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【広報担当者向け】なぜ社内向けの広報誌はほとんど読まれないのかの理由を読者の視点で考えてみた。

皆さんの社内広報誌は社員の方に読まれていますか?

いわゆる社内報というものです。この昔からある広報誌、オワコンっぽい匂いがする社内報ですが近年インナーブランディングという観点で注目を集めています。

僕はインナーブランディングのセミナーやオフ会、イベントなど年間300社以上の社内広報担当者の方とお会いします。

その中で社内報担当者の多くが言われるのが「ネタ・企画のマンネリ」という言葉です。「ネタ・企画のマンネリ」の裏側にあるホントの本音は「社内報が読まれているかどうか不安」ということです。

自らが多くの時間をかけて作成した社内報が、読者である社員の方々に読まれているかどうかは非常に気になるところです。今回はインナーブランディングという観点で再注目されている社内報を、読まれる媒体にするための必要不可欠な方法をお伝えします。

なぜ? 社内報には「ターゲット読者」の設定がないのか

残念ながら「社内報が読まれていない」という声は僕の耳に多く届きます。社内報を一生懸命作成されている担当者の心境を察するに、もし社員の方に読まれていないとすればとても悲しい事実ですよね。

では、どうしたら読まれる社内報にできるのか!という問いになるのですが、ここでは一旦立ち止まり、なぜ読まれていないかを冷静に少し考えてみましょう。

多くの企業の社内報は、大前提として全ての社員に向けに作成されています。この「社内報」という媒体の一番むずかしいところは、読者層が広いということです。

20歳過ぎの新入社員から、60歳以上の再雇用された社員までと年齢軸だけでも40歳以上の幅があります。個々の年齢には、一般的にキャリアの幅や、役職の有無などに相関がありますので、年齢(年代)だけでも読者が求めている「欲しい」情報に違いがあるのも当然です。

更にそこに事業部が違う、職種が違う、または勤務エリアが違うまで様々な違いあります。

そうなんです。同じ会社といっても違いだらけなんです。
違いが多いからこそ、「社内報」が求められる一番の理由でもあるのですが・・・。ジレンマですね(苦笑)

商業雑誌にみる「ターゲット読者」の設定とは

一般的な商業雑誌ではこのような幅広い読者層を設定することはありません。例えば、ファッション誌であれば「年齢×スタイル(趣味嗜好)」によってセグメントしています。
(実際に出版社が明言しているわけではありません。個人の主観です。)

◆SEVENTEEN(・ターゲット:10代中心|ティーン カジュアル)
◆Popteen(ターゲット:10代中心|ティーン ガーリー)
◆non-no(ターゲット:10代後半~20代|カジュアル ガーリー)
◆Spring(ターゲット:20代|グッドガール カジュアル)
◆CanCam(ターゲット:20代|OL(通勤服)フェミニン)
◆MORE(ターゲット:20代後半~30代|OL(通勤服)フェミニン)
◆VERY(ターゲット:30代|コンサバ カジュアル)
◆Precious(ターゲット:30代後半~40代|コンサバ ラグジュアリー)

ほんの一部を取り出しただけでもこれだけの違いがあります。
世の中の商業雑誌がいかに細かくターゲット読者を設定しているかが分かります。

少し古いですがフリーペーパーで有名な「R25」(*現在、紙は廃刊となり新R25をWEBで展開)のターゲットは、その名の通り25歳~34歳までの男性ビジネスマンです。内容は政治ネタや社会などの時事ネタの解説、スポーツやイベント情報、著名人のR25時代のインタビュー記事などで構成されていました。いわゆる総合週刊誌というジャンルなのですが、このジャンルのこれまでの平均読者層よりも若い年齢層をターゲットにしているのが特徴です。

また、編集方針にも工夫がされていて「この世代の男性は長い文章は読めない」を信念に(笑)、全ての記事が「男性視点」でまとめられています。

■事例1:R25
ターゲット:25歳~34歳までの男性ビジネスマン
What(何を):政治ネタから社会、時事ネタまでの総合情報誌
How(どうやって):男性視点の編集。文章は極力短く。

フリーペーパーは駅の構内で配付されることが多い特性上、通勤時間の電車内でちょうど読みきれる程度の1冊のボリュームにコントロールされ、各記事の文章量についても一駅分ほどの時間で読み切れるボリュームに編集されています。

R25ではターゲット読者である25歳~34歳の男性ビジネスマンばかりでなく、更に上の世代の男性や、意外にも女性にまで親しまれる媒体へと成長していきました。(後に女性版L25が創刊されています。)ターゲット読者を絞り、それにあったWHAT(何を)とHOW(どうやって)を上手く組み合わせた結果です。

