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大学生が地域にジョインすることの可能性 @令和5年度学生とともにのばす京都プロジェクト

 こんにちは、グローカルインターン生の やす こと松本です。今回は、3月初旬に開催された「京都府令和5年度 学生とともにのばす京都プロジェクト 成果報告会」の様子をお届けします。特にこの記事では、第3部で行われた「学生とゲストによるパネルディスカッション」の議論についてレポートさせていただきます(内容は全文ではなく一部抜粋となります)。


京都府令和5年度 学生とともにのばす京都プロジェクト 成果報告会について

 京都府では、大学及び短期大学と連携し、学生の地域活動への参画を促進することで、大学等の「知」の活用や、学生の活躍による京都の未来の活力づくりを推進する「学生とともにのばす京都プロジェクト」を実施しています。
 令和5年度は、学生の活躍が見込まれる府政分野において、京都府総合計画に掲げる府政課題の解決に向けた京都府と大学等との共同事業を実施しました。また、府政課題の解決に資する取組について、より多くの学生の皆さんに参画いただくことを目的として、大学や学部を超えた学生が集まる「学生とともにのばす京都プロジェクト学生チーム」を試行的に編成しました。
 
 プロジェクトでは、大学の知や学生の力が府内のさまざまな地域の活性化や課題の解決に貢献する機会が創出されています。こうした機会の創出は、さまざまな社会課題の解決、大学での学びと社会とのつながり等の体験、自分自身のスキルの向上や学ぶ意欲の増進、大学での学びの魅力向上、更には、将来的な学生の府内定着や、府内での定住や関係人口として京都に関わり続けるようなきっかけづくりを目的としています。

 今回の成果報告会では、共同事業として採択された31プロジェクトと、学生チーム2プロジェクトによる報告を中心に、今年度の成果が報告されました。

プログラム全体の内容は以下の通りです
<プログラム>
 第1部 学生による壇上報告 4チーム
 第2部 ポスターセッション  学生による取組事例のポスター形式での報告
 第3部 パネルディスカッション 学生と社会人パネリストによる対談
 交流会

学生とゲストによるパネルディスカッション

 第3部は、第1部で登壇した学生チームの代表者と社会人により、学生自身が地域に入っていく取組みについて伝えたいと思ったこと、これからの関係人口の捉え方、学生と大学の関係性など多岐にわたる盛りだくさんの内容で議論が進みました。

登場したパネリストさんは、以下の通りです。

学生パネリスト:
大迫 未波さん (京都文教大学 こども教育学部 2年生)
星 華月さん (嵯峨美術大学 芸術学部 デザイン学科 2年生)
眞鍋 佳帆さん (大谷大学社会学部コミュニティデザイン学科 2年生)
谷 こと葉さん (京都女子大学家政学部生活造形学科2年生)

社会人パネリスト:
児玉 周氏(株式会社西浅 代表取締役社長)
木原 麻子氏(京都産業大学 現代社会学部 現代社会学科 准教授)

モデレーター:
特定非営利活動法人グローカル人材開発センター 専務理事・事務局長 中谷 真憲氏

 また、パネルディスカッションの様子はグラフィックレコーディングによって、可視化しながら進められました。(この報告会では、全体の話題の中で今どんな話が行われているか、どんなキーワードが出てきたか、など内容の理解を視覚的に促すしかけとして取り入れられています。)

パネルディスカッションの様子

大学生の「つなぐ」力ー社会人による第1部の振り返り➖

 パネルディスカッションは、社会人パネリストの木原氏と児玉氏による第1部の振り返りからスタートしました。木原氏からは、各プロジェクトに対する感想とこれからの期待を共有していただき、児玉氏からは登壇プロジェクトと木原氏の話を受け、学生プロジェクトへの思いを語っていただきました。

木原氏:
 (京都文教大学チーム)
 活動が3年目ということで地域との関わり合いが増えており、学生が久御山町の住民と行政の仲立ちとしての役割を果たしていると感じました。また、先輩の代の活動を引き継ぎながら、コロナ禍を経て自分たちがやりたいことに挑戦されていることが伝わりました。
 
 (嵯峨美術大学チーム)
 丹念にまちを歩き、非常に多くの地元の商店の人と関わる中で、たくさんお話を伺って、それを自分たちの得意なこと(イラスト)に置き換えていくプロセスというものが、学生たちを大きく変えるキーポイントになったのではないかと思います。また、オーバーツーリズムの分散化という課題を乗り越えるために、今後も新しい地域の魅力を発掘してくれることに期待しています。

