果物採集

人は誰も孤独では無い ただ寂しいだけなのだ

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最近の記事

映画と歩こう『リチャード・ジュエル』

 2人死亡、負傷111人。  過激派による釘爆弾は五輪開催の最中、酒とバンド音楽で群衆の賑わうアトランタの公園で爆発した。96年7月27日、真夜中のこと。  この際、爆発の直前にベンチ下へ不審なバッグを発見して、即座に避難を促したのが現場の民間警備員であるリチャード。現場には警察官もいたけれど、最初は彼の言葉を受け流していた。何度もリチャードに促されて応援を呼び、そこに爆発物があることを確認するまでに時間を浪費。  あとでわかるが、これより何分間も前に緊急通報に犯人からの爆破

    • 連続怪獣小説『大怪獣アイラ』#6

       うさぎは鳥と同じように一羽二羽と数えて、  てふてふは一頭二頭と数えるんだと、お寺の和尚さんが教えてくれた。  兎は鳥みたいに数えるけれど、あの空にひらり舞う蝶は、たくましく土を駆ける馬と同じく数えて、一頭。  海の香る、鹿児島県・姶良(あいら)市。  生まれも育ちも鹿児島の両親は、なんと最初の娘に出身地の名前を付けた。だから「あいら」として姶良で暮らしている。  学校が終わると、あたしはいつも空を眺める。  風が流れている。  どこにいようと、何をしていようと、同じ空、

      • 連続怪獣小説『大怪獣アイラ』#5

         旧姓は乳井。  日本にほんの数世帯しか居ない珍しい姓で、中学生の頃のあだなは「みるくちゃん」。クラスのみんな、どころか担任の先生まで私を「みるくちゃん」と呼んでいて、いつも笑顔で応えていたし、そんなにいやでもなかったけれど、あの放課後の校庭で、ひとり雨に濡れてサッカーボールを蹴っていたら、唐突に彼が「歌織さん?」と声を掛けてきて、それから少しだけパス回しを繋げた。  好きだった田中くんに告白してフラレて1時間24分が経過していた状態で、だから津島くんが話しかけてくれたことが

        • 連続怪獣小説『大怪獣アイラ』#4

           中央線・西八王子駅から歩いて数分のところに、僕の通う富士森第九中学校は在る。高尾山は確かに近いけれど特に田舎という感じもなく、わりと整備された住宅街であり、秋には幹線道路沿いの銀杏並木が美しく風に散る。  地元の人間しか知らない近道をすれば、少し歩くだけで浅川に辿り着く。春にはソメイヨシノがひらりひらりと舞う、美しい河川敷。  浅川を延々と歩いていくと日野市のあたりで多摩川と合流する。そこの近くに、馬を飼っている喫茶店がある。あまり知られていないけれど、紅茶を飲んだあとに乗

        映画と歩こう『リチャード・ジュエル』

          連続怪獣小説『大怪獣アイラ』#3

           三谷脚本の『古畑任三郎』、もっと古く言えばピーター・フォークの『刑事コロンボ』のように、殺人事件の犯人を冒頭で誰かわかるように描き、それについて刑事が追い詰めていくという、それまでのサスペンスの謎解きのシステムを逆に利用したエンタテイメント的な描写法がある。  けれどこれについてはさらに遡ればドストエフスキーがすでに『罪と罰』で成功させていたことでもあった。  というわけでここでネタバレを。  最初はミトコンドリア、次にミジンコが出てきたこの連続怪獣小説ですが、『大怪獣アイ

          連続怪獣小説『大怪獣アイラ』#3

          連続怪獣小説『大怪獣アイラ』#2

           エイトセントラル女子高校、3年B組の同級生である加藤シホさんが、机や椅子でバリケードを築いて放送室を占拠した。  加藤シホさんは制服を着ない。みんながブレザーを着ている中で、ひとりだけ体育のジャージで登校している。加藤シホさんは学業優秀、であるけれど、誰からも評判が悪い。いつも誰かを睨みつけている。  公安にマークされているカルト宗教に属している彼女は終末思想の持ち主であり、だから桜島の巨大ミトコンドリアについても独自の解釈を持っていた。  とはいえくだんのミトコンドリアは