何が言いたいかと言うと「ターゲットを絞り込むことがダイジ」ですという、なんの変哲もない普通のことです。どこかに尖って(決して見栄えでとかでなく)いるからこそ、ターゲット読者以外の興味もまた惹けるのだと思います。

平均的な社員像という幻想

明確なターゲット読者を設定していない場合によく言わるのが「平均的な社員像」というものです。日本人は特に平均という言葉が好きです。平均という言葉で安心し思考停止してしまう傾向があります。

これを「平均値への盲信」といいます。

ほとんどの場合で平均値はその集合を代表しません。しかし、多くの社内広報担当者は平均値が「代表値(平均的な社員像)」であると勘違いしてしまいます。これは統計の初歩ですが、陥りやすい罠だったりします。

ここで代表的な「平均の罠」を4つご紹介します。

「へ型」「L型」「M型」「セ型(セグメント平均)」の4つです。

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まず、平均値がその対象の代表値である場合には、ベル(釣鐘)型の分布をしていることが大前提となります。これを正規分布といい、薄い釣鐘状のグレーの線がそれを示しています。

●「へ型」の罠

「へ型」の罠は一応ベル状に分布するので間違いやすいが、余りにも分散的でバラバラとしていて正規分布に対象が集中していない状況といえます。

●「L型」の罠

こちらはそもそも正規分布になっていません。高い値・低い値に対象が偏っていて、一般にパレートの法則や20対80の法則というものに近い状況であるといえます。

●「M型」の罠

「M型」は対象の2極化からくる罠です。上位層と下位層に分かれ、中間層がほとんどいなくなる状態で平均の意味が何もないことがわかると思います。

●「セ型」の罠

セグメント(小集団)毎の結果と、その集合(全体)の結果が、必ずしも直観に合わないことは多いです。全ての商品の単価を上げたにもかかわらず、全体の平均単価が下がるなんてことはよくある話しです。

参考:観想力

4つの「平均の罠」を紹介しました。4つの事象それぞれに平均値という値は存在します。しかし、平均値がその集合の代表値を表さないことは明白です。

何が言いたいかというと、この多様化された社会では、既に「平均的な社員」などというものは存在しないという事実です。それは幻想なのです。

「ターゲット読者」を設定する利点

大前提として、社内報は全ての従業員向けになっているので、敢えてターゲット読者を選定していないケースがほとんどです。

しかし、そのままでは面白い社内報を作成することはできません。

そこで僕たちがお奨めしている処方箋は、読者を3層に分ける方法です。この方法では、すべての社員が読者であることは変わりありません。

決して特定のセグメントを切り捨てることはしませんし、俗にいうペルソナ像まで細かくターゲット設定することもありません。

全ての読者から戦略ターゲット読者層を選び、更にそこからコアターゲット読者層を抽出するだけです。

(参考)・リーダーシップとフォロワーシップ

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・リーダーシップとフォロワーシップ
それでも中々ターゲット読者を設定できない方もいらっしゃいます。そういう場合は「会社を動かしている社員はどういう方々ですか?」と聞くことにしています。この図は組織内にいるフォロワーをセグメントしたものです。大きな数字を足すと100%になります。組織には残念ですが、前向きな人と後ろ向きな人がいるものです。当然、後ろ向きな人は会社からのメッセージを受け取る余裕はないものです。担当者はある意味で割り切って、会社のアクションにポジティブな層をターゲット読者として明確に設定することをおすすめしています。会社を動かすのは常にポジティブなパワーなのです。


話しを戻します。

例えば、社内報の目的が「次世代リーダーの育成と推進」だとします。

この場合の戦略ターゲット読者層は、次世代リーダー予備群なので仮に「30代半ばから40代半ばまでミドル」ということにします。
そして、この中から特に「各拠点の新任リーダー、もしくはサブリーダー」をコア読者ターゲット層と選定するという順番です。

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目的とターゲット読者が定まれば次に必要なことは戦略と戦術になります。
難しく考えずに、戦略はWHAT(何を)であり、戦術はHOW(どうやって)と覚えてください。

例えば・・・。

・戦略(何を): 事業戦略の理解とロールモデルの共有
・戦術(どうやって): 「リーダー達のターニングポイント」や「ここだけ抑えて!事業戦略の3つのポイント」

のように戦略と戦術を「目的」と「読者」に合わせて「何を」「どうやって」の部分を設定していくことになります。

■事例2
ターゲット:30歳前後の次世代リーダー
What(何を):事業戦略の理解とロールモデルの共有
How(どうやって):「リーダー達のターニングポイント」や「ここだけ抑えて!事業戦略の3つのポイント」 など

設定の仕方について今回は詳しく説明できませんが、「目的」から考えていくとスムーズに進むかと思います。

このような全体設計があることで、冊子としての方向付け(社内報の魅力)が明確になり、掲載するべき記事や企画、編集の味付けなどに尖がりが出来てきます。何より社内報担当者が無意味に迷わなくなります。

