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パン職人の修造86 江川と修造シリーズ stairway to glory


成形を済ませ、発酵した生地が焼きあがって行くと審査員達が厳かにテーブルに着く、

各国の選手が作るバゲット、ブリオッシュ、クロワッサンの審査が始まった。

バターの効いたブリオッシュは親方の言うところの『ぶちかましスペシャル』
生地の一本にラズベリー生地とマンゴーの生地を使ったカラフルな編み込みパンを作った。

クロワッサンはブーランジェリータカユキの那須田に教えて貰った月形のパリッとしたものを。

焼成後イメージ通りの出来栄えを見てホッとした。

次にチェリーのシロップ煮を使ったバイカラークロワッサンの生地を細長く切り半分に折って真ん中に切り込みを細かく入れていく。それを花のように巻いて先を菊の花弁のようにカットする。それとは別に、赤い生地でステンシルを施した小箱を作り花を中に入れて焼く。花弁の先が焦げないように上に途中から厚紙をのせて気をつけて焼いた。焼成後江川がキルシュワッサー使用のシロップを塗る。


次に

各選手のタルティーヌがカットされて審査員に配られ出した。

それを見た江川が焦ってきた。


自分達のチームだけタルティーヌはまだできていない!


「もうカットしましょうよ」

「まだまだ」 

「まだ?」

「まだだ」


と言いながら
修造は編んだ竹墨の生地で包んだスペルト小麦の薄型のタルティーヌに朝仕込んだ豚肉の薄切りを挟んでスタンバイした。

「もういい?」

「まだ」

とうとう次は日本チームの番が回ってきた。

「よし!素早くカットして江川」

「はい」

練習の賜物だ。顔が引き攣ったが、江川はとても薄く上手に濃い味付けの方の8種の野菜のゼリー寄せをカットしてパンと※アイスプラント、ローストポークの上に置いた。竹墨配合の薄い生地の焼き立てに燻製のチーズを四角く切って素早く並べて格子状にしたものを斜めに立てかける。ゼリーにピンと角があるうちに修造は素早くそれを前のテーブルに並べた。

 


それを係の者がカットして、ピールに乗せて審査員に順に配っていく。審査員達はピールに置いた現物の見本を見ながらカットされたパンを手に取り口に運んでから点数をつける。

 

固めに仕込んであるので溶ける心配はないが、時間が経つとゼリーの余計な水分が少しずつパンに染み込んでいくだろう。なのでぎりぎりまでカットしたくなかったのだ。


審査員達は、和風の味付けの野菜と薄切りのローストポークを丁度よく食べることができた。


上の薄皮をパリッと噛んだあとゼリーと豚肉が一緒に噛み込まれて生地に到達する。最後はパンの旨味と出汁の旨味がコラボする。


それを見た修造は密かにしたり顔をした。

 

審査員達は点数を採点表に書き出している。

江川はハラハラした。

ゼリーを使った人なんているのかしら。

 

 

さあ!


ぼやぼやしてる暇はない。

とうとう江川と修造はパンデコレを仕上げる時間に差し掛かった。

まず土台を用意して着物の生地を貼り付けていく。

生地の接地面に水飴をつけてから帯やら編笠やらを修造得意の十字相欠き継ぎでしっかりと組み合わせる。それを冷却スプレーで固めていくのだ。

そのあと飾りをつけていく。帯の模様の違いを表面が平らになる様に付けていき、本体に後輪をつける。


「あと5分」の声が上がる

最後まで諦めない。

江川は練習しすぎて随分実力がつき、修造と言葉を交わさなくても同じように動き、2人で完成させた。

江川、ありがとうな。感謝してるよ。

修造さんは今、世界最速だ。

2人とも心の中でピッタリと気持ちが合っていた。

2人で土台の周りに重石(おもし)代わりのパンを並べた。

「完成だ」

「はい」

その時2人は初めて周りの選手の作品をみた。

流石世界のレベルはとても高い。

「うわーすごーい」

「だな」


最後の1分

江川はこれまで会った全ての人に感謝の気持ちを込めながら、台の上を綺麗にしてそこら辺を片付けた。

修造も片付けに取り掛かり、作業を終了させた。


5・4・3・2・1 
とフランス語で声がする。

タイムアップだ。


審査員は次々に各選手の作ったパンを試食していた。審査員は皆パンの全体を眺めながら本体をカットしたものを食べる。視覚と味覚両方に鋭敏に厳しく審査が行われる。

その前で大木がずっと修造のパンについての説明をしてくれている。

それを見ていたら胸に込み上げるものがあり、感極まって目から水分が浮かぶ。



やる事はやった。

全力を尽くした。

江川と一緒に

 

 

おわり


※アイスプラント 表面に水滴状の細胞があり、プチプチシャキシャキした独特の食感がある。色合いが美しく、サラダに入れると映える。


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