換を経験。東京大学航空宇宙工学専攻、民間初の小型衛星開発を経験。同大学院では宇宙科学研究所(現JAXA)にて深宇宙探査機に関する基礎研究等に従事。キャリアを一貫し、グローバル視点でテクノロジーや企業経営に関わる。2019年、グロース・キャピタル「THE FUND」を設立。株式会社SHIFT社外取締役他、多数の上場・未上場スタートアップのアドバイザー・取締役等を歴任。著書は『サステナブル資本主義 5%の「考える消費」が社会を変える』。

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日本の未来と、人を起点とする世界観

ーーはじめに村上さんの自己紹介をお願いします。

村上:ちょっとユニークなキャリアかと思います。ゴールドマンサックスに長年いたのですが、その前は宇宙開発の研究者をやってました。ふたつとも全然違うフィールドのように思えるかもしれないのですが、僕としては根底に同じフィロソフィーを持ってやってきましたね。この21世紀、世界も日本も大きく変わると感じていて。「テクノロジーと人」という観点でパラダイム・社会の可能性が大きく変わると信じて活動しています。私自身このテーマにずっと向き合っているのですが、経験を通じて思うのは、「日本はポテンシャルが高い」ということ。ただ20世紀のルールや価値観から構造転換ができてないだけで、すごくもったいない状況なんです。

世界が向かう先に日本も適合できれば、そのポテンシャルを開放して新しい未来を長期的に作ることができると思います。これまでのキャリアでもそういう視点を持っていましたが、スタートアップ界隈で若い人を中心にゼロから組み上げていく方が、古いものを構造転換していくよりも圧倒的に近道だし、むしろそれしか解がないとようやく気付いて今に至ります。21世紀の新しい日本、未来へ向けて何をすべきか考えて、長期的な視点で今の仕事に取り組んでいる。それが僕自身と、Signifiantの紹介です。

中平:僕はシニフィ談(SignifiantによるYouTubeチャンネル)全部観てるんですよ。

村上:再生数における中平さんの貢献が高すぎて(笑)もっとみんなに観てもらえたら嬉しいですけどね。

中平:スタートアップ関係者は全員観るべきですね。僕は村上さんのことを「短距離ではなく長距離でものを見られる方」だとすごく感じていて。今のお話なんてまさにそうですよね。フィロソフィーから考えれば宇宙であり、金融どまん中であり、グロースファンドでもあって。違うように見えて共通していると理解しています。

村上:理系かつこういう風貌なので誤解されがちなんですけど、僕自身すごく人に対する愛着がありますね。兵庫県出身なんですけど、周りにおじいちゃんが多いんですよ。そういうところだと世界のあり方と触れ合う前に人の在り方で育つというかね。小学校1年生くらいの時、一人だけ老人会に混じってゲートボールをしたり、カラオケ大会に出て演歌歌ったりしてましたから(笑)僕長男で、同世代の親戚の中でも年齢的には一番上なんですけど、だから逆に親世代を飛び越えておじいちゃん世代と遊んでた環境もあって、必然的に人の大切さを感じる機会が多いんです。今の若いデジタル世代が人と接する機会が少ないのは、もったいないと思いますね。

中平:へー!良い環境で育ったんですね。

村上:やっぱり人が物事の起点、エネルギーの源泉だと思ってます。そう考えると人生って少なくとも80年くらいあるわけだし、それくらいのライフタイムでみて、何事も「人が楽しく頑張れるか」は重要視してますね。

村上さん富山L

▲田舎育ちの村上さん。旅好きで、今でも日本の各地を巡られています。

20世紀型の資本主義から、サステナブルな資本主義へ

中平:「人」視点で考えると、「身近な周りの人を幸せにしたい」という考え方と、「構造を変えることで関わる人を広く幸せにしたい」という考え方があるじゃないですか。両方とも正しい考えだと思うんですけど、そのあたりはどうお考えですか。

村上:片一方だけ実現は難しい気がするんですよね。例えば僕と中平さん、どちらかだけではなく、両方幸せなのが理想で。幸せって広げていくと連鎖するじゃないですか。どれだけステークホルダーを広く見られるかってその人の視野次第だと思うんですけど、実は全部繋がっている。経験を積んでくると自分の活動と社会のつながりがより深く感じられるようになってくるんです。「Connecting the Dots」ですね。誰かひとりだけが幸せな状態って長続きしないし、それを目標にしちゃいけないんです。

中平さんも同じタイプかもしれないけどー世の中も、自分の周りの人も、自分自身も幸せにしたい。そのバランスは矛盾するものじゃなくて、追求し続けないといけないし、幸せって儚いものなので常に意識した方が良いんですよ。今日幸せでも明日不幸になるってこともあるし。幸せは持続しないから追い求め続けるものだと感じています。

中平:ゴールドマンサックスは金融ど真ん中で、ある意味でグリード(強欲)に見えてしまう業界だと思いますが、人への意識というのは、実際どんな感じだったんでしょうか。村上さんの著書「サステナブル資本主義」にもありましたが、その辺りの変遷が非常に興味深くて。