(大谷大学チーム)
 買い物弱者には、子どもたちや若年層も含まれるということに着目し、地域のお店を利用して、子どもたちの居場所づくりを考えるのは非常に大きいと感じました。子どもたちの居場所について考える際に、最近まで同じく子どもであった大学生の視点というのは大きく生かされるのではないかと思います。

(学生チーム)
 異なる大学の学生とコラボしたのが、良さでもあり苦労した点でもあったのではないでしょうか。大学を横断することで生まれたプロジェクトであるからこそ、それぞれの専門性を活かせたプロジェクトだと思います。
 
(第1部の総括として)4チームの発表を聞く中で、大学生が持つ力というのは「つなぐ」力なのではないかと思います。地域とつながる、企業とつながる、子どもたちとつながる。今回のそれぞれの取り組みは、様々な地域のセクターと「つなぐ力」が発揮された良い機会だったのではないでしょうか。

児玉氏
 私自身(会社の社長として)、最初は、学生の採用のきっかけにできたらいいなという思いで産学官連携を始めました。しかし、現在は、こうした活動の意義に気づき、積極的に取り組んでいます。木原先生から「つなぐ力」のお話がありましたが、例えば、KminKの活動であれば、これまでは行政が地域と直接関わっていましたが、そこに学生を挟む必要が生まれてきました。学生の皆さんには、なぜ大学生がこういうことをするのか、学生として何が求められているかを自分たちなりに解釈した上で活動されると、結果や成果に深みが生まれるのではないかと思います。
 また、今回発表された取り組みは、複数年度にまたいだ取り組みが多く、前の代からの継続の意識がアウトプットの質につながっているのではないかと思います。
 一方、PBL(Project Based Learning)や産学連携の中には、産業界に入る前の新入社員研修的に位置付け、本来は新入社員教育でするべきことを、大学に委ねてしまっている取り組みがあるのも事実です。なので、学生だからこそやるべきことを考えると、これからの産学連携やPBLの取り組みはより良くなっていくと思います。

 社会人パネリスト2名からは双方ともに、学生の「つなぐ」力に魅力を感じ、特に児玉氏の言葉からは「学生ならではの」「学生だからこそ」なせる役割を学生が地域に入る際は考えてほしいという熱い思いが伝わってきました。

学生がプロジェクトを踏まえて伝えたいこと

 次に、モデレーターの中谷から学生に対して「やってみて一番伝えたいことは?」という質問が上がりました。
 
大迫さん:
 初めて主催したお祭りで、準備の段階から、KUMIDANや役場の人、久御山町をよくしたいという志を持った方々など、いろいろな人たちに助けていただきました。その上で、地域の人や大人と関わることを恐れてはいけないことを伝えたいです。私自身も、「大人=スーツを着てて話しかけづらい」という印象が元々はありましたが、勇気を出してお願いしてみたり、聞いてみたり、助けてほしいと伝えることが大切だと思います。

星さん:
 お店の人によっては、冷たくあしらわれてしまうこともありましたが、温かく対応してくださる方もいて、クリエイターとして地域と関わり続ける上で大切な経験ができました。何をするにしても人との関わりは切っても切り離せない大切なものだと思います。
 
眞鍋さん:
 最初は、地域の人に話しかけるのは勇気が必要でしたが、フィールドワークにいく前に学んだ、地域の方に対しての話しかけ方を実践しました。活動全体を通して、伝え方一つ一つが大事であることを学びました。

谷さん:
 一番伝えたいことは「視点を固定化しない」ことです。プロジェクトの中でホームゲーム運営にも携わらせていただき、ボランティアの方とゴミ拾いや試合で使う旗の回収に関わりました。その中で、若者ボランティアの数が少ないことに気付き、ボランティアとアルバイトスタッフの違いは何かなどについてチーム内で様々な視点で議論しました。様々な視点を固定化しないことで、新しい発見や次の問題解決につながるきっかけを得ることができました。

 それぞれの学生からプロジェクトを踏まえた素敵な感想を聞くことができました。中でも「地域の人との関係を続けること」について、はじめの3名の学生から共通して場に上がったことが興味深く感じられました。また、もう1名の学生も地域の人と話す中で生まれた気づきを自分たちの視点で捉えている。この点は、先ほど児玉氏が求める「学生だからこそ」するべき役割に近いのではないでしょうか。