多くの社内報担当者が常にネタ探しや、企画のマンネリに悩まれている真因は上記のような全体設計がなされていないことにあると断言できます。

WHO(戦略ターゲット読者)や、WHAT(戦略)が設計されていないために余りに多くの選択肢からHOW(企画)を考える必要があり、結果として誰に向けた記事か分かりづらい、企画として丸く浅い、前例を踏襲したかのようなページが出来上がってしまいます。

特に紙の社内報では誌面の面積が限定されています。
僕たちの調べでは、平均的な社内報は発行頻度が年4回でページ数は16P位です。この事実からも、あれもこれもと全てを載せることはできないのです。

社内報に何を掲載するか?という問いは、実務レベルでは最も戦略的で効果性の高い知的ワークです。何を掲載するか?という問いは、掲載しないものを決めることと同義です。

考える時に最も重要なことは、予め掲載しないものが決まっていることです。例えば、人事関連はイントラに集約するとか、タイムリーな時事ネタはWEB版に掲載し紙の社内報には載せない・・・など、予め掲載しないものが決定していると社内報担当者の考える幅は狭くなり頭の使い方が効率的になります。

このような環境を社内的に整備した上で、掲載すべきものの中から戦略的に選択した広報資源(企画記事)を限られた誌面に掲載していくことをお奨めします。

その為にも「ターゲット読者」を設定することが必要なのです。

「ターゲット」が明確だから編集で味付けできる

編集というワークには正しい答えがあるわけではありません。
当然編集にもセオリー(定石)はあるのでそこから大きく外れない必要はあります。

ターゲット読者が設定されていれば、編集するにしてもこの企画にどれだけの誌面を割くか、どこまで深く掘り下げるべきかを判断しやすくなります。

例えば、

掲載したい情報:昨年度の業績の報告

もしターゲット読者が設定されていない場合、皆さんなら上記の決算(業績)報告の企画ページをどれ位の知識レベルに合わせて編集しますか?

「う~ん・・・。真ん中位ですかね。。。。」

これは実際に僕がお客様から言われたことです。
真ん中とは?。。。

世代の真ん中? 平均年齢?
知識レベルの真ん中? 中級レベル?

これでは編集自体できないので、ターゲット読者の設定からやり直す必要があります。この時は以下のように設定し直しました。

■事例3
ターゲット:若手社員(30代まで)とそのご家族
What(何を):業績と将来の展望
How(どうやって):業績はグラフ化し直観的に観てわかる。(⇒読むから観るへ)、将来の展望は3つのキーワードに絞って「これだけ押さえて!」で訴求。
(例:頭文字をとって「トリプルA」とか、「DDT」とかキャッチ―な名称に変換してしまうのも有効です)

この様にターゲット読者が「30代までの若手社員とそのご家族」の社内報であれば、巻頭特集が年に1度の決算(業績)報告の時に、難解な会計用語も彼らにより分かりやすく伝える編集の工夫が必要になります。デザインレイアウトや色使いなどもターゲット読者に合わせたものが求められます。

逆にターゲット読者が設定されていなければ、編集でヘソ(中心)を把握しながら制作を進めることができます。

ターゲット読者を設定することで解決する課題は想像以上に多いものです。
ターゲット読者を設定したことでブレークスルーする社内報をこれまで沢山目にしてきました。

是非実践していただけたら幸いです。

勇気をもってターゲット読者を絞りこむ

みなさんの社内報を「読まれる」ものにするには、戦略的ターゲット読者の設定が必要不可欠です。僕の経験では戦略的ターゲット読者の多少のズレを気にする必要はありません。やりながらの微修正が可能だからです。

それよりも戦略的ターゲット読者が設定されていないデメリットの方が遥かに大きいと断言できます。

矛盾するようですが「ターゲット読者」があるからこそ、その周辺にいる多くの読者を惹きつけることにもつながります。


もしご自身の社内報に迷いがでたら以下の質問に答えてみてください。

「あなたの作成した社内報。誰に一番読んで欲しいですか?」


まとめ

読まれる社内報にするために、必ずやっておきたいポイントは3つ。

1.ターゲット読者は必ず設定する
2.ターゲット読者の嗜好に合った味付け(編集)をする
3.迷ったら「誰に読んで欲しいか?」に戻る

皆さんの会社の社内報が無くてはならないコミュニケーションツールになりますように。



こんにちは。最後までお読み頂きましてありがとうございます。このnoteは僕のつたない経営や、インナーブランディングを行う中でのつまづきや失敗からの学びです。少しでも何か皆様のお役に立てたら嬉しいです。サポートはより良い会社づくりのための社員に配るお菓子代に使わせていただきます!