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心霊スポットで今からYouTuberたかしを襲撃する 13たかしへの反撃と襲撃

 さっきまで感じていたマサルに対する恐怖は一気に消し飛び、目の前で俺に対してお手製の爆弾を投げつけてくる小学生時代のたかしに対する怒りが込みあがってきた。

 今振り返ってみると、結果的にマサルという未知の存在を追い払った小学生のたかしに対して感謝すればよかったのだが、この時はそんな発想はなかった。

 むしろ、ここまでこけにされた挙句、あと数十センチ投げる方向性がずれていたら俺は殺されかかったという恐怖を誤魔化す怒りが含まれていた。

 「このガキぃい!!いてぇだろうが!!」
 
 俺の中の堪忍袋の緒が切れる音がしたと同時に咆哮し、立ち上がろうとしたら、最初に過去の時代に飛ばされたときに転んで怪我をした左肘にねちょっとした不快な感覚がした。

 みてみると、野生の動物のフンがべったりと左肘に付いてしまっていて、傷口に入って染みるような痛みが走る。
 もう、獣くさいしウンコくさいし、傷口に生暖かいウンコが刷り込んで痛いし、最悪だ!!

 おれが悶え苦しんでいる間に、小学生のたかしは筆記用具とお守りを拾い上げていたが、俺が立ち上がろうとしているのをみると引きつった顔になり一目散に逃げていく。

 俺は痛みと疲れ、そしてこのハロウィンイベントに参加してから起こった不運に対する怒りが噴火するように込みあがってくる。
 
 そもそも、ハロウィンイベントに誘った今の時代のたかしに誘われてきたんだ。
 なのに、オカルトブラザーズというわけのわからないYouTuberに追い回されたり、何度もすっ転んであちこち傷だらけになったり、昔の時代に飛ばされたりしてんだ?
 たかしがこんなイベントに誘ってきたのがそもそもの始まりじゃないか!

 俺の中のたかしに対する恨みや怒りがどんどん込みあがっていき、さっき転んだ際に木の根元に刺さっている骨切り鉈を思いっ切り引き抜く。
 そして、俺は怒りに身を任せて逃げ惑う小学生のたかしを追いかける。
 今思えば、ここで小学生時代、あの頃のたかしを追いかけたところで何の意味はないんだけど、俺は怒りで頭がいっぱいでそこまで頭が回らなかった。

 たかしのせいで、たかしのせいで、たかしのせいで!!

 俺の頭の中はそれでいっぱいになっていた。

 だが、小学生であるたかしを追いかけても追いつく気配はなかった。

 相手は小さいとはいえ、重いリュックを背負っていて走りづらいはずなのにあんなにもすばしっこいんだ?
 小学生の頃のたかしは、ビリから数えた方がいいくらいの足の遅さなのに。
 そういや、小学生の頃って少なくとも週に1回以上は体育で運動をする機会も多くて、休み時間も鬼ごっこやけいどろなどで走って運動することが多かったっけ。
 それに対して大人になった俺はとデスクワークが中心で運動する機会なんて、通勤の時に歩く程度で慢性的に運動不足だ。
 ……本気で走ったのは何年振りなんだろうな。
 更にさっきの疲労と怪我、そして爆発の際に吸い込んだ虫除けスプレーによる肺のダメージが蓄積していて思うように走れない。

 たかしはぴょんぴょんと、森の中の獣道の坂を登っていき俺を置いていく。
 そして、大きな木へ隠れていったあたりで完全に見失ってしまった。

 あたりを見渡してもたかしの姿もなく、ただ薄暗くなった森の中でひぐらしやツクツクボウシの合唱が響き渡る。
 しかも、雨が降った後のような泥濘と湿気がこもっていて歩きづらい。

 歩く度に泥がまとわりついてどんどん靴が重くなっていき、傷口がひりひりして痛みが激しくなる。

 次第に泥水が靴の中に入った感触が染み渡り、歩く度に靴下が濡れていき不快感を感じている。
 それに、思いっきり吸い込んでしまった虫除けスプレーとウンコのにおいが肺に溜まっていったのか、呼吸が苦しいし鼻が痛くて俺をこれ以上動けないように邪魔する。
 それでも怒りは抑えられず嗚咽しながらも舗装されていない獣道でたかしを探す。

 「たかしぃ、どこだ!!どこにいる!!お前のせいで」
 俺の怒鳴り声が森の中で響き渡るが、たかしからの返答はない。

 「お前のせいで!!こんな目にあったんだ!!」
 俺は骨切り鉈を振り回し、ツタや枯れ木を切って進む。
 
 しばらく歩いても小学生のたかしが見当たらない。
 だんだんあたりが暗くなっていき、見えづらくなっていくことに対して恐怖が湧いてきた。
 単純に薄暗いの森の中で歩く危険性もあるけど、いつの時代でどこにいるのかわからない状況。
 オカルトブラザーズや謎のマサル君といった得体の知れない幽霊の尊大だけでなく、野生の熊とかイノシシがいつ襲ってくるのかわからない。
 俺は本当に旧日暮村跡地にいるのか?
 閉鎖村内のストーリー内の出来事を思い出す。
 主人公たちは「2003年」「昭和50年頃」「戦時中」「江戸時代」「戦国時代」とそれぞれの時代の閉鎖村の中にある「しるしの森」に迷い込み、それぞれの時代の人間と出会う。
 はじめのうちはその時代の人間たちと出会い協力して元の時代に戻る方法を探していたが、最終的には「黄泉捨て山」落ちてしまってもう永遠に出られない。
 今まさに、ゲームの世界と同じようなことが現実で起きてしまったんだ。
 ってことは俺は2023年11月6日から2003年7月25日へ飛ばされてしまったとするなら、次は昭和50年ごろに飛ばされたのか?
 もしも、この仮説が正しければ俺は閉鎖村の末路同様に、「黄泉捨て山」へ落ちて永遠にこの森を彷徨い続けるのか?
 いや、ゲームの中では脱出できたキャラがいたはずだからきっと手がかりがあったはずだが、どうしても思い出せない。