関係させる人口ーこれからの関係人口の再解釈ー

 学生からのプロジェクトの振り返りを受けて、中谷から「関係人口」についての話題が提示されました。関係人口は、地域活性化の文脈におけるホットな話題の一つです。中谷は、それを「関係させる人口(地域に人を関係させていく力を持つ人材の人口)」と再解釈し、児玉氏に「いろんな人を巻き込んで地域に関係させる人口」について問いを投げました。

児玉氏:
 この間も、魚捌き教室を学生が主催で、自社(株式会社西浅)がサポートの元で行いました。これを西浅が主催すると「儲け」を目的にしていると捉えられてしまう。また、会社としてもやるならば利益を出さないといけないという短期的な視点になってしまう。そこに、大学生という存在が入ってくれることで、サービス提供事業者側と消費者との間が違う関係で結ばれるきっかけになりました。

大学生が地域に入っていく意義

 次に、中谷は、第2部のポスター発表も踏まえて今回の成果報告会を振り返り、学生の地域への入り方の多様さについて触れ、改めて「大学生が地域に入っていく意義」について木原氏と児玉氏に問いかけました。
 
木原氏:
 私は、大学生のキャリア開発や成長を大事な目的としてプロジェクト型の教育を行っており、大学生はお金儲けの道具ではないという視点や人手不足を補うための人材ではないという視点がすごく大事だと思っています。最初は授業の一環で地域に入っていくが、地域の方のお話を聞くこと重ねる中で、だんだんと大学生にとって地域の悩みが自分ごと化していくことがあり、そういうことを引き出していくことが大学の役割であると感じます。
 
児玉氏:
 産学官連携を一企業でやろうとすると経費が増えてしまい、負担が大きいです。しかし、長期的な目線で見ると、このような取り組みが広い意味で社会に還元してくれるはずです。
 例えば、私は消費者に成熟した消費行動を実践してほしいと思うことがあり、それを私たちの世代に語ってもなかなか理解してくれないのですが、大学生に話すと非常によく理解して考えに納得してくれる方が多いです。このような人たち(学生)が、卒業後もし京都に住まなかったとしても、各地域でより良い消費行動をしてくれると、回り回っていつか何か還ってくるのではないかという信念で取り組んでいます。

大学は学生を子ども扱いしすぎ??ちゃんとした大人として扱ってほしい??学生の本音

 大学生が地域に入り、重要なセクターとして役割を果たしていることを共有した上で、再び中谷から「大学生と大学・大学の先生との関係」についての問いかけがありました。大学にとって、大学生はお客様であり顧客であるという意識は大事である一方で、大学は学生を少し子ども扱いしすぎなのではないでしょうか?
 これに対して、4名の学生がプロジェクトを振り返りながら、質問に答えました。
 
谷さん:
 私は大人として扱ってほしい時もあれば、先生を頼りたい気持ちもあるというのが本心です。後ろに先生がいてくれることでチャレンジできることもあると思います。
 
眞鍋さん:
 先生に頼れる安心感が大きい。また、大学の先生に教えてもらったことを今度は大人として後輩に受け継いでいきたいです。
 
星さん:
 指導教員の先生に、突発的に「こうしてみて!」と言われることが多かったので、お客様扱い・子ども扱いと感じたことはないですが、そういう環境があったからこそ、自分たちで何かを成し遂げる力を身につけられましたし、先生のおかげで大人として成長することができたと感じます。
 
大迫さん:
 子ども扱いか大人扱いかという部分は、大学生の行動次第だと感じます。大学生が大人として扱われる態度でなければ、子ども扱いされても仕方ないのではないか。私はプロジェクトを通して子ども扱いをされていると感じることはありませんが、育てていただいているなと感じています。
 
 4名の話を聞く中で、プロジェクトを通して「子ども扱い・お客様扱い」をされていると言う学生はいませんでした。一方、先生が活動のサポートもしくは良きパートナーとしてプロジェクトに関わり、それが、大学生が自律した大人に成長するきっかけになっているのだと感じられました。

 そして、次に中谷から木原氏と児玉氏に対して、学生の話を受け「Teaching(ティーチング)」型の教育と「Couching(コーチング)」型の教育について質問がありました。