村上:元々金融をやりたくて入った訳ではないんですよ。全く門外漢だったし、未だに金融が世の主軸であることにはすごく違和感を感じる。本来は人のために社会があり、仕組みが存在してるのに、資本主義の影響力がものすごく大きくなってしまった。資本主義が当たり前のルールで、それに従わなきゃいけないとみんなが思い込んでる。結果的にその中心にいる人がすごいグリーディに見える構造ですよね。それだとみんな不幸だし、本来あるべき姿ではない。僕自身は「THE金融マン」でもなかったし、ずっと感じていたギャップをなるべく多くの人が読んで分かるように書いてみた、というのがあの本です。僕にとってはすごく自然な内容ですね。

▲本稿の重要なテーマとなっている、資本主義の在り方。ご興味のある方は、ぜひ村上さんの著書「サステナブル資本主義」をご一読ください。

中平:なるほど。

村上:行き過ぎてたところがあると思うんです。自分に力があるんじゃなくて資本主義が力を持ちすぎているということに多分みんな気付いていなかった。今、そういう考えが少しずつ変わってきているから、発信していくことでより是正していきたいですね。一方で、資本主義の時代にしか生きてない人達からすると、「いやいやその世界しか知らないんですけど?」みたいな話になる(笑)ただ、今の時代の価値観って当たり前に思えて、実は最近つくられた部分が多いんですよね。

産業革命以前とか、そうじゃない生き方をしてた人って沢山いて、生産性が高かったり幸せな時代もあったんです。それなのに「20世紀型の資本主義」が、効率化、型化、スケーラビリティを追求して、お金中心になりすぎたことで、暴走を止められなくなってしまった。もちろん資本主義を全否定はしないんですけどね。システムやルール自体、変える部分は変えていかないと、よかれと思ってやったことが人を不幸にしたり地球環境を破壊したりする。理系なのでルール自体を疑うクセがあるんですよね。「前提がおかしいんじゃないの?」と。

中平:わかります。僕も元々土木工学科出身の理系な人間なので。

村上:他にも、例えば今の教育システムは、同じことを教えられてテストをして。それが当然だと皆思ってるけど、別に当然ということはない。一つひとつ疑って変えていかなきゃいけないくらい、20世紀の価値観が僕らの世代に根深く浸透してる。新しい価値観を規定しないと、教育も資本主義も金融システムも働き方も何も変わらないよね、と。

村上さん登山2

▲国内随一の名峰・剱岳を望む村上さん。趣味の登山は、持続可能な社会を考える良い時間になっているそうです。

失われた仕事の等価性を、テクノロジーで取り戻せ

中平:今の話を聞いて、我々にご興味持っていただいた理由が分かりました。僕たちのフィロソフィー「プロセスとテクノロジーで人をよりヒトらしく」も同じ考え方ですね。僕もクリエイティブの世界で10年やってきて、村上さんと同じく理系的観点で常に業界構造に疑いを持っている訳ですよ。「なんでこんなにクリエイティブな人たちが報われないんだ」と。根本的にテクノロジーを持ち込んで生産効率あげないと変えられないと思いましたね。そこからテーマが決まって、今思いっきり踏み込んでます。

村上:仰る通りですね。ガラパゴスさんに対しては、最初から「筋が良い人が筋の良いことをやっている」という印象はあったんですよ。さらに会社について調べたり皆さんと会ったりした時に、心から「社会性」を大事に考えていることが伝わったんです。そこに相性の良さをすごく感じて。人が幸せに働く状況を如何に作るか。この観点がすごく大事でサステイナブルだから。

僕は建築やアートも好きなんですけど、世の中にはデザイナーがたくさんいて、でも業界的構造の問題でその多くは報われていないことを知っている。そんな中でガラパゴスに筋の良さを感じたのは、単純にデザイナーの地位をあげたいと願うだけでなく、「テクノロジーの導入により新たな価値を生み出して、その価値に気付かせる」というアプローチなんですよね。

安藤忠雄とかも好きなんですけど、ようわからん人にとったら「これに何の価値があるねん」って感じですよね(笑)本当は計算されつくした理由やメリットもあるけど、伝わらなければ認知もされない。テクノロジーを入れてデリバーすることによって、潜在的な価値を市場に認知させる。結果的に創った人達を幸せにするということですよね。そういう取り組みは物凄く社会性が高いし、世の中の大きな賛同を得ると思う。価値を認めればみんな気持ちよくお金を払うんですよ。それは他の業界でも証明されてますしね。

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中平:例えば子どもが医者になるって言ったら、いいことしてるし稼げそうだから背中を押すじゃないですか。デザイナーになるって言ったら、いいことだけど果たして食べていけるのか、親として不安になる。それを変えたいんですよ。

村上:わかります。多分、仕事の価値を資本主義のルールの連鎖が勝手に規定しているんです。人が価値を感じて一生懸命やってる仕事は等価交換なのに、なんらかの規則性をもって「これは時給800円」「これは時給50,000円」って、頭のいい人たちが勝手に決めているにすぎない。本来仕事にはもっと等価性があったはずなんです。価値がある仕事なのに、処遇を理由に仕事として選べなくなったり、時間を使えなくなる状況って長期的には不幸ですよ。デザイナーもそうだし、エッセンシャルワーカーもそう。