 本当に人がいない中を彷徨っているとどうしてもネガティブなことを考えこみ過ぎて、正気を保つのが難しくなる。
 俺は恐怖や不安を押し殺すために怒りに任せて叫び歩く。
 そのうち、とうとう方向感覚がわからなくなり今自分がどこにいるのか本格的にわからなくなった。
 いったん座り込んで、リュックにあった地図や小学校の頃の夏休みの頃の自由研究で作った旧日暮村跡地に関する資料を広げるが、辺りは暗くてよく見えない。

 辛うじて懐中電灯があったので照らして場所を確認しても結局わからなかった。 
 この森に目印となる廃墟も無ければ看板も電柱も無い。 
 辛うじて、昔の人が舗装したであろう階段が眼の前にある。
 しかし、長年手入れされていないのか木製の階段にはびっしりと雑草が生い茂っていて一部ヒビが入って劣化している。

 地図をみる限り、この旧日暮村跡地には4つほど階段があるのはわかっている。
 村の中心から東側にある隣町へ通じる階段と道路
 そこから北東にあるお地蔵さんを祀っている神社へと通じる階段。
 村の中心から西側にある炭鉱へと通じる道の途中にある階段。
 そして、日暮村の由来となった【日の暮れの都姫】を祀っている日の暮神社へと通じる階段。
 俺たちが小学生の頃、テツヤの兄たち大学生のオカルト研究部から貰った資料によると、その村の神社にいた巫女である日の暮れの都姫が祟りや呪いを閉じ込めるためにこの森のどこかに結界を貼ったという伝説があった。
 はじめはこの村へ逃げ延びた平家の落ち武者を弔うために神社を立てたのが始まった。
 そこから平家にかかった呪いや祟りを取り除くために結界を貼っていたのだが、それを気に彼女の噂を聞きつけた人々が呪いや祟りを取り払うために彼女のもとへと訪れ始めた。
 しかし、次第に呪いを閉じ込める彼女に対して人々は恐れを抱くものもいれば、彼女自身に呪いをかけようとするものもいた。
 ある日、蛇をむやみに殺し大蛇の呪いを村に持ち込んだ村人を助けるために彼女が大蛇に許しを得ようとしたのだが、うまくいかなかった。

 はじめは、大蛇の怒りを鎮めるために結界を貼って大人しくしてから許しを得ようとしたが、持ち込んだ村人がうっかり蛇のしっぽを踏んだことによって大蛇が激怒。
 怒り狂った大蛇が巫女を噛みつき体の半分を飲み込みある交渉を持ち込む。 
 「この巫女を我に捧げればこの男の罪を許そう。拒めば巫女は返してやるがこの村を永遠に災いの報いを受けるだろう」
 日の暮れの都姫は大蛇の毒を中和しながらも怒りを鎮めようとしていたが、村の長が絶望し巫女を生贄にすることを了承し日の暮れの都姫を見捨てた。
 それによって大蛇は日の暮れの都姫を丸のみしてその場を立ち去っていきしばらく平和になったが、それをきっかけに彼女の結界が壊れ村に災いが振りまいたという。
 それに加えて日の暮れの都姫が蛇の化け物となって村を襲い始め、結界で太陽の光を遮ったそうだ。
 そこで、村人は日の暮れの都姫の怒りを鎮めるために彼女の弟子や隣町の霊媒師を呼び出して総出で結界を作って神社を作って奉ったのである。
 それによって彼女の怒りが収まり、太陽の光がふたたび照らされるようになったという。
 この伝説が由来となって日暮村と名付けられ、巫女の一族と弟子たちは先祖代々この村の結界と神社を守っていたとされる。
 だが、今となっては管理されておらず、彼女の子孫たちは現在いるのかはわからないそうだ。
 テツヤの兄たちオカルト研究部はそこまで調べてくれたのだが、これ以上はわからないから、20年前に俺たちを連れて調べていたんだっけ。

 恐らく、このうちのどれかの階段だとは思うけど、なにせ辺りは暗くて良く見えないので分からない。

 だがら俺は現在地の手がかりになるほんの僅かな希望を見出した事によって少し安心感を得た。

 この階段を目印にすれば、もしかしたら少なくともこの心霊スポットには出れるかもしれない。

 そう思った矢先、何やらなんだか焦げ臭いニオイが鼻に入っている事に気付いた。
 俺は広げていた荷物を急いでリュックに詰めて立ち上がり、ニオイのする方向を探すと、階段の上からほんの小さな光があることに気付いた。

 もしかしたら、誰か俺以外の誰かがいるかもしれない。
 マサルとか小学校の頃のたかしとかオカルトブラザーズの連中じゃなければいいんだけど、とにかく向かおう。
 俺は階段を上ってみると、オカルトブラザーズの川瀬に追いかけまわされたときに隠れた神社によく似た建物がある。
 いや、神社そのものだけど、昼間の時間帯で見た時よりもきちんと人の管理が行き届いていて廃墟にある神社には見えない。
 
 もしかしたら、在りし日の日暮村にあった神社の姿なのか?

 ってことは今の俺は昭和50年代にタイムスリップしたって事なのか?
 いや、懐中電灯で照らされてよく全体像が見えないし多分、あのボロボロの神社とは違う神社だろう。
 そうであってくれと心の中で祈っていると、神社の境内の隅で薪をしてぐったりしている人影を見つけた。

 


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