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基山瑣末の短編小説

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短編小説をまとめたよ。
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2023年5月の記事一覧

【短編小説】龍の影に酔う

【短編小説】龍の影に酔う

「起きなって」
 目を覚ますと、サエが顔を覗き込んでいた。幸汰は目を擦りながら上体を起こした。
「あと1時間で店開けるんだから急ぎなよ」
 サエはそう言って部屋を出た。タッタッ……と階段を下りる足音がよく響いた。サエを見送り、幸汰は枕元へ目を遣った。乱雑に破かれた封筒から便箋が覗いていた。
 幸汰は昨日会った兄の香輔を思い出した。唯一連絡先を知っている肉親であった。実家を出てからロクなやり取りもな

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【短編小説】なんかの華、柑橘の香り

【短編小説】なんかの華、柑橘の香り

 私は芸術が嫌いである。
 机上の林檎を、これは知恵の実で、しかもそれが腐っているということは我々の知性の低下を暗に皮肉っている、とか言う。それに対し、林檎が知恵の実だというのは俗説で、旧約聖書にそんな記述はない、と口を挟む。林檎が林檎であることそのものを超えられはしないというのに。
 何かが何かの象徴であるとか隠喩であるとか暗示であるとか、そういったものは全て、空へ浮かぶ雲が何の形に見えるかを議

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【短編小説】黒狼の話

【短編小説】黒狼の話

 全てへ納得する最善の方法は、今もまだ白昼夢か何かの中であると思い込むことである。
 もぬけの殻になった部屋を見ても、私は驚かなかった。予想していたことがとうとう起きたのだ、それだけである。その内李緒は出て行くだろうなと分かっていた。端から噛み合っていないことなど明白であった。出会いからして恋愛とは呼べない代物であった。バーで飲んでいた所へ、恋人と喧嘩した李緒が半ばヤケクソ、酩酊も甚だしい状態で声

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【短編小説】泥濘に落ちる

【短編小説】泥濘に落ちる

 目覚めるととうに昼を過ぎていた。そういえば私は弥奈のアラームで共に起きていたのであったと気付いた。
 カーテンを開けると、強い日差しが目に染みた。顔をしかめて狭まった視界に、飛び上がっていく鳥が霞んで見えた。
 軽やかに羽ばたきながら空を泳ぐ彼等は楽そうに見えた。増えぬ金、売れぬ本、反比例して堆く積み上がる駄文、恋愛、友人への劣等感、自責、自己嫌悪、その他諸々のシガラミ……私を縛り苛む全てをかな

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