Teaching(ティーチング):知識や情報を伝えて正解を教えること
Couching(コーチング):質問など問いかけることによって学びを得てもらうこと

木原氏:
 大人扱い、子ども扱いという区分とは別に、人扱いというのがあるのかなと思っています。10歳の子どもであれ20歳の学生であれ一人の人間として関われるかどうかが重要。それはある種のコーチングかもしれません。その人の中にある答えをどう引き出していくかという関わり方が非常に大事であると思っています。
 
児玉氏:
 学生と関わる中で、コーチングに戻る必要があると気づくことがあります。企業経営をしていると、短期的に効果が出やすいティーチングの方向にいきがちになってしまいます。(企業側は)学生に対して強制力を持たず、何だったらいつでもやめてしまえる産学連携の環境の中で、再度コーチングの重要性に気づかされるということがありますね。
 
中谷:
 社会が持っている、たくさんの経験や知見など・・・広く言うと「コーチング的なもの」・・・に大学が関わることで、それが連携に育ち、そこで学生が伸びていくという世界が生まれてくるといいなと思いますが、そのためにはやはり地域、企業、大学の方々の協力は必要になります。今日の報告でも、地域や企業の方も、本当に沢山のご協力をしていただいたこと、ともに汗をかいていただいたことがよくわかりました。
 
 児玉氏、木原氏からは、特にこの数年で、企業の方からも、行政の方からも、目先の利益や仕事の範疇にとらわれず越境してやっていこうとする熱意や、学生とか若い人たちをじっくり育てていくことへの意欲の高まりを感じているという共通のご意見と、また、この社会全体で若い人を育てていく機運の高まりは「チャンス」であり、連携のマッチングや取組みの可視化がされることでより取組の機運が広がるのではないかというメッセージをいただきました。

学生が地域に入ることへの「勇気」をどう受け止めるか

 最後に「学生の皆さんの頑張りや『勇気』を、大人の側が、企業・行政・大学側が受け止めなければならない。」という言葉で中谷がトークセッションを締めくくりました。
 
中谷:
 プロジェクトを実施して、我々大人は学生から「勇気」を受け取っている。学生が、何もないまま飛び込むことはとてもチャレンジングなこと。それを振り返って楽しめているのは、勇気があるからで、それは若い人の特権その勇気を行政や企業、大学が受け止めなければなりません。受け止める側は、「越境の勇気」が必要です。今の時代、先に進めていくには、専門性を深めたり横断型にしたりして自分の領域を越境していく、大人側がそのために勇気を出すことが必要です。

グラフィックレコーディングによる対話の可視化

 参加者の方が振り返りをするとき、議論・気づきを持ち帰り他の人に共有するものとして活用してもらいます。

結びに代えて

 どの取り組み・プロジェクトも地域が持つ「魅力」をいかに多くの人に知ってもらい、「価値」があるものであるか伝えるために、学生の立場を踏まえ、様々な手法で取り組まれていることが伝わりました。それは、まさに第3部の中で話された「関係させる」に当てはまるなと思います。
 また、児玉氏が言うように、地域に学生が入る機会を一企業だけで取り組むのは、金銭的にも人力的にもとても厳しい。その上で、より多くの企業が学生を受け入れる機会を作り、またそのために行政やその他の企業による資金援助によって、活動の基盤がより強固になっていけばなと感じます。
 
一人の学生としての視点から(byやす)
 全33のプロジェクトを拝見し、各プロジェクトが対象地域や企業様が持つ課題解決や魅力向上に寄与しているなと感じつつ、それと同時に地域や企業様が「個性的で魅力的に」あり続けることにもつながっているなと思いました。
 私が学んでいる都市デザインには、そのまちならではの魅力を言語化・体現化していくまちづくり的な役割があります。しかし、近年のまちづくりは、おしゃれなカフェを立ち並べ、公園をきれいに整備し、土産屋と観光地を作るものが大変多いのが現実です。
 このようなまちの同質化が目立つ中で、これからのまちづくりには、対象のまちや地域が持つ歴史や文化を丁寧にリサーチし、個性的で魅力的にあり続けるために必要な手法を模索することが求められているのではないでしょうか。そして、今回発表していたプロジェクトのように、そのまちだからこその「can / must / want(できること、やらなければならないこと、やりたいこと)」を熟考し、各地域が魅力的で個性的であり続けられるような活動が増えてほしいなと思いました!!
 
 壇上で発表した学生の皆さん、ポスター発表を行った学生の皆さん、本当にお疲れ様でした。引き続き皆さんの活躍を楽しみに応援しています。

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