          連続怪獣小説『大怪獣アイラ』#2

          連続怪獣小説『大怪獣アイラ』#1

           朝、食卓で豚骨ラーメンをひとくち啜って母さんが、 「あ、この袋麺ば作っとるんは博多もんやなかね」と幽かに叫ぶように言ったのだけれど、なぜ生まれも育ちも名古屋の母がそんな方言で謎の発言をしたのか気になっていたせいで、テレビに映る興味深いニュースから少し気を逸らされた。  富士森第九中学に通う弟はさっきからずぅっと納豆をかき混ぜ続けている。もう2分間くらい、箸を高速で動かしている。右と左、同じ回数だけ切り替えながら混ぜると美味しくなるのだという。知るか。  父さんはもう出社して

          連続怪獣小説『大怪獣アイラ』#1

          to Marie on fifth avenue

           どん兵衛事件から数カ月、スープがこぼれて起動しなくなったPCを目前にしてレクイエムのように『壊れかけのラジオ』なんかを口ずさみながら過ごしていたのだけれど、やっぱりキーボードを打って文章を書きたくなってしまい、新しい端末を購入しました。なので、さて、ダシの利いてないキーボードで初投稿です。  とはいえ、20代の頃ほどには書きたいこともありません。「世の中に何か言いたい」みたいな情熱がもう、まるで失くなってしまった。こないだ、とうとう、こどものお客さんに「おじさん またねー」

          to Marie on fifth avenue

          okinawa'n route R6

          離島である最北端の伊平屋から最南端の波照間を含めると、沖縄県は縦横にとても広い。本島面積自体の数倍の海域を含んで、米国やアジア諸国との関係はもとより、国家保安に必要な領土の意味合いでも日本に於いて重要な価値を保ち続けている。 ま、そんなことはいいとして、さっきカミキリムシを拾いました。 暖かい季節になると、マンションの駐車場の地面などにいきなりオニヤンマが停まっていたりして、車に轢かれたら可哀想なので近くの公園まで手に乗せて運んだりします。 今朝はカミキリムシ。指を差

          okinawa'n route R6

          dear Rachel

          I tried to imitate her writing style. 「私は実例でありたい」 世界でいちばん かっこいいクリスチャンの レイチェルの命日がまた今年もやってきました もう25年にもなるけれど 決して忘れません

          日常的イデオロギー

          この島で生きている今日という感覚と この島で生きていきたいという思想的認識は 実際には寄り添えていないという決定的矛盾 返還後に於ける沖縄の最大の課題は まだ消えていない

          日常的イデオロギー

          かつて在ったひとつ

          たくさんの人達が離れてしまった たくさんの人達から離れてしまった 失い続けている 求め続けている かつて在ったひとつは宇宙に飛んでいってしまった けれど、今も在るひとつ ここに在るひとつ 今朝、散歩してたら不思議なブランコを見つけたので 記念に詩をひとつ

          かつて在ったひとつ

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          らくがき

          まるちゃん、またね。

           キーボードにどん兵衛の汁をこぼしてしまったノートPCは、動作不良はあったけれど数ヶ月間、わりと頑張っていた。でも、ついに沈黙してしまい、しばらく趣味の記事を書く気を失くしていた。文章を創るのはもちろん好きではあるけれど、タイピングに慣れてしまうとiPhoneで打ち込むのも面倒。考えてみれば、そもそも誰に何を伝えたいのだろう? もちろん、君に読んで欲しいからだけれど、でもどうして、読んで欲しいのだろう?  このごろはお仕事の色々な関係で、たくさんの子ども達と接している。子ど

          まるちゃん、またね。

          生きていたい

          猫の死体が車道に捨てられていた。 それ以上に轢かれるのも可哀想なので、その子を腕に抱いて歩道に移しながら、 いったい何度、 これから私が生きていくうちであと何度、死と直面するのだろうと、 そんなことを考えた。 愛するあなたに頼みたいこと なによりひとつ願いたいこと 生きていたいと求めていてくれ 愛するあなたが傷ついたこと なにより誰より叫んでいたのに それを救ってあげられなかった けれど、それでも 生きていたいと求めていてくれ 誰かがきっと気づいてくれる 生きていたいと

          生きていたい

          新しい宗教を創ろう #10

           今の職場に就いてちょうど1年になる。沖縄に越してきてから、たくさんの生き物を見てきた。路上を駆けるのはシリケンイモリ、オキナワキノボリトカゲ、空を橙に切り裂くアカショウビン、イネの多い土地では巨大なイナゴが飛翔していて、池には交尾しながら風に泳ぐベッコウチョウトンボ、マンションの廊下にはコワモンゴキブリ、海にはガジュマルが至るところで根を伸ばし、他にもごく当たり前にバナナが木に生っていて、浜辺の穴にはヤドカリが静かに顔を見せる。書き出せばキリが無い。  これまでに幾つかの土

          新しい宗教を創ろう #10