その状況が変わらなければ「価値のある仕事」をやる人がいなくなってしまう。漁業とかも全部養殖にしてロボティクス化すればいいという話もあって「いやいやちゃんと自然の中で育ったものの価値を見極めようよ。それ全部ロボティクス化したら逆に効率悪いじゃん」ってなるはずなんだけど、本来の適正な価値のありかを模索しきれなくなってるんですよね。

村上さんアート

▲アートも守備範囲の村上さん。映り込む景色が絵になった不思議な一枚。

人を大事にすることが、デジタルを司る者の責務

村上:でも一方で、デジタルの観点で生産性を上げることも必要なんです。フェアな競争環境に置かれなくなるから。おそらく現状、デジタルから遠い人ほど構造上、不当な評価を受けやすい。デジタルの活用が進んでない部分をサポートしてその価値を高めながら、デザイナーに還元していくフローを生み出すことができれば面白いと思うんです。中平さんの「型を作る力」があれば、デザイン以外でも価値の不均衡が発生している分野に対して、気付きを持ち込むような形を作れるんじゃないかな。フィロソフィーを大事にしながら長期的にスケールする会社になっていくと思います。

中平:まさに大事なのはそこですね。社内でよく「システム8割ヒト2割」って言葉を使うんですよ。デジタルをシステムという言葉に置き換えているんですけど、8割方は機械にやってもらおうぜ、残りの2割でヒトらしい仕事に集中しようと。デザイナーであればクリエイティビティをもっと発揮しようとか。人にしかできない仕事って必ずあるから。そこに集中すれば生産性は5倍に高まると考えた時に、マーケットの1.5倍の年収を払える確信を持ったんです。そして、「僕らができたんだからみんな真似しようぜ」っていう状態まで持っていければ、業界全体の底上げができる。まずはこの部分を僕たちの力で改善していきたいですね。

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村上:素晴らしい。僕も圧倒的に給料引き上げ論者です。一方で、社会における需給バランスで、5倍に高まった生産性を何割還元するか、パラメーターが決まるべきだとも思うんです。給与のみをファクターにして仕事を選ぶことがなくなる状態っていうのが理論上はあるはずで。デザイナーを希望する人が増えて供給過多になったら当然、需給バランスで給料は下がる。逆に農業の担い手が不足するなら、そっちの給料を上げていく。それが本当の意味での労働生産性と対価が等価になっていく姿です。

対価が一番必要なところほど搾取が進んでいて、効率化が進んだところに対価が配分されるという不均衡が非常に問題。中平さんのような発想で生産性が向上した分給与を上げるという考えの経営者が増えるほど、世の中変わっていくと思うんですよね。不均衡を是正していけば、連鎖してお金と人の流れが変わる。他がそれに気付かなかったら、世界中の優秀なデザイナーはみんなガラパゴスに来てもらいましょう。

中平:確かに!フルリモートで働けますしね。

村上:そう、働く場所が自由だから。そういう動きの中でアンフェアな現状が是正されていって、結果的には労働市場の需給バランスが決まってくるんだろうなって。

中平:今は異常な偏りがあると思うんです。経営者側が利を得すぎている。多重下請けの構造上の問題とかもそう。ピュアな気持ちとして自分たちに関わってくれる人には幸せになってもらいたいから、単純に給料をあげたいという気持ちは当然あって。経営上も成立しそうだし、さらに言えば採用競争力も上がる。全部一本に繋がってるので迷いがないんです。

村上:多くの経営者に言いたいのが、デジタルを武器に出来る経営者ほど、人に興味を持ってほしいってこと。それがデジタルの力を司る人の責務。でもデジタル使いの中には残念ながらそう思っていない人もいる。人を奴隷だと考えているデジタルの社会には住みたくないですよね。DXを世の中に広めるためには、社会性とセットじゃないとダメだと思います。

中平:本当にそうですよね。

村上:あなたにしかできない、ヒトにしかできない部分も認めているんだと伝えないと成立しない。デザインの分野は確実に「ヒトがやるべき部分」が残るという信念を持つ。より多くを還元するために最大限生産性を高めて、デジタル化と仕組み化で業界内でのプレゼンスを勝ち取る。それこそが業界のエンジンになる事を意味していると思う。これが出来ればもうみんなガラパゴスファンですよ。

中平:その状態、理想ですね!

村上:お客さんも社員もガラパゴスのファンになって、どんどんデザインの価値が世の中に浸透すれば、ガラパゴスにとってもWin-Win。まさにステークホルダー経営だと思います。中平さんたちにステークホルダー経営の資質を感じたことは、投資判断する上でもとても重要なポイントでした。

後編に続く

村上さんアメリカ (1)

▲長期的な視点で世界を想う村上さん。旅先のアメリカで、広がる地平線に何を重ねているのでしょうか。

▲村上さんのnoteはこちら。本稿の議論の背景にもなっている様々な論点が展開されています。ぜひご覧ください。

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 (文責:武石綾子・髙橋勲)